VSユニコーン3
今回はバトル回です。
ヤテンの初参戦となります。
俺とマヒルとヤテンは高原にて佇む。
決戦の時というのは割りと簡単にやってくるものらしい。
ヤテンが指を口に咥えて指笛を鳴らす、それは決して大きな音では無い。
しかしアイツは驚くほどアッサリと現れた。八足のユニコーン。
ユニコーンは以前の風格あるどこか紳士めいた態度とは違い、息を荒くしてこっちを睨み付ける、と言うよりはヤテンを睨んでいるように見えた。
「おい、なんかおまえに御立腹みたいだぞ、何やらかしたんだ?っていうか、指笛1つで呼び出すとか、おまえの方が怖えんだが?」
「ふふ…私の事はいずれ分かるわ。それより、軽口を叩く余裕なんて…無いわよ」
「分かってるさ、で、どう攻める?」
「突っ込んで。支援するから…後は…成り行きに任せるわ」
「分かりやすくて良いねぇ」
まったく、随分と気軽に言ってくれるものだ。
ユニコーンは地面を蹴って興奮状態になっている、前回と違って殺す気満々に見えるんだが本当に大丈夫だろうなぁおい。
「私が先行するに、アサヒは付いてきて」
マヒルは斧を構えて前傾姿勢だ、平地であれば武器を構えていてもマヒルの方が速い。
「あいよ、頼りにしてるよ」
ユニコーンに向かって走るマヒルと俺、しかしユニコーンの視線は動かない。
ユニコーンは頭を低く構え、空気抵抗をかき消し音も無く疾走する。
しかしその先に俺たちは居ない、それは瞬きも許さないほどの刹那の間。
ユニコーンとヤテンが向かい合う。
「アクアガーデン…逃げ水」
ユニコーンの角がヤテンを捉えたと思ったその瞬間にヤテンの体から青い光が発生し、そのまま水となって地面に落ちる。あれは…ヤテンの魔法?
標的が消えたユニコーンは素早く旋回しヤテンを探す。
「アクアガーデン…水化粧」
ユニコーンの真横に現れたヤテン、そっとユニコーンの体に触れ魔法を唱える、その次の瞬間、ユニコーンの体全体に水の膜が張った。
それと同時にヤテンは後ろに飛び退き距離を取る、その身のこなしはふわりと舞う羽の様で体重を感じさせない。
ユニコーンは身震いし、体にまとわり付いた水を払い除けようとするが、散った水はすぐにユニコーンの体に収束してしまい、いつまでもまとわり付く。
それは呼吸までをも制限させる。顔に付いた水を払うため何度も首を振るっていた。
「ふふ…、呼吸は体を動かす上で重要よ…」
ユニコーンはヤテンを睨み付けて深く唸る、それは離れた場所に居る俺の体の内側にまで響くような怒りを含んだ唸りだった。
「あらあら…怖いわね。私は裏切り者かしら?…いえ、私は愛しているわ。みんなを」
ヤテンは真っ黒な小瓶を取り出すとユニコーンに投げ付けた。
小瓶は割れ、その中身がユニコーンに纏わせた水に染み込む。
「魔術道具…グラトニーアクエリアス」
ユニコーンの体が爛れ、苦痛からかユニコーンは大きく嘶く。
あれは…、水が酸に変化したのだろうか、ユニコーンの体は爛れつつも持ち前の回復力で腐食と再生を繰り返す。
「私…支援タイプなのよね、アサヒ…後はお願い」
そう言うとヤテンはまた水となって地面に落ちてしまった。
「冗談じゃねぇわ、小魔王を翻弄するサポーターなんて規格外も良いとこだ、そのまま倒してくれると有り難いんだがなぁ」
「無理…」
「うわぁ!?ヤテン!?」
突然俺の背後にヤテンが出現する、こいつは本当に心臓に悪い。
「決め手に…欠ける。並みのモンスターなら…骨すら残さず溶かし切れるけど、オグリぐらいの相手ともなれば…弱らせるのが関の山ね」
「そうかい、ところで、アレって酸を纏った状態だよな?」
