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侯爵嫡男・大脱走中?

誤字報告頂きありがとうございます……!

番外編です。

 この街に来たのも随分久し振りだ……


 眼前には、丁度一年前、僕が侯爵家を脱出した時と同じ、相変わらず賑やかな街並みが続いている。 観光を楽しんでいる旅行客や、今日の夕飯の献立を吟味しながら買い物をしている家族連れ等で賑わい、人々の顔は明るい。この国が豊かである事が良く分かる。



 今日は、妹との約束を果たしに来たのだ。約一年ぶりに会う彼女は、どんなふうに成長しただろうか。

 出来れば隣でその過程を見守っていたかったのだが。  ……それを、あの人をその辺の雑草としか思っていないかのような扱いをするクソ……いや、この国の王子とか名乗る男のせいで、僕は、この国にいられなくなってしまった。


 隣国との交易については、まあ……元々そこまで活発では無かったのだし、彼方の王女は、僕が居なくとも他の伴侶を見つけるだろう。

 そして、我がリヴィドー家の跡取り問題も心配はない筈だ。


 最悪、ルルと奴の子供が継げば……………………いや、我が家系に、奴の血が混ざるのが物凄く気に入らない。もし、王子にソックリなのが産まれでもしたら……


 うっかりその未来を想像してしまい、胃が激しくザワついた。

 …………やめよう、深く考えるのは。身体に悪い。


「もうじき例のカフェテリアが見えてくる。じゃあ、また後で合流しようか、ぴーちゃん?」

『ぴっ!』


 肩に乗せた新たな相棒に話しかけると、僕の言葉に反応して、まるで相槌を打つかのようにひと声鳴いてくれる。


 妹の友人であり、僕の友人でもある彼……メル君が、妹の護衛騎士に任命された際に、相棒だったこの伝令鳥も、併せて引退する事になっていた。

 以前、僕がメル君を連れて脱出を試みた際、隙をみて、彼の懐からこの伝令鳥に使う道具一式を強奪……いや、少し、拝借させてもらっている。


 伝令鳥の仕組みは、ある特殊な鉱石を使用している。対となる鉱石を用いて共鳴させ、引き合わせる仕組みになっているらしい。

 伝令鳥の足に付けているリングの中央に小さな鉱石が嵌め込まれており、その対となるリングは、受け取り側と送り側それぞれが身につけている。


 家を出るにあたって、何も連絡をとらないままなのは心配をかけてしまう。両親は、僕を隣国へ出荷するのに大賛成の為、心情的にやり取りをしたくはないが、妹だけは唯一、僕を庇ってくれたのだ。あの子にだけは、定期的に安否を伝えておきたい。


 ただ、肝心のこのリングを妹に渡すには、どうすればよいか思案していたのだけど、しばらくダグラスの街中に潜伏し、機会を窺っている際に、タイミングの良い事に、最近、妹が幼少の頃にお世話になっていたパール商会一家が、このダグラスに居住を移したとの話を聞いた。


 どうやら、別名義でお店をオープンしたらしい。売り物も、隣国で販売している物とは全く違うものを取り扱っているようなので、関連性は疑われにくいのではないかと思う。


 夫婦は店を従業員に任せ、あまり外に出ないよう店の奥に引っ込み、経営に専念するようだ。

 本店である隣国の方は、創業当初からいる信用の置ける人物に任せているらしい。

 なにかあった時の為に、念の為、目立ないように生活をしているようで、今はのんびりと、家族の時間を大切にしているように見える。


 この店の奥さんは、かつて妹の専属侍女だった。

 妹が侯爵家を脱出して、単身行方を探しにきたぐらいだ。きっと、彼女なら情に厚い筈。

 今の僕の、この追い詰められた現状を話せば、伝令用のリングを、こっそりと妹に渡してもらえると思う。


 彼らの家を訪ねてみると、驚いた事に、突然来た僕の事を、快く迎え入れてくれたのだ。


 あたたかいお茶を頂きながら、自身の現状をかいつまんで話す。

 すると、ロブさんは心底同情してくれて、人事ではないと言わんばかりに、妙に親身になってくれたのだ。


 まるで……そう、例えば僕と同じように、他の誰かに自身の人生を捻じ曲げられた事があるかのような……


 ……………まさか、妹……いや、あの子がそんな事をする筈はない。ロブさんには“協力して貰った”と言っていたのだから。


 ナナさんの方も同じく親身になってくれ、「今までお辛かったでしょう……」と優しい表情で労りながら、温かな手料理をご馳走してくれる。随分久しぶりに気が緩まりほっとしてしまう。


