自覚無き小魔王2
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急に視界が明るくなる、カーテンで覆われた部屋から太陽が煌々と照らす街中へと大移動だ、眩しくて目が眩む。映画館から外へ出た時の様な感覚だ。
改めて周りを良く見ると石畳の通路にレンガの家、中世ヨーロッパを思わせる様なTHEファンタジー世界な街並みが広がっていた。
ありきたりだがこれこそ異世界ファンタジー!変わらない老舗の味というものだ!
「ファンタジー世界キターーーーー!!うおっしゃあ!」
流石にテンションが上がる、なんか通行人からジロジロ見られているが気にしない。良く考えたら今俺上下スウェットのダサイ格好だけど気にしない。
「で、まず何したら良いんだ?…あれ?天使さんはどこだ?」
天使さんがどこにも居ない。待って、来たの俺だけ?天使さんは?俺放置プレイなの?
『まずはギルド行っちゃってよ、言語統一の魔法かけてあるから会話も文字も問題無いからさー。冒険者登録したらまた呼んで』
「うえ!?頭に直接声が…、この声は…天使さん?」
姿は無いのに声だけが聞こえてくる。
『必要最低限の干渉しか出来ない決まりなのー、ごめんねー。あと私の名前はアーミャだから、用がある時だけ呼んでね、場合によっては返事出来ないけどー』
「へーい」
まぁ、あの似非天使の事はひとまず置いておこう、ギルドで冒険者登録か、いよいよもって異世界ファンタジーの王道じゃないか!不安だったけど一気にワクワク展開だ!
あれだろ?水晶とかに手を当てて「すごい!何て魔力なんだ!」って周りから一目置かれる展開のあれだろ?ワクワクが止まらない。
………ところで、ギルドどこだよ。
さっきから歩き回っているのだが一向にそれらしい建物が見当たらない。
もうこうなったら聞くしか無いだろう。天使に?いや違う、町人とのファーストコンタクトだ。異世界人との初会話、くぅー、ドキドキする。
実は誰に話しかけるかはもう決めている。決めているからこそこの考えに至ったのだ。
質素な革の鎧を身に纏い、ふわっとした栗毛でくせ毛の女の子。
その手には少し不釣り合いなサイズの大きな戦斧が握られている、冒険者に違いない。
冒険者だと思ったから話しかけるのか?ふふふ、そんな訳が無いだろう。
では何故か?その女の子の頭にネコみたいな耳が生えているからに他ならない!
お尻からは尻尾まで生えている!これは夢にまで見た獣人!反則的に可愛いじゃないか!
とはいえ知らない女の子に話し掛けるのはちょっと…いやだいぶ勇気が…。
いや!頑張れ俺!道を聞くだけだ!
「あ、あのー、少し道を聞きたいんだけどいひっ…良いかな?」
ちくしょう噛んだあぁぁぁぁ!
「なんにゃあわたしもよぉわかにゃくてにやぁ」
「ん?」
「にゃかぁわたしもきたぁにゃっかりにゃに」
「……何言ってるか分かんねえ!言語統一魔法仕事しろ!」
「あ、ごめんごめん、つい地元の方言がにゃ」
そう言って少しだけ照れるように手を振る女の子、うん、可愛い。
言語統一魔法が機能してない訳ではなかったようでホッと一安心である。
「あ、こちらこそ、取り乱してしまい申し訳ない。実は冒険者ギルドを探してて、君が冒険者っぽく見えたから声をかけさせてもらった感じで」
「それは奇遇だにゃあ、実は私も田舎からやって来たところでにゃ、ギルド探してうろうろしとったんよぉ、一緒に探そか?」
「あ、是非是非。俺の名前は朝陽、君は?」
「マヒル、よろしくなぁアサヒ」
これは幸先が良い、いきなり女の子と仲良くなれてしまった。冒険者を目指してるのならこれからも一緒に行動することも多いかもしれない。
あれ?モテモテライフ意外と行ける?
