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伝説の魔物使いが死んだ後の世界がマジでヤバい  作者: しら玉草
第3章:レイジングテンペスト
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黒い女の子

今回は宿での会話メインです。

宿ですがラブコメ展開はたぶんありません。


 もうすっかり夜だというのに宿はどこもガラガラだった。

 観光地であるため宿は多い、しかしその全てに観光客と呼べるような人は見当たらない。

 ヒイリは俺がギルドのベッドで倒れている間に宿をとってくれていたようだが、これならどこに行っても空室だらけだろう。



 ……… …… …



「ねぇ、アサヒさん…」


 俺は例の如くヒイリと同じ部屋で寝ている。空室があるからといって一人一部屋では宿代がもったいない。…まぁ、ヒイリの金だが。


「…ん?まだ起きてたのか?」


「はい、…あの、やっぱりまた戦うんですか?」


「…まあ…な」


「相手はあのユニコーンですよ?」


「まぁ…死ぬかもな」


「何で戦うんですか?」


「アーミャの呪いもあるけどさ…、もしかしたらアーミャの呪いに引っ張られてるだけなのかもしれないけどさ。…んー、言葉がまとまらないし、少し長くなるけど聞くか?」


「…はい」


「俺、自分で何かを為し遂げたりだとか、自分の事に真剣になったりとか、今まで無かったんだよ。それでも楽しかったんだけどさ、その生活に戻る為には小魔王全部倒せって言われたんだ。でも、今の方が全然充実しててさ、家族は気掛かりだけど、実はもう元の生活に戻る気は無かったりするんだ」


「なら…」


「ん、でもさ、俺がここで逃げたら、俺はここでも…けっきょくその程度の人間だったのかなって。それに…俺にはマヒルがいるし、マヒルには格好良いところ見せたいんだよね」


「…それは、自分の命をなげうってでも…ですか?」


「…うん、俺にはそれしか無くて、それを止めたら俺は何者でも無くて、今は…そっちの方が怖いかなって思うんだよ」


「アサヒさんが死んだらマヒルさんも…僕も、悲しいですよ。アサヒさんはアサヒさんです。何者でも無いだなんて、悲しいこと言わないでください」


「ん、ありがと…」


「やっぱり、戦うんですか?」


「…戦う」


「そう…ですか」




 これで話は終わりかな、そう思い再び寝ようとしたその時だった。

 突然聞こえてきた声に驚き目が冴える、ヒイリの声じゃない。この声は知っている。


「あの天使の意思じゃ…無いのね?」



 部屋の扉の近くにその声の主は居た。この暗い部屋ではホワイトブロンドの髪が僅かな明かりを反射しよく目立つ。

 逆に黒を基調としたゴシックロリータの服は闇に溶けていた。


「ヤテン!?お、おい!部屋の鍵かかってたはずだろ!っていうか何でここに!?」


「鍵?…はて?あったかしら」


 ヤテンはそう言いながらクスクスと笑う。

 鍵だけじゃ無い、ノブを捻る音も、扉を開閉する音も無かった。

 俺が驚いているのを見てヤテンは更に楽しそうに笑っていた。



「ふふ…、アサヒの驚く顔が見たくて、こっそり入らせてもらったわ」


「どうやって…、っていうかお前そんな性格だったか?」


「あら…いけないわ。夜は楽しくなってしまうの」


「で、何の用だ?夜這いならお断りだぞ。俺には可愛い彼女がいるからな」


「ふふ…、それは…残念。でも…私の体で興奮するのなら、とんだ変態さんよ、触れた途端に…萎えてしまうでしょうね」


 まぁ、確かに発育が良い方では無いな。でも可愛い方だし需要は有りそうだけどな?