 この夫妻はとても善良な方達だ。


 妹が、この二人に守られ 、健やかに過ごす事が出来て本当に良かった。


 食後のお茶を頂きながら、彼等の子供、ロイ君とトランプをして過ごす。妹のハンナちゃんは眠っており、スヤスヤと寝息をたてているから起こさないように。

 やり方を教えてあげながら一緒に遊んであげていると、夫妻は微笑ましい物を見るかのように目を細めて見守ってくれている。

 リングについても、間違いなく、妹に届けてくれる事を約束してくれた。


 時間を忘れてのんびりし過ぎてしまい、すっかり日も落ちた頃、もう今日は遅いからと一晩泊まらせてもらう事になり、懐いてくれたロイ君の隣に寝床を借り、ロブ夫妻の家族の団欒に加えて貰い、静かに眠りにつく。


 翌朝、あたたかい気持ちになりながら出発する。彼等は家の外まで出て来てくれて、手を振りながら、僕の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。


 ……なにか、旅先で素敵な品を見つけたら、彼等に贈ろうかと思う。


 それから、ダグラスを出て荷馬車を経由し、東の国を目指して2ヶ月程たった頃、ぴー号が僕の元へ来るようになった。

 どうやら妹への接触は成功したらしい。


 僕の腕に降り立ったぴー号は、お礼の餌を貰うのを、口を開きながら期待の眼差しで待っており、このコの為にと、特別に取り寄せておいた高級品の餌を鞄から取り出し、口元に運んであげると、ぴー号は目を輝かせながら丸呑みにかかった。


 とても人懐っこいとは思っていたが予想以上だ。

 妹との手紙のやり取りを続ける為に頑張ってくれているこのコに、更に高級な良い餌を与えてあげると、なんとなくだが、ぴー号の配達スピードが上がったように思う。


 僕の事もいい相棒だと思ってくれたらしい。気さくに肩や頭に乗って来てはぴょんぴょん、と陽気に飛び跳ねてくれるようになった。


 しかも、相手の言っていることを理解しているようだ。


 ぴー号には、僕の妹が如何に可愛いかを。そして、その妹に執着をする婚約者の男が、如何に最低な人物であるかを語ると、まるで相槌を打つかのように、『ぴっ!』と一声鳴いてくれるのだ。


 そして、僕の事を慰めようとしてくれているのか、肩に留まりながら寄り添い、自身の頭を、僕の頬にそっとくっつけてくれる。


 ぴー号から仄かに漂う潮の香りと、あったかいふわふわの羽毛に、荒みきった心が癒されるのを感じる。




 ……友情には、種族など関係ないのかもしれないな。



 定期的に連絡を取っていた妹とは、このやり取りが始まってから、ちょうど一年後……まさに今日、会う事が決まっている。


 妹が指定してくれたのは、貴族御用達のカフェテリアだった。この店は、予約制で完全個室になっている為、周囲を気にせず会う事が出来る。流石妹だ。抜かりない。自然と相手に気が使える彼女は、素晴らしい人間になれるだろう。


 貴族のお忍びで来たように見えるよう、軽く身なりを整えてから、先に待ち合わせの個室に通してもらう。


 室内は、ダークブラウンで統一された落ち着いた雰囲気で、装飾の施されたテーブルと椅子は紫檀で出来ているようだ。庭園の様子がよく見えるようにか、壁の一辺に大きな硝子が嵌め込まれており、季節の花々を愛でられるようになっている。


