伝説の魔物使い9
今回でモンスターパレードは終了です。
シンヤの話の結末となります。
テオテスカが誇るこの国最大の公園、それは全てに石畳が敷かれ、真ん中には巨大な噴水が有り、園内にはオープンカフェまで建っている。
綺麗な花に囲まれたこの公園で飲むコーヒーはさぞ美味しいことだろう。
招待された公園は日本の公園とは随分とイメージの違う場所で少々驚いた。
今日は立食パーティーという事でたくさんのテーブルが置かれ、大きな円テーブルに次々と料理が置かれていく。
バイキング形式で好きなだけ食べて良いと言われ正直テンションが上がる。
テーブルに並べられた料理はどれも豪華で、肉料理なんて何の肉で何のソースがかかってるのかさっぱり分からないが、それが贅を凝らした一級品であることは見た目で窺える。
肉なんて普段は硬い干し肉を齧っているため、噛んだらほぐれて溶けそうな柔らかそうな肉を目の前にし生唾を飲み込む。
サラダも溢れんばかりの瑞々しさで太陽の光を反射する、野菜も普段はモンスター達と一緒に筋ばった野草を齧っている身としてはもう堪らない。
色取り取りのジュース、そしてお洒落なグラスに注がれた葡萄酒!
飲み物だって普段は水だ、というか水すら貴重品で川の水を煮沸して飲み水にしていた。
これが…、これこそが上流階級の人間の食事!
俺だけが人間として英雄になればこんな食事が毎日食べられるのかもしれない。
それにもしかしたら勇者はモテるかもしれないし、そしたら…念願だった血の繋がった家族だって手に入る、かも…しれない。
しかし、それでも俺は…モンスター達を、仲間を置き去りには出来ない。
俺の今の家族は…あいつらだから。
その時、ふと…アーミャに貰った骨の笛が震えた気がした。
今のが…魔力?…まぁ、今はどうでもいいか、もう戦う事は無いんだから。
当たり前だが、公園には俺以外にもたくさんの人が来ていた。
貴族の様な格好の人、商人の様な格好の人、平民も少しだけ居た。
みんな代わる代わる俺に挨拶に来る、貴族や商人は俺と繋がりを持っておきたいのだろう。
貴族なら勇者と懇意にしていれば箔が付くし、商人は俺が手に入れた物等を卸して欲しいらしい。そりゃ俺はどこでも行けるから魅力的だろうな。
女性も寄って来る、きらびやかなドレスに身を包んだ美女達。それは今までの俺ではとうていお話も出来ないような人達に違いない。
あまり女性と…というか、ここ最近は人とすら話してなかった俺は緊張のあまり話した内容はよく覚えていない。
そして平民は抽選でここに来れるかどうかが決まったらしい。
皆口々にパレードの感想を言ってくれた。「感動した!」「またやって欲しい!」と熱の入った笑顔で言われるものだからまたやりたくなってきてしまう。
次やれる機会があるのならもう少し練習させておこう。
その後に来たのが王様の近衛兵だと言う兵士が二人ほど。
この場所を護衛する為、そして俺に王様からの伝言を伝える為に俺の所に来たと言う。
「申し訳ありませんが王様は御多忙でここに来るのが少々遅れております。それについての謝罪を伝えてくれ、と言われまして。先に食事を楽しんでいて欲しい。との事です」
「ん、分かったよ。伝言有り難う。王様とは土地についてちゃんと話さないといけないしね。ゆっくり待たせてもらうよ。正直お腹が空いちゃってね」
「そうですね、遠慮せずに食べてください。料理はたくさんありますので。では我々は公園の警備に回りますゆえ、何かありましたら声をかけてください」
そう言うと兵士達は公園の端の方へと歩いていってしまった。
と、なればようやく食事の時間だ。
というか仲間達は既に食べ始めていた、全くもって自由な奴らだ。
オグリは女性陣から大人気だった。まぁ、角の生えた白馬だからな、神々しいし、女受けもするだろう。女性達から人参をもらいご満悦だ。
ヤテンは場に馴染み過ぎててもはや貴族の中に溶け込んでいた。
たまに男性陣から声をかけられる、意外とモテるのかな。
でも流石にアンデッドだと分かると愛想笑いを浮かべて離れていく。
アカボウはひたすら肉を食べていた。正直誰も近寄らない。
手斧は置いてこさせたが、それでもゴブリンの上位種と言っても過言ではないレッドキャップだ。人に対して悪意を持つとされる赤帽子の小鬼。
更にアカボウは人間サイズなのだから恐怖感も倍増だ。
まぁ、本人は気にしてない様子だからほかっておいても問題は無いだろう。
そして一番自由なのはシズク。料理を食べずに石畳の隙間から生えた雑草を食べていた。
いや、シズクの自由だけどさ、周りの人達からクスクス笑われてんぞ?
