魔王城道中
最終章突入です。もう少しですのでお付きあいくださると嬉しいです。
「なんかあれですね、マヒルさんの歩く音、巨人族みたいですね」
ヒイリはそう言うが正直否定出来ない。私の装備してる武具は本来歩くどころか立つ事さえ、いや、着る事さえ不可能な重さだから。
土を踏めば沈むし、石を踏めば砕ける。沼地なんて入ったらもう出てこれないくらいに沈んでしまうんじゃないだろうか。
「巨人族なんて見た事にゃあよ、神代で絶滅したって聞いとおし」
「あはは、もし居たらこんなかなって」
「うー……もっと別の話題はにゃあの?」
今、私達は魔王城に向かっている。近くまでは馬車を出してもらい、降りた先で装備を着けて今に至る。こんなの着てたら馬車なんて乗れない。
魔王城付近が地盤の安定した場所で良かった、沼地じゃなくて本当に良かった。
「あはは、すみません。マヒルさんのフル装備状態があまりにもインパクトがあるもので」
「ヒイリが用意したんじゃにゃあかー!もー!」
「ここまでしないと勝負にもならないと思ったもので」
「それは…まぁにゃ……アサヒ強いからにゃあ」
アサヒが倒したモンスターの能力を使うのであれば今はどんな強さになっているのだろうか、勝てる気はしないけど、負けたく無い。
私が好きになったアサヒの強さは…そういうのじゃない。
もっと、毎朝昇る太陽の様な、暖かい強さだった。
魔王城までの道のりは岩山の間を縫う様に進むものだった。
私が先に進み、ヒイリが援護してくれる。
道中モンスターも現れるが、大した脅威にはならなかった。
敵の攻撃を正面から受け、力で粉砕する。これこそが圧倒的な質量が為せる力業。
「順調ですね、斧を振り回すマヒルさんが鋼鉄の風車みたいに見えてしまいますよ」
「ん…順調…とはいかにゃあみてゃーよ」
「え?」
「この先の岩影から強い気配を感じるに」
私の直感が告げる、ヤバい奴が居る、と。
「それって…」
「たぶん…小魔王。アサヒも全部を倒し終えた訳じゃあにゃあみてゃーね」
私がそう言うと、岩影からその気配の主が姿を現す。
ゴブリン?にしては大きい、私と同じくらいの背丈がある。
赤い帽子に鉄の靴、あれは…レッドキャップだ。いや、レッドキャップにしたってあのサイズはなかなかいないだろう。手には斧を持っていた。
「オマエ、ドウホウゴロシノ、ナカマカ?」
「喋った!?同胞殺しって…アサヒの事かにゃ?」
「コタエロ、ナカマカ?」
「だ!仲間やに!」
「ヨシ、コロス」
次の瞬間、驚く程の早さでレッドキャップが駆けてくる。
鉄の靴なんて重いだろうに、金属音を響かせながら一瞬の間に間合いを詰めてきた。そして振り上げた斧を私に向かって真っ直ぐ振り下ろす。
レッドキャップの斧は片手持ちの手斧だ、それなのにその一撃は異様に重かった。私の斧、オンパロスで受けたが手がビリビリと痺れる。
これは純粋に膂力による攻撃力、小細工抜きの接近戦を仕掛けてくるタイプの小魔王、私と同じ戦闘スタイルの敵、戦闘種族ライオルトとしての血が騒ぐのを感じた。
「ふ、ふふ、ははははは!面白いに!いざ尋常に勝負!」
「オレノイチゲキ、ウケラレタ、クカ、カカカカカカ!」
お互いに笑い合うがその目は敵を前にした戦士の眼光を宿す。
次の撃ち合いに備え相手から目を離さない。
先に動いたのはレッドキャップの方だった、小振りな手斧は切り返しが早く、腕を鞭の様にしならせて乱打を浴びせてくる。
流石に私の大振りな斧では対応仕切れずに鎧で受ける事になり火花が散る。
僅かな隙をつきオンパロスを振ると、レッドキャップは身軽さを活かし後方へと回避する。
しかし超質量のオンパロスが産む衝撃波までは避けれない、お互いに決め手に欠け、ダメージを蓄積させる撃ち合いが続いた。
一人でも小魔王と渡り合えている、私はここまで強くなれた、一人でも小魔王と互角。
でも、私は…一人じゃない!
相手の隙を付き何度目かのオンパロスを振る、軸足を効かせ、分かりやすく大きく振り抜くとレッドキャップもそれを大きくかわし、私の隙を付いて接近してくる。
しかしそれこそが狙い、私は元々タイマンを仕掛けている気など無い。
「アウラポッド!」
ヒイリの魔法、大気の障壁がレッドキャップの攻撃の勢いを殺す。
私はダメージ覚悟で前へと足を踏み込む。後はヒイリの力を信じるだけで私の勝ちだ。
「んん……なあああああ!!」
紫電一閃、いや、雷轟一閃の一撃と言ってくれた方がしっくりくる。
響く金属音、渾身の力を込めた私の戦斧はレッドキャップの手斧を粉砕した。
別に相手の武器を狙った訳では無い、とっさに防御されたのだ。流石小魔王、戦闘センスは敵ながら見事なものだった。
…それでも、今回は私の勝ちだ。
「まだやるに?」
「…マケ、ミトメル」
「にゃ?意外とあっさりしとぉにゃ」
「マダ、シネナイ」
「んー、じゃあアサヒを狙うの止めたら見逃すに」
「ホンマツ、テントウダナ。…カワリニ、コレデタノム」
レッドキャップはそう言うと自分の鉄靴を私に差し出す。
「オレノ、テヅクリ」
私の直感スキルで何となく分かる、あの靴は非常に優れた一品だ。…でもモンスターの装備を使うっていうのもどうなんだろうか。
私は自分の鎧の具足を外すと、代わりにレッドキャップの鉄靴を履いてみる。
これは…鉄の靴に大地の魔力が刻まれている、それなのに驚くほど軽い、いや違う、軽く感じるのは靴だけじゃない、鎧も斧も前より軽く感じる。
それは魔力を込める程、より顕著になる。自分の筋力が向上してる?なるほど、レッドキャップが鉄靴なのに素早く動けるのはこれのおかげだったのか。
「も、もらっておくに。代わりに私の具足あげようか?」
「クカカ、モラッテオク」
そう言うとレッドキャップは私の具足を履いていってしまった。あれを履いて歩けるなら大地の魔力持ち、ランクもかなり高そうだ。
レッドキャップは魔王城に向かって歩いていく。私はそれを見送った後、あることに気付いた。…行き先は同じであると。
「待つにゃああ!私も一緒に行くに!」
戦ってみて分かった、レッドキャップはアサヒには勝てないだろう。
でもほかっておくのも心配だ、近くで見張っておきたい。
小魔王のアカボウです。忘れられてないか心配ですが、シンヤの初期パーティーの一人です。
仲間になったわけではありませんが少しだけ行動を共にします。




