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妄想の帝国 健康管理社会

妄想の帝国 その12 健康管理社会 健全お花見大作戦、飲酒強要、一気飲みは取り締まちゃうぞ

作者: 天城冴

桜の時期恒例の花見。全国各地で宴席が開かれる中、飲酒関連の事故、犯罪も多発。この事態を憂いた健康警察は花見の見回りをはじめ、犯罪を未然に防ぐことに…

増大する一方の医療費削減のため政府はある決定を行った。

“健康絶対促進法”の設立である。健康維持のため、あらゆる不健康な行動、食生活や生活習慣などを禁止するという法案である。個人の権利を侵害するとして反対もあったが

“政府に健康にしてもらえるんだからいいじゃん”

“自分の不摂生で病気になるやつのために医療費を払いたくない”

などの法案賛成の意見が多数あり、法案は可決された。

そして、不健康行動を取り締まる“健康警察”が設置された。

健康警察の活動は次第に拡大し、不健康を生じる組織、企業までが、取り締まりの対象となり、それに伴い違反者の裁判、収容、更生を担う健康検察や健康管理収容所などの組織が作られていった。やがて国民の理解や支持を得てゆき健康絶対促進法関連の組織は次第に権限を増していくことになった。

 健康警察そしてその関連組織は、政府すら無視できない大きな勢力となりつつあった。


「うわあ、キレイ」

「今年も満開だ、いい場所を取れてよかった」

春の初めのとある桜の名所。ニホンの春先の恒例行事、お花見の大宴会が公的にも私的にもあちこちで開催されていたが、今年はちと様子が違っていた。


「さあ、これを飲んで(ふふふ、これで酔わせて、この子をマンション、いや昇進の相談と言って役員室に)」

と、花見にかこつけて女性社員に強い酒を飲ませる中年男性役員、意識が朦朧としている若い女性社員。他の社員は少し離れた場所で楽しく飲んでいて、役員の犯罪行為に気が付かない。許しがたい行いではあるが、いままでのニホンなら心身ともに不健康な司法制度のおかげで役員はお咎めなし~、国際世論とオヤジ以外の大批判を浴びる、となるところであったが。

「はい、現行犯、一人」

中年男性役員の酒瓶をとる手をがっちり掴む手。その手の腕章には

「わー健康警察!」

「我々は健康警察、期間限定お花見見回り隊だ!お花見の宴会にかこつけて、不健康行為を行う人物を取り締まっている。女性を酔わせて強姦しようとは、心身ともに不健康の証、即連行」

「そ、そんなあ、あなたも男性ならわかるでしょう、酔って、いい雰囲気に~」

「はあ?お前みたいな変態と一緒にすんな!お前のような奴のせいで俺たちマトモな男は大迷惑だ!ニホン男は痴漢、強姦、変態だと思われて、声をかけるのも犯罪扱いだ!第一、相手が泥酔状態でいい雰囲気なんてよく言えるな!」

見回り隊隊員の指す先には、先ほどの女性が他の医療介護担当隊員に介抱されながら嘔吐している様子がみえる。

「いやあ、その酒が弱い子で、その」

「なら飲ませるな。だいたい彼女が死んだら、間接的不健康殺人の罪も加わるぞ」

「そ、そんな、そんなつもりは」

「アルコールの一定以上の摂取は害になるとテレビでも放映、会社役員が知らないとは言わせんぞ、今のニホンでは不健康の元になる害を知っておくのは上に立つ者の常識。知らないというなら…」

「わー、会社名を出すのだけはー、お、叔父さんに追い出されるー」

「はあ、やはり世襲のお身内役員か。どっちにしろ、もう他の役員には連絡はいってるよ」

隊員が呆れながら社員たちのほうを見ると、すでに宴会は中止。苦々しい様子でこちらを見る初老の男性、おそらく社長が社員たちに帰宅の指示を出しているようだ。社員のほうは、役員の横暴にうんざりしていたようで、いそいそと帰り支度を始めた。特に女性陣は“やったー!これから友達とお花見”とスマートフォンで早速つぎの予定を淹れているものまでいた。

「くう、な、なんで今年は」

「今まで、散々そんなことをやっていたのか」

「わあ、しまった、つい口が」

「まったく、トンデモナイ身内がいて、あの社長も大変だな。もっとも野放しにしておく方も悪い。あの社長にもいずれ話を聞くが、まずはお前だ、さあ、いくぞ」

と強姦未遂男性は隊員に連行されていった。


一方、とある大学サークルの宴席。

「さあ、伝統の一気飲みを」

と、新入生を半ば羽交い絞めにして酒を強要しようとする男子学生たち。その頭上から

「はい、おしまい」

女性の声が聞こえたかと思うと、男子学生たちは襟首をつかまれ、放り投げられ、つぎつぎと側に停車していた黒塗りで窓に鉄格子が嵌った大型車に押し込められる。

「ぎゃああ、何を」

「ほほほ、未成年に酒を強要、急性アルコール中毒で死に至らしめようとした犯罪をとめただけよー。だいたい、あなた方、サークル幹部は去年もそういうことをやってたわね。反省もなしで悪質ってことで」

