アルミサエル再び
今回は長文の重い会話が多いです。
アルミサエル再登場、アーミャちゃんがいっぱい喋ります。
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目を覚ますと俺はベッドの上で寝ていた。
そんな俺を心配そうに見つめる2つの顔、マヒルとヒイリ。
…と、もう一人、どうでも良さそうな顔で欠伸してる色白の天使、アーミャ。
何でこいつが居るのかはさておいて、せめて欠伸はやめてほしい。
「ここ…は?っていうか、何でアーミャが?」
「アサヒ!喋って大丈夫!?体痛くにゃあ!?」
俺が起きたのを確認したマヒルは安心と心配が入り雑じった複雑な顔をしていた。
「あ、ああ。超痛てぇけど…とりあえず我慢は出来るな」
俺の右腕には包帯が巻かれ、肘より先が無くなっていた。
まさか自分の魔法で自分の腕が吹き飛ぶとは…、まぁ、あのままじゃ死んでたんだ、マヒルは無事だし俺も生きてる。腕1本で済むなら喜んで差し出すさ。
「で、アーミャ、お前何でいるの?」
「えー、随分な言い種じゃない?アサヒが今生きてるのその生命の闘衣のおかげだよ?私のプレゼントに感謝しなよー」
生命の闘衣、俺の魔力と引き換えに自己治癒力と体力を増幅してくれる服だ。今回はこれのおかげで血が止まり火傷も回復したらしい。
「あ、ああ。そうだったのか。名前はだせえけどこの服に感謝だな」
「服じゃなく私に感謝しなさいよー、あとださいって酷くない?私が考えたのにー。聖骸布を編み込んで作った自慢の一品だよー?」
「え?ちょっと待て…、聖骸布?それってあれだよな、聖人の遺体を包む布」
「お?意外と物知りだね?貴重品だから感謝したまえー」
「…はぁ、こいつに助けられたのは事実だしな。聖人に感謝するよ」
「聖人じゃなく私に感謝しなさいよー、もー」
「で、本題は?アーミャが用も無く人の前に姿を出さないよな?」
「あ、そうそう。エクリプス取り込んじゃったみたいだからさー、面倒臭いけど出てきたのー。もー、アサヒのくせに魔法なんか使うから制御出来ないんだよー」
「エクリプスを知ってるのか?」
「あの真っ黒な月兎でしょ?太陽を隠し天網を掻い潜る日食の化身。この世界の理の外に居る不純物だから私も予測出来ないのー、まさかアサヒに取り付くなんてねー」
「ほー、随分とけったいな奴なんだな、あのウサギ」
「そーなのー、面倒だけど一応チャンスでもあるからね、こうやって顔出したわけ。アサヒがあのウサギの力使えれば残りの小魔王も倒してくれるかもだし」
「もしかしてあれか?祝福か?」
「流石に分かるかー、【アルミサエルの祝福】レベル3に上げようかなって。骸真偽の槍をプレゼントするよ、ロンギヌスの破片で造った腕輪で槍の形代を呼び出す魔術武装だよ」
「分かりにくい!」
「アサヒの脳味噌じゃ分からないかー。説明不足でごめんねー。アサヒの魔法は謂わば呪いに近い力なの。術者に相応の跳ね返りがあると思ってくれれば良いよ」
俺は無くなった自分の腕を見る、跳ね返りは自分で痛いほど実感した。
「そーそーそれ、その腕が今言った跳ね返り。でね、骸真偽の槍は槍って言ってるけど腕輪なんだ、その腕輪から槍の形したアサヒの身代わりを呼び出す為の魔術武装だよ」
「つまり…その呼び出した槍に魔法を乗せて投げろって事か?」
「おー、アサヒにしては良く出来ましたー、パチパチパチパチ」
アーミャは拍手しながら口でもパチパチ言い出す。分かるぞ、絶対馬鹿にしてる。
「それ使えば呪いの跳ね返りは無いのか?どうせ今回もデメリットあるんだろ?」
「むー、アサヒつまんなくなってきたなぁ。そーだよー、デメリットはあるよー」
「腕も無くしてるしな、流石にアーミャのからかいに付き合ってる余裕は無いわ。…で、デメリットは?」
「…力は全て槍が引き受けてくれるけど心までは無理。正直な話それがアサヒにどう影響及ぼすか分からないからそれ以上の説明は出来ないよ」
「心?」
「心だよ、アサヒの魔法は僅かな一時だけモンスターを歪に蘇生させて使役してるんだ。まーなんとも趣味が悪いよね。アサヒキモいよね」
「うっさい、それは使った俺が一番自覚してるから言わないでくれ。…で、蘇生したモンスターにも心があるってのか?」
「断片がね、あるかもしれないし無いかもしれない。アサヒのユニーク魔法なんだから私はそれ以上分からないよ。スライム使った時は何かなかった?」
「ちょっと分からなかったな」
「まー、膨大な力の流れの中から一欠片の心を掬えって言ってる様なものだからね。でもその流れを他の媒体が受け取れば、心だけがアサヒに跳ね返るっていう理屈」
「そいつぁ分かりにくいデメリットだな」
「そ、だから悩むだけ無駄なの。で、どうする?祝福受ける?」
「俺としてはメリットの方が大きいしな。是非とも受けたい…が!どうせまだなんかあるんだろ?アーミャの言う事に絶対服従とかそんな感じのやつが」
アルミサエルの祝福レベル1ではアーミャとの約束を破る事に抵抗を感じるという副作用が付いてきた。レベル2で約束に強制力。ならレベル3は服従じゃないのか?
