終章
桜が咲いている。
正午前、窓の外、小さな千切れ雲がぽつねんと浮かんでいるだけの晴天の下、校庭の桜並木が薄紅色に咲き乱れている。
「はーいじゃ、出席番号順に、名前と、簡単な自己紹介をしてくださーい。」
ひどく青ざめた教師が言う。
国立魔都高等学校――通称マトコウの一年十三組の担任である會逸人は、青鬼である。
『あ』から順に自己紹介していき、すぐに『た』がめぐってくる。
「種宮密矢です。趣味は絵と、ときどき書道です。あ、人間です。」
さすがに種宮家の御曹司である。堂々としたものだ。
打って変わって、後ろの席の彼ははちゃめちゃにそわそわしていた。
三日も前から、優雅に桜を眺めていられるような心境ではなかった。
椅子を鳴らして立ち上がる。
「たたっ、たにぇ、たねみあ、種宮悠吾、ですっ。」
舌をもつれさせながら、耳まで赤くしてそう言う。
(えーっとえーっと――)
噛んだせいで、考えていたセリフがすべて吹っ飛ぶ。
密矢は振り返り、笑いながら両手に握った拳を軽く上下に振って応援する。
「あれ、『バカ』の子?」
だしぬけに誰かがささやく。
「あーホントだ、『バカ』の。あの子だ。」
教室中が、悠吾を見て『バカ』『バカ』とざわつく。
入学試験の成績は全校生徒のうちで上位の十人以内に入っていたから、頭脳について言っているのではない。そもそもそんなこと、開示されていないはずだ。
悠吾は首を傾げる。
「んんん?」
入学のすこし前、魔都芸術学会の催す書道展で、密矢は金賞を受賞していた。
彼の作品は国立美術館で展示されている。
人間と異種との友好関係を表したとされ、書道展の目玉としてニュースになり、テレビや新聞で特集され、SNSでも記事になった。魔都に暮らすほとんど全員が、一度となく目にしたのである。
それは写真だった。
広い展示室の壁一面に、沢山の写真が貼りつけられている。
コトバミ退治の経過報告のために、種宮から政府へ送られていた写真だ。
肌に文字を浮かべた少年は、写真のなかで徐々に成長していき、やがて、白髪の少年が映り込みはじめる。しかつめらしいのも束の間、やがて彼らは遊びはじめる。笑いはじめる。
最も大きくプリントアウトされた最後の写真に写っているのは、最も新しい彼らだ。
白髪の少年が満面の笑みで自撮りをする隣で、上半身裸の少年が、頭だけ振り向けて、カメラにピースサインを向けている。
彼の背中に大きく雑に描かれた言葉は、『バカ』だった。
最後まで読んで下さった、きっと篤志家かあるいは猛者であろうあなたに、心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。




