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伝説の魔物使いが死んだ後の世界がマジでヤバい  作者: しら玉草
第5章:プロミネンスソウル
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VSレッドドラゴンその後

ここからはマヒルが主人公となります。


 冒険者ギルドで報酬を受け取る、でも多分…私にはこのお金は使えない。

 これはアサヒとの手切れ金の様に感じてしまうから。


 英雄だ、勇者だと持てはやされる。でも喜べる訳が無い。

 私は何も出来なかった、全部アサヒが1人でやったのだ。アサヒに…私は必要無いのだ。




 ライオルト族最強の父を持ち、私は強さに恵まれた。

 父が亡くなり、父が持っていた戦斧を譲り受け、闘志を燃やした。

 父を超え、私こそがライオルト族最強を掲げる存在になると誓った。


 それが…蓋を開けてみればこの有り様だ。

 父の戦斧を失い、愛する人は去り、闘志なんてもう湧いて来ない。

 結局私は平凡な存在で、特別な存在だったのはアサヒで、そのアサヒと一緒に居て自分も特別になった気でいただけじゃないか。



 情けなくて涙が滲んでくる。そんな情けない自分を見られるのが堪えられず宿まで走る、部屋に籠り泣いた、涙が止まらない。


 時折ヒイリが部屋の前まで来て声を掛けてくれるが会わせる顔が無い。

 私の宿泊費はヒイリがまとめて渡してあるらしい、気が済むまで休んで欲しいと言われた。ヒイリも…辛いはずなのに。


 何日過ぎただろうか、ヒイリは数日来ない事もあったため呆れられたのかと思っていたが、それでもたまにやってきては声を掛けてくれる。




 そして、この日の会話は、いつもと少しだけ違った。

 部屋の扉越しに話すヒイリは少し言い淀んだ後、意を決して言葉を紡ぐ。


「あの…マヒルさん、知ってますか?最近小魔王が次々と討伐されているそうです」


「………」


「名乗らず、報酬も受け取らない。でも、そんなことが出来る人って…」


「……アサ…ヒ?」


「確証は有りませんが、僕はアサヒさん以外には思い付きません」


「やっぱり…アサヒは1人で良いみてゃーじゃにゃーか。私なんて居にゃあでも…アサヒは英雄になれるんに」


「いえ…それが、とても英雄と呼べる者では無いそうです。近隣の村等への被害を考えず、ただ派手に戦い、荒らして行くそうで、まだ死人は出ていないものの、崩壊した村もある、と」


「え!そんな…アサヒがそんなことするはずにゃあ!」


「小魔王のゴーレムを倒した後、その人物は魔王城の方角へ消えた、なんていう報告も有って、新しい魔王だなんて言う人もいます。言う事を聞かない小魔王達を駆逐して再び魔王城に君臨したに違いない…って」


「アサヒが魔王な訳……あれ?魔王?魔王って確か…」


「そうです。アサヒさんの中に居ます」


「……もしかして」


「多分、僕も同じ事を考えています。アサヒさんが僕達を置いて行くとは思えません」


「アサヒ本人の意思で去って行った訳じゃにゃあってこと…なのかにゃ」



「で、マヒルさんはどうするんですか?」


「にゃ?」


「僕が宿に渡したお金、今日の分までなんです。追加料金払いますか?」


「いらにゃあよ!」


 私は部屋の扉を力強く開け放つと笑顔のヒイリがそこに居た。


「良かったです。せっかく集めた装備が無駄になるところでした」


「装備?」


「魔王城に乗り込む為のマヒルさんの装備ですよ。調える為に小魔王戦の報酬ほとんど使っちゃいましたからね。ここ数日あちこち駆け回ってたんですよ」


 なんと、私が塞ぎ込んでいる間ヒイリは私の復活を信じてたなんて…。


「ありがとーに!さっさく見せてもらえにゃあか!?」


「あ、いえ、ここじゃ無理です。床が抜けます。というか宿が崩壊します」


「にゃ?」


「全部大地の魔術武装なので総重量がヤバいんですよ」


「にゃにゃ!?」




 ……… ……… …… …




 町外れの草原まで来た後、ヒイリは魔術道具のティタンポケットを腰から取り外す。形状はウエストポーチなのだが大気の魔力を通す事で空間が拡張されてどんなサイズの物でも収納可能な便利アイテムだ。


 ヒイリがティタンポケットを逆さまにして振ると次々と武器防具が地面に落ちていく、というより、地面にめり込んでいく。

 戦斧、ヘルム、プレートアーマー、ガントレット、その全てが大地の魔術武装だと言うのだから驚きだ。大地の魔術武装はただでさえ過剰な質量を持った超重量装備なのに、ここにある装備の装甲は異様に分厚い。



 戦斧なんて前の私の戦斧よりも遥かに大きい。柄の長さは3メートルは有りそうだ。先端に付いた刃だけでも刃渡り1メートルは有るんじゃないだろうか。

 持ち上げてみると魔力ランクの上がった今の私ですらずっしりと重い。


「こ、こんなのどこで見つけたに…」


「それ、ライオルト族の秘宝らしいですよ。マヒルさんの事話して100万カッパー積み上げたら貸してくれました。えーと…振れるもんなら振ってみろ!お前の親父さんでも振れなかった斧だ!…って伝えてくれって」


「ライオルトの里に…こんなのあったなんて…」


「オンパロスって呼んでるみたいですよ」



 おっとおでも使えなかった斧…オンパロスを腰の位置に構え、横凪ぎに振ってみる。

 空を裂いただけで大気が震え、衝撃波が起こる。


「振れる…おっとおでも振れにゃあ斧を…私は」


「そうです。マヒルさんはもう父親を超えてるんですよ」


「私…が?」


「はい!その斧でアサヒさんの心を叩き起こしてあげてください!」


「そっか、アサヒと…戦う事になるんにゃね」


「そうですね、正直勝てる気はしないです。あ、そうだ、その斧、伝承では大地に突き立てて魔力を流すと何か起こるらしいですよ」


「にゃにゃ!?た、試しておくべきかにゃ…」



 私はオンパロスの柄の先端を地面に突き立て、魔力を込める。

 念のため、かなり弱めにやってみたが周辺の空間が揺らいだのを感じてすぐに止めた。

 いったい何が起きたのだろうか、辺りを見渡すとヒイリが転んでいる。


「マ、マヒルさん…今の何ですか…斧の方に引っ張られて…」


「にゃ?」


 よく見たら周辺の岩や地面に置いた防具等がこっちに少し寄ってきている。


「……これ何にゃああ!?」


「もしかして…引力?質量の大きな物体は引力も大きいものですが…大地の引力と同期して大きな引力を生んでいるのでは…」


「ん?つまり?」


「相手を自分の近くに引き寄せる能力ってことですよ」


「おお!飛んどお相手も落とせるし間合いも詰めれるってことに!?」




 私は残りの装備も身に纏うとオンパロスを高く掲げた。


「さぁ!次の目的地は魔王城にゃあ!」


 全身を大地の魔術武装で固めた私の重さで地面が凹むのを感じた。



「マヒルさんの今の体重凄そうですね」


「重いのは私じゃにゃあて装備にゃー!」



第5章終了です。ちょっと早めですね。

次は最終章となります。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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