今さら小魔王退治を止めるつもりは無いが、アーミャに人生捧げる気は無い。
「んーん、私としては小魔王倒してっていう約束だけで十分だからねー、アサヒに強制命令なんてする気は無いよ」
「ほう、それは安心したよ」
「ただ、私への攻撃が一切出来なくはなる」
「ん?まぁ、アーミャのこと攻撃したいと思うほど嫌ってはいないし、別に何の不都合も無いな。祝福を受けるよ」
「はいはーい、ではアサヒにアルミサエルの祝福をー…と思ったけど、骸真偽の槍は利き手に付けるべきだしなぁ。右手治そうか?」
「は?え?出来る…の?」
「もー、アサヒ忘れたの?エリクサー作ってるの私だって言ったじゃーん」
エリクサー、その名前は出来れば忘れたかった。
麻酔無効で強制的に体を修復する悪夢の様な回復薬。
絶対に直るが直る過程は想像を絶する苦痛を強いられる。
「う…、あれか…、いや、うーん、でもなぁ」
「エリクサー嫌なら左手だけで戦う?」
「流石に左手だけで小魔王たちに勝てると思うほど気楽じゃねぇさ。うん、分かった、エリクサーもらえるか?」
「あまり気軽にあげれる物でも無いけど、まぁ、私はアサヒにお願いしてる立場だからねー、でも手持ちは無いの。素材はあるから今からやっちゃうね」
アーミャが両手を広げると胸の前の空間に紫色の小瓶が現れる。
宙に浮いたその小瓶は確かにエリクサーの入れ物のようだが中身は空だった。
アーミャの顔はいつもの様なおちゃらけた感じでは無くいつになく真剣な顔だ。
純白の羽に色素の薄い肌も相まって神秘的にすら見えた。
そして何やら喋り出す。俺では無い誰かに対して。
「これは汝の魂の新しい器。現世で洗い尽くせぬ汝の罪を赦す唯一の器。転生せよ、これは救済である。転生せよ」
蓋の無い小瓶の中に仄かに発光する液体が注がれていく。
その綺麗な光景とは裏腹に、注がれていく音が…深い呻き声の様に聞こえた。
最後に蓋をすると、それは確かに一度見たことがあるエリクサーそのものだった。
「ふいー、やっぱり転生儀式は疲れるなぁー、こいつはアフターケア要らないから楽だけどねー。アサヒー、はいどうぞー」
「…は?はあああああ!?ちょっと待て!転生!?おい!それ、いったい何なんだ!?」
「エリクサーだけど?」
「そーじゃねーよ!素材の事聞いてんだよ!」
「転生待ちの人だよ?エリクサーは転生者なの。私が作ってるって言った時点で分かるでしょー?あ、心配しないでね、アサヒとは他人だった人だから」
「そういう問題じゃねぇだろ…、エリクサーって、人間だったのかよ…」
「そだよー。んーとねー、命の重みや価値ってさ、みんな同じだと思う?」
アーミャは人差し指を立てて少し首を傾げる、問題を出してる先生を気取ってるつもりなのか、その顔や仕草は可愛いが今は無性に腹が立つ。
「当たり前だろ!個人個人で大事な人は違うだろうけど、どんな人にも大事な人がいるものだろうが!命は大事な物だ!」
「お、良いとこつくね、50点あげちゃおう」
「…ふざけてるのか?」
「いやいや、大真面目。命の重みは3つの要素で決まるんだ。人にどれだけ想われているか、人をどれだけ想っているか、自分をどれだけ想っているか。この3つ。あ、自分をどれだけ想っているかっていうのは自分を律し、高めようとしているかって事ね、自分に甘いのはダメだよ」
「その3つが無い奴の命は軽いと?」
「そう、まぁ、やっぱりいるんだよー。人を貶め、人から疎まれ、自分を省みないのが。自分を省みないっていうのがどうしようも無くてね、反省が出来ないんだ。そういうのを救う為にエリクサー作ってるの。最期に魂を人の為に使う事で浄化されるのさー。私の天使としての活動の1つなのだよ」
「エリクサーになった人は…合意の上なのか?」
「まっさかー、そんな訳無いじゃん?むしろ合意した人は反省の意思があるよ。合意しなかった奴をエリクサーに変えるのさ」
アーミャの言う事は分かる気がする、それでもやはりエリクサーを飲むのは気乗りしない。しかし、飲まないと…、片腕でマヒルとヒイリを守れるほど俺は強くない。
「……もらうよ、エリクサー」
「はいはーい、元からそのつもりだからね、あー、いっぱい喋って疲れちゃったー」
不穏ながらもアサヒの必殺技が出来そうな流れですね!
やはりアサヒは槍を投げないと!
ずっと丸太で行こうかなぁなんて思ったりもしましたけどね(笑)