その考えは甘かった事を割りと早々に思い知る事になる。
そう、ギルドの場所は町の人に聞いたらすぐに分かった、地元民が知らないはずがない。
ギルドは酒場っぽい雰囲気のある場所で、実際にいかにもな厳つい人達が酒を飲んだりしている。報酬のやり取りなどもしていた。
職員の受付嬢に冒険者になりたい事を伝えたらB5サイズくらいの色々書かれた紙を渡されて名前を書くように言われた。問題はその後である。
職員が取り出したのは大きな水晶だった。やっぱりあるんだ!なんて興奮したさ、どうやら魔力ランクやらスキルやらが見れるらしい。
先にマヒルが水晶に手を当ててステータスを確認していた。水晶がほんのりと光っている。
「魔力ランクはDですね、ほぼ無し。まぁ獣人ですからね、そこは気を落とさないでください。スキルは優秀ですよ。複合スキル【身体強化Lv2】全身体能力を上昇させる常時発動型スキルですね、獣人固有の強力なスキルです」
「えへへ」
俺の方を向いてピースしてくるマヒル、無邪気な笑顔が実に微笑ましい。
「後は【斧修練Lv3】【加速Lv1】【強撃Lv2】【直感Lv5】こんなところですね。スキルは本来の身体能力に上乗せされていきますので、スキルレベル鍛えていけばドラゴンとかも倒せそうです。流石は闘神と名高いライオルト族ですね」
完璧に戦士。マヒルってけっこう凄いんだな、周りの冒険者達が声をかける算段を始めてる、いや、やらねぇよ?俺の仲間だよ?
さて、俺の番だ。こういうのは異世界から来た勇者が水晶に触れたとたんに光輝いて尋常じゃ無い魔力に周りが騒然となるのがセオリーだ、そしてマヒルも俺に惚れるはずだ。はっはっは。
俺はドヤ顔で水晶に手を乗せた。……水晶ひかんねぇな。
……ん?受付嬢の顔がなんか…可哀想なものを見るような目で俺を…、何この既視感。
「魔力ランクF、魔力は生命維持に消費されてる分で全てです、人間なら最低でもCランクくらい行くものなんですけど、まさか獣人以下とは…、冒険者登録やめておいた方が…」
「なん…だと…、そんなばかな…。いや!大丈夫!スキル強いはずだから!」
「えー、スキル【パルクールLv10】…え?これって戦闘技能じゃ無いですよね。自分の体のみを使った移動術。なんでこんなに高いの…」
「どうよ!凄いっしょ?」
ズルして手に入れたスキルだからな、弱いはずが無い。
「スキルLv10は確かに凄いですが…、コレ鎧とか着てると使えないですよ?武器を手に持っててもアウトです。武器防具使わずに戦うつもりですか?」
「え?」
「鎧を着ると跳躍力が落ちて、武器を持つと手が塞がりますから。まぁ、スキルで強化されるのである程度はいけそうですが、重装備じゃ無理でしょうね」
まさかの外れスキルですか?スキル2つしか持ってないのに?終わった…、俺のモテモテライフも無双ライフも終了した。
「もう1つは…【投槍熟練Lv10】?え?何これ?修練じゃなくて熟練?えーと、槍に限らず棒状であれば投げれる…ようですね。えー、だから何でこんなに高いの…」
お?これは凄いのかもしれない。流石に両方外れスキルだったらへこむしな。
「ふっふっふ、どうよ?」
「いや…、投槍とか今時猟師でも使わないですよ?」
「ん?」
「戦いでも弓の方が効率良いし、矢の方が安価なので。ジャベリンはそもそも武器屋でも置いてあるかどうか…」
「待って…、まさかの不人気武器?」
「…はい。投げたら終わりだし、回収しに行くのも危ないので」
俺はその場に崩れさった、まさかリアルにorzポーズをやる事になるなんて…。
打ちひしがれた俺を余所に勧誘されまくりのマヒル様…、ええ、ええ、そうでしょうともよ。残念スキルの冴えないスウェット男なんて誰もいらないでしょうよ。
せっかく仲良くなれた女の子ともこれでお仕舞い。あー、なんで俺こんな世界に来てまでへこんでるだろうなぁ、全部あの天使のせいだ。
「あのぉ、勧誘は嬉しんにゃけどな?私このへこんでる人とパーティ組もうと思っとったんよ」
ん?え?この声、マヒル様?え?エリート認定されたマヒル様がゴミ認定された俺なんかと?いやいや、流石に幻聴だろう。
「嬢ちゃん正気か?そいつと組んでも足手まといだろ?」
「それはやってみにゃあと分かんにゃあよ、ふふふ」
僕の手を掴み立ち上がらせるとそのまま僕の手を握ってくるマヒル様。え?なんですか?これも既視感ありますよ?
「アサヒ、私と組んで欲しぃにゃ」
「え、えー、正気ですかマヒル様」
「様て…、卑屈過ぎにゃあか?」
「いや、でもさ、何で俺なん?」
「私のスキルの【直感】がにゃ、出会った時からずっと私に訴えかけとぉよ。この人と冒険したら絶対面白くなるって」
「え?じゃあほんとに俺なんかと?」
「改めてよろしくなぁ!アサヒ!」
「ふおおおおおお!こちこそおぉぉぉ!」
マヒルはライオンの獣人です。がおー。
方言は適当です。たぶん実際にはありません。ファンタジー世界だから問題ありませんよね☆
次はいよいよタイトルの核心に迫っていきますよー!…ゆるく。