 給仕に椅子を引いてもらい、促されるまま席に付きながら、しばらくは、窓から見えるこの美しい景色をぼんやりと眺めていると、五分と経たずに、すぐ妹はやってきた。


 変装をしているようだ。

 腰までの長さがある、茶色のカツラを被りながら、顔にあっていない大きなメガネを掛けている。


 どうやら、隣国ではよくこの格好をしながら街中を歩き回っていたらしい。

「懐かしいなあ」と言いながら話す妹はとても楽しそうだ。おそらく当時の生活を思い出しているのだろう。


 妹のように派手な色合いの髪は、庶民に紛れるのが難しい。

 逆に、僕のような胡桃色ならば、数は少ないが庶民に居るにはいる。

 お陰といっていいのか、まだこの歳で、カツラのお世話にはならずに済みそうだ。


 給仕に注文を頼んでいる妹の様子をそっと窺う。一年前と違い、少し、大人の女性に近づいたルルは、品のある素敵な女性になっていた。再会した時にあった、妙に身に染み付いていた庶民らしさが今はなりを潜めており、給仕となにやら冗談を交わしながら小さくクスクスと笑っている。


 随分必死で勉強したのだろう。

 マナーについても、本人は「隣国で家庭教師から習ってたんだー!」と自信満々に話していたが、肝心な動作がすっぽ抜けており、出来としては微妙だったのだ。それが、今の様子からは全く感じられないぐらい、優雅で洗練された所作をしている。


 ……それを、アレと添い遂げる為に努力しているのだと思うと、またみぞおち辺りがムカムカとして胃酸が逆流しそうに…………いや、深く考えるのはやめておこう。せっかくの兄妹水入らずの時間なのだから。


 銀盆の上に乗せられたお茶とケーキのセットを給仕に置いてもらい、妹は、綺麗な所作で紅茶を嗜み、ケーキを一口、パクりと食べる。


 よほど美味しかったのか、にこにことしながら頬張っているのが見ていて大変可愛らしい。


 正面に座る妹の様子を観察しながら、僕も紅茶とケーキをいただく。

 久し振りに、貴族が食べるような高級な食べ物を口にしたと思う。


 最近は野営が多かったものだから、食事はすぐに食べれるよう、干し肉等の保存食を食べている。そのせいか、特に胃に沁みる。


 一年前に冒険者ギルドに登録をして、僕は今、気ままな冒険家業をしている。


 冒険者を志すものは、10代でギルドに入るものがほとんどだ。

 この歳としては登録したのが遅いくらいで、現状、僕はまだまだ駆け出しランカーだ。

 けれど、剣の扱いには自信がある。


 今は地道に依頼を受けて、ランクを上げている最中だ。

 思いのほか生活に困っておらず、自分でも驚いている。正直もっと苦労するものだと思っていたからね。


 貴族社会の煌びやかな生活しか知らなかった自分に合っているのだから驚きだ。


 ケーキを食べ終わり、紅茶を嗜みながら、妹と、お互いの近況報告に花を咲かせる。


 僕からは、文に書ききれなかった、冒険者としてのこれまでの生活を。妹からは、ここ一年であった出来事を。


 どうやら色々とあったらしく、奴の護衛騎士、テオドールが結婚式をした際に、花嫁のお腹の中に既に命が宿っていたと聞いた時には戦慄した。ついこの間産まれたそうで、柘榴色の瞳の可愛らしい女の子だったそうだが、確か花嫁は、娘ほど歳の離れた少女だった筈だ。


 ……あんなに浮いた話が一つもない、寡黙で優秀な男だったのに。

 ……恐ろしい事だ。やはり、王子という執着変態の側にいると無意識に引き摺りこまれ、その者もまた、同じく変態に成り下がってしまうのだな。


 ……妹は、影響されていないだろうか……?


 見た限りは、問題はなさそうだが……いや、大丈夫だ。妹を信じよう。それよりも、折角穏やかに過ごせているのだ。

 妹は少ない時間の中、なんとか外出許可をもらって来てくれている。余り長くは居られない。


 そういえば、護衛騎士であるメル君の姿が見えないが、どうしたのだろうか。外で待機しているのか?


 妹とのひとときを噛みしめていると、急に、ルルは落ち着かないようにそわそわとしだした。

 それから僕をじっと見つめ、眉をへにゃりと下げながら申し訳なさそうな顔をしている。

 そんな顔をしてもなお、妹は可愛い。


 いったいどうしたのだろうか?


