伝説の魔物使い4
屋敷の敷地内には移動の為に使うような馬車の類いは無い。
屋敷の庭も荒れ、花壇だと思われる場所には雑草が生い茂る。
「これは…どう見ても廃墟…だよな」
そもそもこんな人里離れた不便な場所に屋敷があること自体が不思議な事だ。
何か事情があったに違いないが今となってはそれも分からないだろう、あるいは中に入れば何か分かるかもしれない。
屋敷の玄関に近付き、そっと扉を…押そうとおもったが諦めた。
扉には鎖が幾重にも掛けられ、それを固定する為の金具が大量に打ち付けられていたのだ、流石にこれを壊すのは無理だろう。
「流石にこれは無理かな、中に入れそうな窓とか探すか」
しかし不思議な事に窓が見当たらない、あっても随分と高い位置に設けてあった。
しかも窓には鉄格子、いよいよもってきな臭い屋敷だ、関わらない方が良いかもしれない。
「………シズク?何してんの?」
シズクが扉の鎖にしがみついている、というか、捕食してる?
スライムってそんなことも出来るのか?そう思いしばらく見守っていたがシズクは諦めて帰ってきた。
鎖は多少腐蝕しただけ、シズクは体が重いのかグッタリしていた。
「おいおい、無茶すんなよ?ていうか、鉄は消化するの負担が大きいのか?まぁ、普段は草食ってるしな、腹壊すなよ?」
その時、突然ガチャン!と大きな音を立てて鎖が断裂した。
扉の前にはアカボウが立っていた。シズクが腐蝕させて脆くなった鎖をアカボウが叩き割ったようだ、流石アカボウ、やれると思ったらすぐ行動するんだな。
「もうここまでやったらこっそりも何も無いな、みんなで行くか」
屋敷の中は静まりかえっており床には埃が積もっていた、間違いない、廃墟だ。
そして荒らされた形跡も無い、これなら金品も残っている可能性が高い。
一階には食堂や書斎、二階には寝室や子供部屋があるようだ。
不思議なのは子供部屋がやたら多い事くらいか。
「とりあえず、一階の書斎かな。調べようか」
書斎はやたらと広く、物を隠すにはうってつけに見えた。まず探すならここだろう。
しかし見つかったのはここが何の為にあるのか、それを記した書類の数々だった。
この世界の言語や文字はアーミャの祝福により修得済みだ、しかし今はそれが怨めしい。
そこにあるのは多くの実験のデータ、専門用語やグラフの数値を見たって何も分からない。
しかしそれでも、度々出てくる言葉が目眩を起こす程に頭を揺さぶる。
【不老】【不死】【死者蘇生】【実検体】【子供】
ここは…永遠の命を得る為の実検施設だ。
いつの時代も、どこの世界も、富や力を求める人間が行き着く課題。
しかしこの施設はそんな単純なものでは無い、身寄りの無い子供を引き取り、人間を使った実検を繰り返していたようだ。
自分の境遇と重なるからか、酷く気持ち悪い。
人間が、一部の人間の為に、無力な人間を消費する。
それは俺も味わった痛みだが、何も知らない子供を食い物にするこの施設には心の底から怒りが込み上げる。理解出来るから、なおさら心が痛い。
ふいに書類から落ちた何枚かの写真を見て目頭が熱くなるのを感じた。
【再生能力をもった魔物の組織の移植】
【拒否反応が強いが若い子供なら適合を確認、その後魔物化し短命にて死亡】
体の皮膚が変色し、鱗が生えた子供。
足から根が生え、泣き崩れる子供。
それは目を覆いたくなるような写真ばかりだった。
しかしそんな写真の中に、綺麗な体のままの女の子の写真が一枚入っていたのを見付けた、歳は他の子達よりもだいぶ上に見える。俺の世界に居たなら中学生くらいだろうか。
まるで作り物の様に美しいホワイトブロンドの髪が印象的だった。
【エリクサーの精製実検】
【体組織を再構築出来る秘宝の人工的精製】
【魔物の組織移植に適さない実検体に投与】
【体質が徐々に変化、新陳代謝の低下】
【実検失敗】
写真は全て牢屋の様な場所で撮られているようだ、窓は無く薄暗い。
「……もしかして、地下があるのか?」
俺の独り言に反応してイナバがてしてしと床を叩く、そして何か見付けたのか角で床を強く叩くと、コーンッと音が反響した。
兎は地面を掘るのが上手い生き物でもある、床の僅かな違いを察知したのだろう。
「そこ…か。イナバありがとな」
イナバが叩いた床をよく見ると四角く切り込みがあった、おそらく地下への入り口だとは思うのだが開ける為の取っ手が無い。
それどころか隙間が接着剤の様な物で埋められていてびくともしない。
これは地下への扉では無い、完全に蓋として後から取り付けられた物に違いない。
「玄関といい、ここといい…何か封印でもしてんのかこれ」
まぁ、流石にこれ以上首突っ込むのもよろしくは無いだろう。
そもそもここはもう廃墟だ、もう終わった話だ。
もう引き返そう、そう思った時にバキッと大きな音が鳴る、シオが床に鎌を突き刺し破壊していた。蟹の表情はよく分からないけどたぶんドヤ顔してるんだろうなぁ。
みんな俺に褒めて欲しいのか、我先にと役にたとうとするから行動が早い。
良いのか悪いのかは分からないがとりあえず好かれてはいるようで悪い気はしない。
「あ、ああ、シオ、…ありがとな」
地下へと降りると写真で見たような牢屋がいくつも並んでいた、それと実検室に色んな工具。メス、ペンチ、ノコギリ、そのどれもが赤黒く錆びている。
牢屋の中には子供サイズの白骨死体が乱雑に並ぶ。
ここにはもう何も無いのかもしれない、でも…せめてみんなの亡骸だけでも外に連れ出して埋めてあげたい。
どこかに鍵は無いだろうか、地下を更に奥へと進んでいく。
すると、カチャンッと金属のぶつかる様な小さい音に気付いてハッとした。
牢屋の1つに、今もなお綺麗な姿で、鎖に繋がれたままの女の子が床に座り込んでいたのだ。ホワイトブロンドの髪、あの写真の子で間違いない。
他の子達が白骨になっているのに、この子だけは写真の姿のままだった。
こちらに気付き、虚ろな視線が俺の目を見つめている。
女の子は口をパクパク動かしているが声が出ていない、喋り方を忘れているように見えた。
「俺はシンヤ、大丈夫、君をここから出してあげる」
普通の女の子では無い、だけど俺には彼女には攻撃の意思が無い事に気付いていた。
何故…気付いたんだろうか…。
そうか、この子はもう…魔物化しているんだ。
「ここから出たらとりあえず君の服を探さないとな、目のやり場に困るよ」
体は綺麗なのに服はボロ切れ、いくら魔物化していても見た目は人間だ、このままではあまりにも…その、決してロリコンでは無いけど、俺だって男なんだから正直困る。
はい、分かるかとは思いますが今回はゴスロリのあの子のエピソードとなっております。
彼女のエピソードはもう少し続きます。




