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エピローグ

 無事に夫婦仲が戻って一ヶ月がたった。わたしたちは子育てに専念するため、会社を辞めることにした。


 以来、和幸さんはといえば子育てにすっかり夢中で、今日も朝からおもちゃを浮かべたお風呂で子どもたちと遊んでいる。子煩悩こぼんのうなパートナーを選んで本当に良かったと心から感じる日々だ。


 一方のわたしは、秋を予感させる風が吹く駅のホームで、電車を待つ列に並んでいる。服装はもちろん厚着だ。マスクとサングラスも忘れない。


 今日もわたしたち親子が気になる人は多いようで、誰もが視線を送ってくる。まるでこの世界の主人公になった気分だ。


 空を見上げた。今日は雨が降るらしく、空は灰色の雲に塗り潰されている。天気予報通りだ。この場所でおひさまのぬくもりを感じているのは、きっとわたしだけだろう。自然と笑みがこぼれてしまう。


 電車の到着を告げるアナウンスが流れる。わたしはすっかり治った右手を手袋から出した。手汗に濡れた幸次こうじ皐月さつきが、電車の滑りこむ音に怯えて泣いている。


「怖がることないわよ」


 右手を振って二人をあやす。それを隣に並ぶ若い女性が盗み見ていた。


 今日はこの人にしようか。


 心の中で子どもたちに語りかけた。


 三十手前くらいの彼女は枝毛が多く、目の下には深いくまができていた。こういう人にこそ、おひさまの光が必要だ。


 いま、わたしがここにいる理由は、幸福のおすそわけだ。


 近年は結婚も子育てもせず、独り身を貫く人が増えてきているという。それはとても悲しくて、空しい選択だと思う。自分の子どもを育てる喜びを、わたしはもっとたくさんの人に知ってもらいたい。


 だからわたしはあの日の彼女にならい、この幸せを他人にわけ与えようと考えた。そしていつの日か彼女にもう一度出会うことがあれば、そのときは心からお礼をいいたい。


 電車がホームに停まった。暗い顔をした人たちが曇天の下に吐き出されていく。


 わたしはぬくもりに包まれながら、電車の中へ足を踏み入れた。

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