 それにしても…触れた途端にっていう言い方は少し引っ掛かる。

 それともう1つ、引っ掛かっていた事があった。

 俺はベッドの横に置いておいたジャベリンを拾い、展開する。


「まぁ、どうでも良いけどよ。さっき、天使って言ったな?アーミャの事だよな?女神じゃなく、天使って、そう言ったな?」


 この世界ではアーミャは天使では無く女神という扱いをされていたはずだ。自然崇拝のこの世界では天使という概念は浸透していないと、アーミャ本人が言っていた。



「あの人が…そう呼んでいたから」


「あの人?」


「魔物を従えた勇者」


「まぁ、驚かねぇよ。カルキノスとも知り合いっぽかったしな。で、某勇者は俺と同じで転移者ってか?」


「ふふ…、今日は争いに来た訳じゃないわ。第一、この状況で争ったら困るのはそっちよ?」


「なんだ、随分と余裕じゃないか?」



 ヤテンは俺が槍を構えても表情を崩さない。


「アサヒに襲われたーって言ってあの獣人の子の所に逃げ込めば…勝ちだもの」


「待て!それはマジでヤバい!」


 卑怯にも程がある、こいつ、こんな極悪人だったのか!ちくしょう、油断した!

 俺はジャベリンを床に捨てて両手を挙げる、降参だ。



「冗談よ」


「そ、そうか…、で、本題は?」


「ユニコーン退治、本当に可能だと…思ってる?」


「質問を質問で…いや、まぁ良いや、一度は言ってみたかったセリフだけど今は置いておこう。ユニコーンは魔法撃たれた後俺を警戒してたからな、上手く当てれれば…」


「オグリの…悪い癖。強敵だと認識したら、相手の力を見たがる。それに…自分の力を見せたがる。アサヒにはまだ…奥の手があると、そう認識したから逃がした」


「オグリ?あいつの名前か…。つまり…見逃されたと?」


 ユニコーンの固有の名前、やはりヤテンは魔物使いの勇者側の人間と見て間違いない。



「オグリは…気高い。覚えておきたい強敵は、殺す前に全力を出させた上で殺す」


「あの魔法を見た上で、動揺せずに平常運転の行動をとってたってか」


「あの程度じゃ…脅威になり得ない」


「そうかい、忠告ありがとよ。でも今ある手札以外は切れねえんだ。やるだけやるさ」




「そう…、ところで、その手札を増やす気は無いかしら?」


「は?」


「アサヒの仲間に…なってあげても良いわよ?」


「はあぁぁ?おまえ魔物使いの勇者の仲間だろ!?俺の敵じゃねぇの!?」


「ふふ、私が敵なら、アサヒはもう…死んでる」


 その言葉は嘘では無いのだろう。背中に嫌な汗が流れるのを感じた。



「ヤテンに何のメリットがある?」


「みんな…戸惑っている、あるいは…怒っている。私なりに…解放してあげたい。アサヒなら、私の望みを…叶える事ができる」


 怪しい、メチャクチャ怪しい。が、今のままでは勝てないのも事実。



「…分かった。信じはしないが、今は手を借りたい」


「ふふ、ふふふふ。宜しくね…アサヒ」




「マヒルには明日説明するかな…」



 その時、ふいに扉を叩く音がした。


「アサヒ、誰と喋っとお?まだ起きとおの?」



 ヤバい!マヒルだ!女の子を部屋に連れ込んでる現行犯になってしまう!


 俺はヤテンに隠れる様に身振り手振りで必死に伝える。

 ヤテンは扉を指差して俺の方を見ると納得したように頷いてくれた。

 ああ、良かった、ヒイリとは違って空気の読める奴だ。


 って!おい待て!何故扉を開ける!?


「マヒル…だったかしら?宜しく、たった今…アサヒの仲間になったわ」


 違げぇよ!挨拶しろって意味じゃ無えよ!おまえもか!おまえも空気読めねぇのか!

 いや違げえ!あいつ笑ってやがる!わざとかちくしょう!



「……アサヒ?どうしてこの部屋に女の子が?」


「いや!いやいやいや!マヒルが思っているような事は何1つ無いぞ!」


「私が思っとおこと?何でそんなに慌てとおに?」


 あれ?マヒル意外と冷静?だよな!二人の愛は確認しあったもんな!そんな簡単に揺らいだりしないよな!あー、心配して損したな。


 …いや、待って。マヒルさん何で斧構えたの?


「浮気は…許さにゃああ!!!」


「ひ、ひいいぃぃ!!」




 ◇  ◇




 誤解は解けたものの…、損害はベッドまるごと1つと床の亀裂。

 お金はヒイリが出してくれました…。



ヤテンが仲間に加わった!

さぁ、ヤテンは何者で何が目当てなのでしょうか。

そして悪は誰なのでしょうか。

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