「ルル……?」

「ごめんね、お兄様……」


 妹がそう言った途端、扉の向こうから、廊下を大勢の人間が走るような物音が聞こえてくる。その音は重く、なんとなく金属が擦れ合う音、例えば、鎧のようなものが動きに合わせて鳴る音に似ている……


 扉がバン! と勢いよく開かれ、今では視界に入るだけでイラっとくる金髪の男の姿が目に入った。


「いたぞ! ……衛兵っ! 奴を捕らえよ!」


「——ッチ!」


 椅子を蹴り倒しながらすぐに立ち上がり、庭園が映る窓硝子へ向かって走る。

 東の国にいた特殊部隊と呼ばれる組織のように両腕をクロスさせ、勢いのまま窓硝子を突き破った。


 ガシャァァアン! という硝子が派手に割れる音が聞こえるけれど、店主よ、どうか許してほしい。

 支払いは、そこの執着変態王子がするのだから。


 庭園を駆けて行き、生垣を突き抜けて繁華街へ飛び出しながら、わざと人混みの多い場所を選んで縫うように走り、先ほどの事を考える。

 ルルは「ごめんね」と謝っていた。と、言うことは……


 ……どうやら妹は、奴の毒牙にかかってしまったらしい。

 血を分けた兄妹の僕ではなく、あのド腐れ王子の味方をしてしまうだなんて。

 妹の事は、いずれ正気に戻してあげねばならない。


 ……こんな事なら、奴が婚約者になるのを反対しておけば良かった。


 奴は人の皮を被った悪魔だ。

 普通、無二の親友を他国に売り渡すような真似をするだろうか?

 ……いや、ありえないだろう。

 友人とはなんなのか、僕にとってよく考えさせられる事件だった。


 やはり、僕の真なる友人はぴー号と、このコの元相棒、メル君なのだと確信する。

 ぴー号だけは、何があっても裏切らなかった。雨の日も、風の強い日も、このコは妹への文を届け続けてくれて、僕はそんなこのコに種族を越えた親愛を感じている。


 それに、長年このコの相棒を務めていたメル君とも気が合う筈だ。妹の友人でもある彼ならば、おそらく。

 彼は、僕に対しても気取った態度を取らないところが大変好感をもてる。言いたい事をズケズケと言ってくるので、こちらも変に気負わなくて済むからね。


 ただ、自分の主には頭が上がらないらしく、そこだけは彼のマイナスポイントだと思う。

 ……まあ、幼少時に奴に拾われたから、変に恩義があるのだろう。しょうがないのかもしれない。


 あとは……マックスも、仲がいいといえばいいけれど。

 彼が学園に入学してからは、ほとんど会えていない。

 こちらも、かつてはルルを探すのに忙しかったし、王子の形をした変態と過ごす時間の方が多かったからね。


 追っ手を撹乱させるように走り続け、視界の端に見えた建物の間に入り込み、壁にぴたっと身体をくっつける。


 静かに呼吸を整えて、じっと聞き耳をたてる。しばらくして大勢の足音と鎧が擦れた金属音が通り過ぎていき、肺の空気を細く吐き出しながら、張り詰めていた緊張を解く。


「行ったか……」


 ……この国には、しばらく戻って来れそうにない。さあ、これからどうするか。


 思案していると、ある妙案が浮かぶ。


 ……良い事を思いついた。


 そろそろこの辺で、旅の仲間を増やしてはどうだろうか。メル君……彼なら、冒険者ライセンスを所持しているし、僕よりもずっと高いランク保持者だ。先程のカフェテリアには居なかったのだから、王城で待機しているのかもしれないな。


「……よし」


 彼を見つけ次第、この当てのなく、自由気ままな旅に、一緒に連れだそう。


 旅はやはり良い。

 この一年、僕の常識は何度も覆った。この感動を是非、友人であるメル君に、体験して貰わなければ。


 首元にかけたチェーンを手繰り寄せ、先端に取り付けられた笛を吹く。ピー!という甲高い音が響き、上空から大きく翼を広げながら、別行動を取っていた相棒がこちらに向かって降り立つのを、片手を伸ばして迎え入れる。


「さあ、ぴーちゃん。君の元相棒を迎えに行こうか?」

『ぴっ!』


 ピー号を肩に乗せたまま、裏路地を抜け、王城へ続く道へと向かって走り出した。





 ーー

 ーーー※





「———ひっ!」


 突然、背筋にゾワゾワとした寒気が走り、変な声が出た。


「どうしたんだ、メルク?」

「い、いや……? なんか、急に寒気が……?」


 風邪、かな……?


