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3-15

 例の囚われていた部屋を抜け出した、私とマリア、クロードにマックスは、出口を目指して駆けていった。

 と言っても、怪我をしている私に配慮してくれているようで、進むスピードは早歩きの様な速度だ。


 私達がいた部屋は、魔女のアジトの最深部にあったらしい。

 未だに出口は見えず、随分と長い距離を移動しているようで、私達を探してくれている時も、可能性のある部屋を片っ端から調べて回り、ようやくここまで辿り着いたのだそうだ。いつ敵が現れるかもわからないような状況で、戦いながらの移動はとても骨が折れただろう。


 薄暗く、埃っぽい通路には、クロードとマックスが倒してきた魔女のしもべ達の姿が、所々で目に入る。

 非現実的で恐ろしい光景を目の当たりにして、意識が遠のきそうになるけれど、むせかえるような濃い血の匂いが鼻腔に入る度に、これは確かに現実なのだ、と嫌でも認識させられたのだ。


 儀式という名の呪いで、見た目を作り変えられていたらしい彼等を、元の姿に戻す方法はない。 ……生きている間は。

 その命を失った時、やっと、元の姿に戻れるのだそうだ。


 血溜まりにうつ伏せになりながら事切れている彼等は、皆揃ったように同じ服を着せられている。

 けれど、呪いが解けたからだろうか。顔が先程見た時とは全くの別人となっていたのだ。


 鏡合わせのように、どこかフランス人形を彷彿とさせる、端正だった筈の顔立ちは、無骨で粗野な荒くれ者といった感じの顔に変わっている。

 これが、本来の彼等の顔なのだろう。


「顔が……」

「……ええ。きっと儀式での力が解けたから、本来の顔に戻ったのね」


 私の思った事を肯定するように、淡々と、マリアは事実を話す。

 彼女にとっては見慣れた光景なのだろう。けれどずっと昔、彼女が魔女だった頃、自身を信じ、祈りを捧げていたしもべ達の事をとても大事にしていたのだと言っていたから、無残に床に転がる骸の姿を、彼女は眉を歪めながら、痛ましそうに見つめていた。


 私達の話が聞こえたらしい。しんがりを務めるマックスが、会話に混ざってきた。


「そうそう! こいつらを倒した時、顔が急に崩れてさあ! 中から全然違う顔が出てきてビックリしたんだぜっ! な、会長?」

「ああ、とても驚いたよ。見たところ、元々彼等はならず者だったみたいだね。中には手配書で見た顔もあったから目を疑ったよ。彼等を服従させられるだなんてね……異能者の力はこれ程までに強力なようだね」

「そう、なんですね……」


 廊下を駆けていきながら、私はかつての彼女に思いを馳せていた。


 深窓の令嬢で、どこか儚い雰囲気を持つ、本を読むのが大好きな、綺麗で優しいお嬢様。


 そんな彼女だけでは、定期的に生贄を調達するのは難しかっただろう。だから、居なくなっても誰にも気にとめられないようなゴロツキや、ならず者達を少しずつ集め、その規模を増やしていったのだろうか。


 彼女はこの世界で生きる為に他人の命を奪い続ける。彼女にとっては、食事をするのと同じくらい、当たり前の行為なのかもしれない。


 でも、こんなのは間違っている。

 このしもべだった人達にだって、家族や恋人が居たかもしれないのに。

 誰かの人生を刈り取って、自分だけが生きられればいいだなんて事を、もし彼女が思っているのなら、なんとしてでも辞めさせなくっちゃいけない。


 シルビアちゃんに、これ以上罪を重ねてほしくない。だから、ここでもし彼女に会えたら話してみよう。彼女は私の大事な友人なのだから。今でも、その気持ちだけは変わらない。 ……たとえ彼女が、私の事をどう思っていようとも。


 そんな風に思っていたからだろうか。出口と思われる扉の前で、誰かが佇んでいるのが見えたのだ。


 反響する足音が聞こえたからか、その人物は、私達の存在に気づいたようだった。


 とても綺麗な色を持っているその人は、鮮やかな金糸に、ルビーのような真っ赤な瞳の、私の大好きだったご令嬢。


「……ティアちゃん。待っていたわ?」


 ——伯爵令嬢、シルビア・スカーレット。


 血に染まったドレスを身に纏いながら、彼女は私達を見て、優雅に微笑んだのだ。

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