「こ、これは伝統―」

「あーら、設立から30年ぐらいでしょ、このサークル。それで伝統っていえるの?しかも人の健康を害し、命に係わる伝統なんて廃止すべきって学校で習わなかった。ほんとにちゃんと講義出てるの?健康管理関連法は理系だろうが文系だろうが習うはずなんだけど」

「そ、そのう、ぼ、ぼくら3年だし」

「あー、もうすぐ就活ね。でもそんなことも知らないんじゃ、今は就職も危ういわねえ」

「ううう、大学には、その」

「あなた方の態度次第でしょうね。まあ残った人の供述もしっかりとるから。あ、前のように裏で手を回そうっていうのは無駄よ」

「え?」

「いやあ、もう政治家だの、通常警察のお偉方に頼るのは無理なのよ、ふふふ」

「そ、そんな」

「さて、我々も乱暴なことはしたくないから、大人しくしてて。あ、残りの人は続けてていいわよ」

と、悪質サークル幹部を車に収容した女性隊員たちは静かに去っていった。

 残された学生たちは

「あー、どうする」

「せっかくだから続けようよ。でも酒はもういいや」

「そうだね、あ、桜のお菓子とか、お弁当とか」

「花見なんだから花を愛でながら菓子でも食おうぜ。俺、ほんとは桜餅とかそういう甘いののほうがいいんだ」

「あ、桜の生菓子ならもってきたよ、でも幹部の人がさ、酒にあわないって」

「ったく、嫌な奴等だ、捕まってよかったよ。俺らだけでも楽しもうか」

「そだねー。ほんとはあの人ら苦手だったから。いなくなってよかったかも」

静かに楽しく花見を続けていた。


「いやあ、今年は救急車の出動も喧嘩騒ぎも無く静かですなあ」

と、緑茶をうまそうにすすりつつ、話しているのは健康検察特別検事ヨウジョウ・ダイジ。

「隊員たちが頑張ってますからね。酔っ払いをみつけて即病院へ、女性や未成年への飲酒強要は即連行。おかげで平和に花見が楽しめます」

とヨウジョウに答えるのは健康警察お花見見守り隊隊長。

「しかし、これだけ大規模な見守りですと、かなりの予算が」

「ああ、それなら大丈夫。貴方達の着用しているスーツの会社がモニター代をはずんでくれましたし。健康管理関連法関連の組織は独立できるほどの資金源がありますからねえ。収容所の矯正治療の研究成果も高い評価で、実用化されたものもあるんですよ。今日収容された人々も研究に役立ってくれるでしょう」

「なぜ女性とマトモに付き合えないかっていうのは、結構いい研究になりそうですね、確かに」

「ほかにもアルコール依存になぜなるかなどいろいろありそうです。まあ健康は世界的に関心が高いですからなあ、特に富裕層には」

「そうか、金持ち連中が、自分や家族の健康に過ごすために研究成果に注目してるってことですか、それで資金獲得ができると」

「まあ研究成果なども高く売れてるんですよ、実は」

「へえ、道理で政治家連中から変な横やりが入りにくいわけですね、独立した資金源があるから。他の金持ちのための研究が資金源ってのが、ちょっと悔しいですけど」

「金持ちのためだけってわけではありませんよ。あなた方にも研究成果ちゃんと間接的にも還元されてますし」

「そうですね、俺らも健康になってますし。第一、資金が豊富ってことで隊員を増やして、その隊員たちにも休暇と楽しむ報酬も払える。あ、そろそろ交代なんでいってきます」

「いってらっしゃい。頑張ってくださいね。本当にみなが楽しめる健全なお花見のために」

「もちろん。ヨウジョウさんも」

「はい、次の人のためにお菓子とお弁当用意しときますから。あ、お酒も少しなら」

「適度なら飲酒はいい、度を越したら駄目ですね」

「そうそう」

にこやかに笑いながら任務に向かう隊長をヨウジョウは静かに見送っていた。頭上の桜はいつもより美しく咲いていた。まるで楽しく穏やかな花見の席を喜んでいるように春の夜風に静かに花びらをゆらしていた。


楽しい花見の時期ですが、お酒はほどほどに。くれぐれも酒の飲みすぎなどにはご注意を。

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[一言] 心身共に健康的な花見をしたいものですね
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