伝説の魔物使い8
今回はお城です。
初めて人間として評価される瞬間ですがシンヤのとった行動とは…、お楽しみいただけたら幸いです。
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中央都市テオテスカ、人間の中で最も権力を持った王族が城を構える大都市だ。
その王城の前に国民達が所狭しと参列する。上から見下ろすと人の絨毯の様に見える。
そう、俺は今その王城の中から国民達を見下ろしていた。
隣に居るのは王様と…純白の天使アルミサエル。
アーミャには不信感を抱いてはいるが、アーミャは人間の味方をしているだけだし、裏でどんな思惑を持っていようが敵だと割り切る事も出来ない。
今俺は白銀と豪奢な布であつらえた見栄えの良い鎧を着せられている。
魔王を倒した勇者が町人以下の質素な服では格好がつかないと言われてしまった。
アーミャは俺が魔王を倒した事を王様に伝え、勇者の謁見にも立ち会う事で説得力を持たせる為にここにいる。
この世界では女神として扱われているし、黙って立っていれば確かに説得力はある。
国民は「あー、偉い王様と偉い女神様と一緒にいるあの人が勇者かー」くらいには認識するだろう。アーミャが何者かも知らずにただ納得する。
魔物達を連れて来るのは許可されなかった。本当の功労者は彼らだと言うのに。
ヤテンだけは見た目は人間だから城の敷地内に居る、堅苦しいのは嫌いだからと言って一人でお城の庭を散策しに行ってしまった。
花壇が見たいらしく、お城のメイドさんから場所を聞いていた。
俺はと言うと、王様が国民に演説してる間、国民達にずっと手を振っているだけだった。
最初は盛大に盛り上がっていたが、どうしても避けて通れぬ話題だってある。俺が絶対にうやむやにしたく無い部分だ。
「では、最後に勇者殿からみんなに挨拶してもらうとしよう」
「あー、まず、俺は…モンスターパレードの主だ」
国民は一斉にざわめき、王様がため息をつく。実は口止めされていたのだ。
「俺を受け入れてくれるのであればモンスターもセットじゃないと困る、仲間達には人を襲わないように言ってあるが…反撃は許している。その意味は理解して欲しい」
これは半分脅しも兼ねている、俺が魔物達と平和に暮らす為だ。
今さら俺だけ人の中で暮らす事は出来ない。
「広大で豊かな土地を俺にくれ。それが俺の望むたった1つの報酬だ」
そこで魔物達を住まわせる。土地なんて勝手に占領することも出来る、だがこうやって公の場で宣言しておかないと問題も生じるだろう。
だがそれは強力なモンスターを一ヶ所に集める行為でもある、おそらく許可されない。だから脅しているのだ。
「俺の仲間は一人でもこの都市を潰せる、だがそんなことはしないように命じている。そこは信用して欲しい。俺達に争う意思は無い、…が、そちらが争いたいなら話は変わる」
そう、俺は今この国に、この世界に喧嘩を売っているに等しい事をしている。
争ったら絶対こっちが勝つから要求を飲めと言っているのだ。
流石に王様の表情が青ざめる、アーミャは自分の髪をくるくるといじっているだけで何を考えているのかさっぱり読めなかった。
しかし、俺が鉄のホイッスルを鳴らすとアーミャが一瞬俺を睨んだ。
これがモンスターを呼ぶ為の合図だと分かったのだろう。
音に気付いたワイバーンが俺の元に飛んできた事でその場はパニックとなる。
ワイバーンは腕が翼に進化した飛行能力に長けたドラゴンだ。
さっきの演説も相まって国民も兵士も狼狽える。
「有り難う、ゼロセン。俺を乗せて飛んでくれ」
ワイバーン、名前はゼロセン。何かあったときの為に城の上空へと待機させていたのだ。俺はゼロセンに乗ると城の周りを旋回した。
「さあ、間近で見せてやろう!これがモンスターパレードの実態だ!」
俺の仲間のモンスター達が次々と町の中に入ってくる。
それはもう酷い光景だ。地上は逃げ惑う人達でごった返し悲鳴が飛び交う。
兵士も腰を抜かして動けない、俺のモンスターパレードは誰も抗えない驚異の行進だ。
…が、恐怖の悲鳴は段々と感嘆の歓声へと変わっていった。
実は普段の旅の中で、気晴らしに娯楽として魔物達とやっていた事がある。
今日はそれの豪華版を披露してやろうじゃないか。
セイレーンやハーピーやマーメイド達が歌いだし、逃げ惑っていた人達は美しい歌声に心を奪われて冷静になっていく。
マーメイドは他のモンスターに乗って移動する、もう手慣れたものだ。
ハーピーが若干音痴だがそこはご愛嬌。これでもセイレーンと練習してだいぶ上達した方なので許して欲しい。
ドラゴン達はタイミングを合わせ、リズムに乗って上空に向かって火を吹いた。
町中に同時に火柱が上がる光景は実に爽快だ。
人型モンスター達はワルツを躍る、ゴブリンもレッドキャップもオーガもオークもクルクルクルクルと種族を越えて入れ替わり踊り続ける。
決して上手くは無いがむしろそれが面白い。
小型の獣モンスターも一緒になって足元をクルクルクルクル。
ホムラが一際大きな火柱を立てると、それを合図に魔法を使えるモンスター達が一斉に上空に魔法を打ち上げ、ぶつかり、花火の様にキラキラと散る。
ヤテンは人間達の安全確保に廻り、同時に水のイミテーションを披露する。
水で出来た花畑が広がる様は圧巻の一言だ。
水の花びらが炎の光を反射してキラキラと輝きを放つ。
皆、時を忘れてパレードを見ていた。
そう、これは仲間を怖がらないで欲しい、無闇に攻撃しないで欲しい、そう願う俺のエゴ。モンスターパレードなんて呼ばれてるならテーマパークばりにパレードをしてやろう。
どうだ、これが俺のモンスターパレードだ。
拍手喝采の中、俺とモンスター達は皆に認められた。
その証として、広い公園での立食パーティーを開催してくれる事になったのだ。
公園でのパーティーにしたのはモンスターの同伴を許可してくれたから。まぁ、そうじゃないと応じないと言ったのは俺だったりするが。
ただ、流石に全員は入れないから数は減らして欲しいと頼まれた。
まぁ、それは確かにそうだろうなと納得するしか無いだろう。
イシガキは有機物を食べない、ホムラはうっかり人間を火傷させかねない。シオは今や一番の巨体だ、10メートルはある。やはり連れていけない。
オグリ、ヤテン、アカボウ、シズク、移動用にゼロセン。このメンバーで行く事にした。
モンスターパレードももうすぐ終わりになります。
短くまとめようと思っていましたが思いの外長くなってきましたね。
おそらく次あたりで確定された結末を迎えます。