「そうか、まあ、最近忙しかったからな。体調に気をつけるんだぞ」

「わ、わかってるよっ!」

「ははは。じゃあ、俺は主の元に合流するよ。アルベルト様が戻ってきているらしいから」

「ん。わかった」


 背中を向けて手をひらひらさせながら、例の捕獲場所へ向かう同僚を見送っておく。


 今日は、アルベルト様を例のカフェテリアに誘い込み、捕獲する作戦が行われている。


 アルベルト様に、ボクのぴーちゃんごと伝令用品一式を強奪され、まさかの事態に愕然としていたけれど、ぴーちゃん、しばらくしたら普通に戻ってきたから、逆に吃驚したんだよね……

 脚には文の入ってる筒を付けてたから、ティア様とこっそり連絡をとるつもりのようだったし。


 でもその思惑も虚しく、実は密偵でもある侍女達の前で、ぴーちゃんは普通に降り立っていたものだから、このやり取りは、実は初日でバレている。


 今まで泳がされていた状態だ。

 このコ、結構うっかりなところがあるから、あんまり状況を気にせず飛んでくるんだよね。


 ティア様はそれでも連絡が取れるならと、一言二言簡単に書いたメモ書きと、筒一杯に、路銀やら包みに入ったちっちゃなお菓子やらを主に詰め込んでいたようだ。


 今日の作戦に当たり、ティア様は騙すようで嫌だからと反対していたけれど、王子サマに上手く言いくるめられて渋々協力することになったらしい。

 あくまでも心情に訴えかける感じでなんか言ったんだろうな。

 ……やっぱりやり口がえげつない。思考がブラック寄りなんだよねー!


 それにしても、この寒気。さっきから全然止まんないんだけど。嫌な予感しかしない。

 ……なんだかティア様と一緒にいた時に、よく感じてた寒気と似ているような……?


 急に、ギィと扉が静かに開く音がした。


「何? クロード、忘れ物でもしたわけ?」

「……」


 無言だ。なんだアイツ。

 コツコツと靴音がこちらに近寄る音が聞こえるけど。でもこの音、クロードのものとは違う。 ……誰だ?


 不気味に思いながら後ろを振り返ると……


「……メル君。迎えにきたよ」

『ぴっ!』


 胡桃色の髪のよく見知ったお方と、その肩には、久し振りに見た僕の相棒の姿が。


「うげぇ! あ、アルベルト様っ!? それに、ぴーちゃんまで!」


 流れるような動作で、アルベルト様に腕をがしっと掴まれる。


「ひっ! ちょ、ちょっと!? 離して貰えます!?」

「……メル君。僕は……思ったんだ。旅は人数が多いほど良い。二人……いや、二人と一匹で、気ままに冒険者をする。……きっと、長い人生を振り返った時、いい思い出になるんじゃないだろうか」

「い、いやいやいや!? 旅なら嫌ってほどしてきたんで、むしろもう行きたくないっていうか……それにボク、護衛騎士の仕事があるんですけどっ!?」


「…………」


「……急に無言になるのやめて貰えます?」


 その間も、ズルズルと扉に向かって連れて行かれそうになる。ボクを掴む張本人の肩にのる相棒に、縋るような視線を送るけれど……なんか様子がおかしい。

 いつもなら、あのくりっとした大きな瞳で小首を傾げてくれるのに、今のぴーちゃんは、何故だかボクを見る目付きが険しいような気が……


『ぴぎゃーーーーー!』


 両の翼をバッサバッサと広げながら、ぴーちゃんは、ボクに向かって威嚇をしてきた。


「嘘でしょ!? ぴーちゃん!?」


 ボク達、あんなに仲が良かったのに! な、なんでアルベルト様の味方なんか!


 ……ハッ! そうか……! きっと、アルベルト様、金にモノを言わせて、良い餌を与え続けたに違いない!


 扉はもう目の前だ。

 まずい、本当に連れて行かれる!


「ちょ、ちょっと! ボク、本当に行きませんからね……!」




 ————バタン。







 To Be Continued……?




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