「そうね」
「触ったら俺らもヤバくね?」
「…そうね、触らないで」
「おいい!難易度高けぇわ!」
「…冗談よ」
ヤテンは今度は白い小瓶を取り出し、中の液体を俺とマヒルにかけた。
その液体はまるで化粧水の様に肌に馴染んでいく。
「これは?」
「グラトニーアクエリアスの…中和剤」
「待て!それって強アルカリとかじゃねぇだろうな!?」
「グラトニーアクエリアスは魔術道具よ、そして…これも魔術道具。効能を逆に働かせて水に戻す…それだけ」
「お、おお、じゃあ体に影響は無いんだな」
「…無い、じゃあ…後よろしく頼むわね」
「あいよ」
ユニコーンは地面を何度も蹴りながら唸り声を上げる。
距離を開けたままだと空気圧の範囲攻撃が来る、ヤテンがそう言っていたのを思い出す。この距離は少しヤバいか、俺はマヒルに合図を送る。
「行くぞ!」
「だ!」
二人で駆け出す、まず動いたのはマヒルだった、ここ最近見せ場が無くて色々と鬱憤が溜まっていたらしい。今までに無い気迫だ。
マヒルは大きく息を吸い込んで斧を振り上げると、一息で息を吐き出し斧を振り下ろす。
マヒルのスキルの1つ【強撃】最近測って無いけど、最初測った時はスキルレベル2だった、今はどれだけ上がっているのだろうか。
ユニコーンが展開した空気圧の盾に阻まれ一瞬斧が止まるものの、マヒルが更に力を込めるとその斧は空気圧の壁を突破し、ユニコーンに迫る。
しかし所詮は初速を失った一撃だ、大したダメージは期待出来ない。
それでもマヒルは笑っていた、やっと自分の出番が来たとばかりに笑っていた。
初速を失った斧は突然加速する。マヒルのスキル【加速】は停止状態だったマヒルの体を急発進させた。
速度の乗ったマヒルの戦斧、それはユニコーンに届く一撃となる。
しかしユニコーンが速いのは足の速さだけでは無い、マヒルを強敵と見なし迎え撃つ、マヒルが放った一撃はユニコーンに角で防がれる結果となった。
思わぬ一撃にユニコーンも流石に俺とマヒルに戦う姿勢を取る。ヤテンばかりに気を取られてくれていた方が戦いやすかったがそうもいかないらしい。
ユニコーンは頭を低くして俺に向かって突進してくる。
速い、速いが前程では無い、ヤテンの攻撃がそうとう効いているらしい。
これなら見える、俺は突進してくるユニコーンに向かって跳びかかる。
警戒していた空気圧の壁は無い、読みが当たったようだ。
突進する時は自分の速度を上げる為に空気抵抗を消す、それなら突進中には空気圧の壁は作れないんじゃないかと考えたのだ。
ユニコーンの前足が上がる瞬間、その足に俺の足を乗せ、勢いを利用して空中へと宙返りする事でユニコーンの上空へと跳び上がり突進を回避した。
こんな事、思い付いても昔の俺ならビビってやれなかっただろうな、そう思うと自分の成長が誇らしい。
「はは、やれば出来るもんだな」
とは言っても、ユニコーンは身体中ボロボロで呼吸もろくに出来ない状態なのに、二人がかりでようやく互角。とんだ化け物もいたものだ。
そして互角だと息巻いた俺は次の瞬間には勘違いを正されることとなる。
ユニコーンは上体を高く上げ、大きく、大きく嘶いた。
それは地形を変えるほどに広範囲に及ぶ空気圧の衝撃波の合図。
近距離なら使えないとヤテンが教えてくれたソレを、己の存在を知らしめる様にユニコーンは高らかに鼓舞する。
それは…上空より降り注ぐダウンバースト。
天から舞い降りた衝撃波は事態を大きく変える。
ヤテンの魔法は私がリアル中二の頃に考えた黒歴史魔法です(笑)
今も中二病みたいなものだし黒歴史絶賛製造中ですが(笑)




