伝説の魔物使い3
初期メンバーの説明回です。
ピッ ピッ ピッ ピーッピピ
「休憩!もう疲れちゃったよ」
移動は歩きだ、モンスター達と違って普通の人間である俺にはかなり辛い。
とは言えこれでも元動物園の飼育員、体力はそこそこある方だ。それでも流石に悪路を歩き続けるのはしんどい。
持ち物は簡素な布の服に鉄製のホイッスルのみ。
そんな出で立ちで魔王討伐を目指す勇者なんて他にはいないだろう。
なんで笛が必要かって?仲間が増えた上にみんな好き勝手に移動するからだ。
笛の合図は決めていない。決めたって覚えれない奴が大半だから。
ただ、毎回大声を出していては喉が潰れてしまう。
笛を吹いたら何かしら言いたい事がある、だから傍に集まれ。と、それだけ教えた。
仲間、それはもちろん人では無い。人でなしとかそういう落ちでも無い。
全員で5匹、全てモンスターだ。
スライム、アルミラージ、ブレイドキャンサーの子供、レッドキャップ、カーバンクル。
唯一見た目が人に近いのがレッドキャップ、赤い帽子を被った子供サイズの妖精で、小さな斧を持ち、鉄製のブーツを履いた攻撃的な奴だったが話してみるとノリの良い奴だった。
アカボウと名付けたが別に何かを配送してくれる訳では無い。
ちなみに俺のホイッスルはこのアカボウが作ってくれた物だ。
戦闘は主にアカボウがやってくれるが極力相手を殺さないように言いつけてある。
アルミラージはアカボウが追っ払おうとしてやり過ぎてしまい、ケガしたところを手当てしたら付いてきた。名前はイナバ、兎だし、まぁ、ベターだろう。
ブレイドキャンサーはまだ子供とはいえ犬くらいの大きさの蟹だ、大きくなったら乗って移動出来ないだろうか、名前はシオ。鋏…というか鎌だが、片方だけ大きいのでシオマネキからとった。俺の近くで護衛をしてくれている。
そしてカーバンクル。額にルビーの様な宝石を付けたリスの様な兎の様なイタチの様な、よく分からない奴。同種が見当たらなかったから珍しいモンスターなのかもしれない。
戦わないし、援護もしないし、基本的に無口。
額の宝石が光るので夜はとても便利だったからライトと名付けた。
何故疲れる思いをしてまで悪路を歩くのか、それはもちろん人に会いたく無いからだ。
モンスターを連れ歩いているから町には入れず、冒険者と出会したら戦闘になってしまう。
この世界には魔物使いという概念は無いのだから、俺だって人に化けたモンスターだと思われてしまう、ゲームの様にはいかないのだ。
そして冒険者に出会してもだいたいはアカボウが追い払ってくれる。レッドキャップはけっこう強い種族らしい。
それに他のみんなも同種のモンスターよりも強くなっている気がした。スキル【魔物使い】には仲間にしたモンスターを強くする効果でもあるのだろうか。
それでも敵わない強い冒険者だってもちろんいる、その時は全力で逃げる。
カーバンクルのライトは強い光を放つ事も出来るらしく、目眩ましをしてくれる。
しかしライトは光る以外の事はしてくれない、本当によく分からない奴だった。
町には入れないが、人間で唯一俺だけが入れる場所も存在する。
それはモンスターの集落。俺が敵では無いと分かるらしく、対話も可能である為受け入れてもらえる事が多いのだ。
実際、俺に攻撃を仕掛けてくるモンスターの方が少ない。
元々好戦的な奴とか、対話を試みる前のモンスターは襲ってくるが、モンスターに守られている為少し躊躇するようだ。
その隙にアカボウがそのモンスターに絡みに行く、人間で言うとヤンキーみたいな奴だった。
レッドキャップの集落にも少し滞在した。
…が、狩った獣が干してあったりで臭いがきつかった。
動物園の飼育員だったから獣の臭いには慣れていたものの、普通の人間なら臭いだけで逃げ出すことだろう。
それでも振る舞ってもらった肉は美味しかった。…いや、空腹は常に限界ギリギリだから何食ってもご馳走な訳だけど。
モンスターの寝床も悪くは無い、悪くは無いが…それでもたまには人間用のベッドで眠りたいと思う時だってある、野宿が続くと疲れが取れないのだ。
そんな事を思いながら倒木に座り込む。
そもそもどこに向かって何をしたら良いのか分からない。
アーミャは方角だけ教えてくれたが、道なき道を進む俺には途方も無い距離に違いない。
「シンヤ、ヤシキ、アル、ムコウ」
「おお、アカボウか。って、屋敷!?こんな人里離れた場所に!?」
アカボウは片言ではあるが人語を解する、というよりは自分達で言葉を作るよりも人間から言葉を流用する方が楽だったらしい。
「イクカ?」
「あー、そうだな、とりあえず俺が行って様子見てくるかな、もしも廃墟だったら…悪いけど物色させてもらおう」
モンスターと歩く無一文の旅路だ、多少の悪事は許してもらいたい。
廃墟なら流石に金品は期待出来ないだろうけど、服や地図なんかがあると嬉しい。
アカボウに案内されて付いて行くと、そこには木々に囲まれた屋敷が建っていた。
次回は屋敷に潜入します。
さて、何がありますでしょうか。
って、まぁ、屋敷に居そうなのは限られておりますが(笑)




