伝説の魔物使い1
第4章は過去の話です。
伝説の魔物使い、シンヤ。彼の話をダイジェストでお送りします。
俺は…独りだった。
物心付いた頃には児童養護施設に居た。
親の顔は分からない、親の愛も分からない。
でも、ここでの生活が当たり前だったから辛いと思った事は無い。
それでも、周りの人達はどこかよそよそしく、壁を感じる。
施設の外で本物の親子というものを見付けると複雑な気分だった、胸の奥にすきま風が吹く様な、そんな気持ち。
働ける歳になったらすぐに施設を出た。
動物園の飼育員をやりながらアパートで独り暮らし、それなりに充実していた。
彼女も出来た、動物園に来ていた客と仲良くなって、いつしか付き合っていた。
俺は血の繋がった本当の家族が欲しかったから、彼女をとても大切にしていた。
ところがある日、あれは台風が来ていた時だっただろうか。
たとえ台風が来ていても動物の世話は必要だ、この日も飼育員達は清掃に餌やりにと大忙し、雨が弱い事だけが救いだった。
そんな大変な一日の中で事件は起こってしまった。
飼育員の一人が…熊に殺されたのだ。背中を一掻き、たったそれだけだった。
熊の檻が台風の強い風に煽られ、格子の扉がキィキィと揺れていた。
鍵は…かかっていなかったらしい。
動物園の職員は皆騒然とした、当たり前の事だろう。
動物園は休園となり、連日大騒ぎだ。
そして…何故か俺が呼び出された。
「真也くん、大変な事をしてくれたねぇ」
「え?何が…ですか?」
「鍵…かけ忘れただろう?」
「は!?待ってください!自分は違います!」
「これだから施設上りは…」
「関係無いでしょう!?記録見れば分かる事じゃないですか!」
「君…もう来なくて良いよ。これだけの処置で済む事に感謝しなさい」
「な…んで」
後になって思えば、園長なども犯人は俺じゃ無い事は知っていたように思う。
俺が…切りやすかった、ただそれだけだろう。
でも、それだけでは済まない。俺には人殺しのレッテルが貼られたのだから。
彼女は、親や友達に俺との交際を反対され、離れていった。
元々、親のいない俺との交際は反対されていたらしい。
いったいどこから情報が廻るのか、再就職も難航した。なかなか仕事が見付からない。
愛してくれる人は居らず、人を恨み、八方を塞がれ、何もする気になれなかった。
そんな時だ、突然ソレは現れた。真っ白で…鳥の様な翼が生えた女の子、天使という言葉以外にソレを現す言葉が見付からない。
「やっほー、私アルミサエル。アーミャで良いよ」
「へ!?あ…とうとう幻覚まで…、いや、俺いつの間にか死んでたのか?迎えが来たのか?」
「いや、生きてる生きてる。そこは自信持ちなよー」
「その羽…本物?」
そう聞くとアーミャと名乗る天使は羽を優雅にバサバサと動かす。その動きは滑らかで、どう見ても本物の羽だった。
「本題に入るよー、君は生きてるけど、殺しても良いかって聞きに来たの」
「……え?」
「誰からも想われず、誰も想わず、自分の事も投げ出した君の魂には価値が無い。まぁ、君の場合は不可抗力もあるけどねー。せめてその魂を人の為に使ってみない?」
アーミャの話では、別の世界に魔王と呼ばれる存在が居て、モンスター達と戦ってるファンタジーな世界があるらしい。
そこではエリクサーと呼ばれる強力な回復薬が重宝される。そしてその材料がこの世界の人間の魂という事らしかった。
「俺が…必要とされるのか、うん、分かった。けど、せめて良い人に渡してくれ」
「………やめた。君には更正の余地有りとみなすよ」
「どういうこと?」
「異世界で魔王倒して来てよ」
「はあ!?」
アーミャはどこからかタブレットパソコンの様な物を取り出すとおもむろに操作しだす。
「うっわぁ…、修得可能スキル1つか、やっぱ無理かなぁ」
「スキル?」
「そう、異世界に渡る人への特典だよ?その人の特技とかを強化させる感じ」
「ちなみに、どんなスキルなの?」
「えーと、ユニークスキル【魔物使い】。モンスターから魔王の呪縛を取り除き対話を可能にする能力、か。微妙だけど、ユニークスキルなのね。これは珍しい」
「ユニークスキルっていうのは?」
「その人だけの固有スキルね、向こうの世界には無いスキルってこと」
「俺だけが…はは、ははははは。分かった!魔王、倒しに行くよ」
何も持ってなかった俺が、俺しか持っていない物を持っているという事が嬉しかった。
それに、どうせここに居ても手詰まりだ、違う世界に行けるなんて願っても無い事だった。
シンヤの話は飛び飛びで書いていきます。
流石に長過ぎるしアサヒが忘れ去られてしまうので(笑)
第4章は物語の真相に迫る章となります。




