表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/66

2-7

 七歳になった。


 今では私達のお店は、隣国のいたる所に手を広げている。

 地道に石鹸の販売を続けていたところ、口コミでじわじわと売れる様になってきたのだ。最近では手が回らなくなってきた為、近隣の皆さんにも手伝って貰って、隣国の各所で販売を行う事になったのだ。


 石鹸の売り上げ何%かは彼等に日当として渡しているので、彼等もその日のうちに、普段は行かないような屋台や、お店での買い物が出来るようになり、少しだけ贅沢が出来る暮らしになったのだ。


 金銭に余裕ができると心にゆとりが出来る。

 なんとなくだけど、彼等の表情が、日々の切羽詰まったものから、優しい柔和なものになってきたように思う。


 それと、偶にこの地を訪れる商人が、私達のお店に立ち寄ってくれ、他所で売る為に大量に石鹸を仕入れてくれたりするので、その分の収益も大いに期待できるのだ。


 石鹸作りについては、一応私とナナ、ロブ青年の三人で地道に行っている為、生産が追いつかなくなりそうな不安があるにはある。


 こちらの方も、近隣の皆さんに協力してもらう、というのもアリだけど、「もう少し人柄を見極めたい」と言うロブ青年の提案を受けて、今は様子見をしている状況だ。


 多分、近隣の皆さんなら大丈夫だとは思うけど、独占販売をしている現状、万が一、製法が漏れたら困るのもある。なので、そこは一応保険だ。


 人を見る目がある彼の言う事なので、まあ確かに一理あるなと思いながら、現状は、身内の三人だけでの制作に留めているのだった。


 販売方法についても、出来る事はとにかくなんでもやった。

 例えば、400円のものを399円で売るといったような、定価から一円下げただけなのに、なんか安く見える気がする家電量販店的作戦や、本当に売りたい物の隣に、わざとよく似た品質かつ値段の高い商品を置いておき、対比で安い方がお得に見えて買っちゃう作戦などだ。


 私がそれらを提案する度に、ロブ青年は「いやあー! お嬢様の考える作戦は毎回エグくて参考になります!」と、相変わらず失礼な事をいい笑顔で言ってきたので、私は無言で彼に近寄り、太腿へ手首のスナップのきいた平手打ちをお見舞いしておいた。


 少しずつだが、この町の景気が良くなってきているのを肌で感じているのだ。

 思いつきで始まったこの事業だけれど、少しだけ、街に活気を与える事が出来たのだ。私でも誰かの為に役立てたのだとしたら嬉しい。


 景気が良くなったお陰なのか、治安も良くなってきたようなので、私は今、お家のお手伝いと称して、小さな屋台の方で販売をしているのだ。


 少し離れた所では同じく屋台をだしているロブ青年がいる為、一応大人の目があるので何かあっても安心だ。


 最初に露店販売をした地区であるここは、他の地区に比べると小さなお子さんが多い印象なので、私とロブ青年の出している屋台では、石鹸と共に、ちびっこ向けにクッキーやマフィン等の簡単なお菓子も販売している。


 ちびっこでもお小遣いで買えそうな良心的価格で売りに出している為、私は、お小遣いを握ってお菓子を買いに来てくれるちびっこ達の相手をしているところだ。


 もちろん、真面目に買ってくれるちびっこもいるが、中にはお小遣いを持っていない子供もいたりする訳で、そんな子達が、なんとかしてお菓子をゲットしようと知恵を絞って、何度もこちらに来る根性は地味にすごいなと、変に感心してしまう自分がいる。


 なんとなくだけど、そういった子の方がコミュ強な気がするのだ。

 しかも、彼等は私に親しみを感じてくれているようで、私が屋台をやっているのに気づくと、偽名である『ティア』と呼んでくれては、ちょこちょこ遊びに来てくれるのだけど、毎回立ち寄っては「味見させて!」とお菓子を強奪しようとしてくるのだ。


 その度に商品だからと突っぱねるけど、「友達だからいいじゃん」等という超理論を放つため、近頃は“お前のものは俺のもの”などと言いそうなガキ大将に見えて仕方がない。


 ……正直、距離を置いた方がいいような気がしてならないけれど、いやいや彼らはまだ子供。

 きっと、お金の仕組みをよく知らないだけなのだろう。


 なので、世の中の常識というものを彼等に教えてあげるのも、精神大人の私の務めかもしれないわね……!


 そう思っていると、ちょうど、お菓子を強請る三人組のちびっこ達が私の方の屋台に来た。懲りずに今日も「味見させて!」と強請ってきたこの子達に教えてあげるべく、私は口を開いた。


 ここは良くわかるように、優しく諭してあげなければ!


「いいか坊主ども。友達だからって、なんでも貰えると思ったら大間違いだぞ。こっちは商売でやってんだ。欲しければ、母ちゃん連れて出直してきな」


「なんだよティアのけちー!」

「いいじゃん少しぐらいー!」

「ばーか、ばーか!」


 ……ちびっこーーーー! ゆるさんぞーーー!!!!


「うがああああ!!」


「わあー! ティアが怒ったぞー!」

「逃げろー!」

「きゃー! きゃー!」


 全速力で逃げるちびっこ達の後を追うべく、同じく私も全速力で追いかけていった。

 その光景を呆れたように眺めるロブ青年の姿が見えたので、屋台は彼に任せる事にしようと思う。


 頼んだぞ! ロブ青年!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