ゼロセンは近くの建物の屋根に停まっている。ゼロセンが近くで羽ばたくと料理が飛んでいってしまうからだ。それに女性とかは風圧で転びかねない。
たまにアカボウがゼロセンに向かって肉を投げると器用に掴んで食べていた。
もちろん俺だって食事をとる。こんな美味い飯は元の世界でだって食べたことが無い。まぁ、それは単純に金もあまり無かったし良いもの食べて無いだけだが。
いくらか飯を食べていると遠目に兵士とメイドが話しているのが見えた。そのメイドは兵士と話し終わると俺の所にやってくる。
その手には葡萄酒の入ったグラスが握られていた。なるほど、兵士がメイドに気を使わせたんだな。そういえば俺はさっきから飲み物は飲んでいなかった。
「この国自慢の葡萄酒です。よろしければどうぞ」
「ああ、有り難う。ちょうど飲み物が欲しかったところだよ」
メイドさんから葡萄酒を受け取ると俺はそれに口をつける。
とても香りの強い上等なお酒だ、度数も高いのか目が回り…吐き気がする。
たった一口で酔った?…いや、これは違う。
俺は吐き気に襲われて飲んだ物を吐き出すが、出てきたその赤い液体はどう見ても葡萄酒では無く血の色だった。
「か…かは…、なん…」
足元もおぼつかなくなりその場に倒れこむ。葡萄酒に…毒が?
すぐに兵士が俺の元に駆け付けるがその顔は嘲笑を浮かべていた。
「あの方が言った通りだな、何が勇者だ。おまえ自身はただの人間じゃないか」
「何…を」
「王様からの伝言だよ。新しい魔王なんかに渡す土地は無い。とさ」
「俺は…争う気は…」
「あの方が言っていたよ。あの魔物使いは人間の敵だとな」
あの方…って、いや、一人しか思い浮かばない。アーミャか。
くそ、あいつにとって俺も都合の悪い存在になったってことか。
次の瞬間、兵士の体に風穴が空いた。血が飛び散るのを忘れる程に刹那の出来事だった。
オグリが角で兵士を突き刺し、首を振って地面に落とす。地面に血が広がったのを合図に女性達の悲鳴が飛び交った。
俺の言い付けを破り激昂して嘶く。
アカボウが葡萄酒を出したメイドの首を掴むとそのまま引き契ってしまった。
待ってくれ、たぶんその女性は毒の事は知らなかったはずだ。
ゼロセンが風を起こすと公園に居た人間達は皆風に煽られ、走る事も出来ない。
シズクが水素を吐き出し大爆発を起こす。その爆炎は石畳を跳ね上げ、たくさんの貴族が巻き込まれて死んでいく。
違う、違うんだシズク。その人達もたぶん無関係なんだ。
やめてくれ、みんなやめてくれ!
「やめて…くれよ」
俺の声は皆には届かない、頭に血が登って冷静になれない。
何か、何か無いだろうか…。その時、アーミャから貰った骨の笛がある事を思い出した。
これはモンスターへの強制命令が出来る笛。
しかし手で掴んでみて理解した。俺の僅かな魔力では一人に命令を出すのでやっとだと。
この場を納める事が出来るのは…、たぶんあいつしかいない。
俺が笛を吹くとヤテンが傍まで来てくれた。
「ヤテン…人間を…守ってくれ。皆を押さえて、この場を…静めて欲しい」
俺がそう告げると、ヤテンは噴水の水を操り、大きな盾を展開した。
モンスター達の攻撃をことごとくいなしていく。
既にある水を操る方が魔力を節約出来る。ちょうど良く噴水があってくれて助かった。
仲間達を水で束縛し、人間は水流で遠くに押し流す。
それにしたってオグリもいるのに、ヤテンの独壇場なのは不自然だ、きっとこの骨の笛の力によるものだと思う。笛が薄暗い光を放っていた。
「きいて…くれ。もう…帰ろう。皆が…待ってる」
ここでようやく俺の声が届いたのか。魔物達は俺の声に耳を傾ける。
「帰ろう…な。俺…もうすぐ死ぬと…思うけどさ、その…前にさ。皆の顔…見たいんだ。俺の…大切な……家族だから」
正直、ここから先は意識が途切れ途切れだった。
俺は真っ白な毛皮の上に乗っているようだ、これはオグリの背中だろうか。はは…やっと乗せてくれたな。ふふ…良い毛並みだ。
次に意識が戻った時は草原だった。
たくさんのモンスター達が俺を囲んで泣いている。
ああ、これが俺の家族だ。血は…繋がって無くても良かったんだ。
俺は…手に入れてたんだ。本当の家族を。
俺は、たぶん、最後に笑っていたと思う。
意識が無くなる、その瞬間まで。
はい。過去の話として書いた第4章はこれにて終了です。
この後王様に都合の悪い部分が改ざんされて伝わる訳ですね。
次からはアサヒに戻ります。




