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VSカルキノス1

今回から戦闘開始です。小魔王戦となります。

楽しんでいただけたら幸いにございます。


 翌日、俺とマヒルは旧ダイザミの廃墟へと向かって歩いていた。

 え?ヒイリはどうしたかって?そりゃもちろん別れたさ、元々ダイザミまで同行するのが契約だったし、流石に小魔王の所に連れていく訳にもいかない。

 ヒイリは少し滞在するらしいからまた会うだろう、だからお別れは言わなかった。


 旧ダイザミまでの道のりはやはり湿地となり、徐々に大気に水気を帯びていく、沼も増えてきた、そろそろブレイドキャンサーの住み処となる。


「私が先行するに、アサヒは後ろから援護頼むにゃ」


「女の子の後ろに…、それは格好悪いなぁ」


「私のスキル忘れとお?【直感】でブレイドキャンサーの不意討ちに対応出来るにゃよ」


「なるほど、【直感】スキルの汎用性パねぇっす」



 何かあったら援護してくれと頼まれたが結論から言って何も無かった。

 もちろんブレイドキャンサーには何体か遭遇した、しかしマヒルが討ち洩らすはずも無い。

 沼から出てくるブレイドキャンサーの鎌を関節から切り落とし、出てきた所を真っ正面から叩き割る。時には鎌を落とされた時点で戦意を失う奴もいた。


 マヒルの斧は大地の魔力によって質量が強化されている、純粋に質量しか増えていない。しかしそれだけで十分だった。質量とは攻撃力そのものなんだと思い知らされた。

 ブレイドキャンサーの堅い甲羅の鎧はそれを上回る質量によって粉砕される。

 純粋に、ただ純粋に、堅い物を重い物で破壊する。



「うわぁ…、これ攻撃力もマヒルのが上じゃないか?」


 俺いらないんじゃないですかねぇ?なんて本気で思ってしまう、別に嫌みのつもりは無いのだが俺の独り言に気付いてマヒルが足を止めた。


「何言っとおにゃ?攻撃力っていうんは質量とスピード、何よりもリーチにゃ、アサヒの総合的な火力は私じゃかなわにゃあよ」


「え、待って、マヒルの中では俺そんなに強い立ち位置なの?」


「アサヒが居てくれにゃあと小魔王と戦うんは私でも怖いに、アサヒが居てくれるから、アサヒが戦う意思を持つから、私も頑張ろうと思うにゃよ」


 いや…俺はただの高校生だ…、戦う意思?そんなものは無い。小魔王なんていう危ない奴等が居るなんて聞かされて無かった。俺は…嫌々戦っている…。

 そりゃ最初は浮かれてたさ、でも実際に命の取り合いなんて…。今でもあの火吹きスライムの爆炎が脳裏に焼き付いて離れない。


「お…、おう。任せとけ」


 マヒルに嫌われたく無いから戦っているだけなんだよ?…いや、理由はそれで十分じゃないか、今は…それで良いはずだ。虚勢も張っとけばいつかは本物になるさ。




 次第に道のりが険しくなっていく、遠くを見ると土壁で出来た壁が泥濘ぬかるんだ地面に埋まっている、町だった物の残骸が目立ち始めた。

 つまりはあいつの、カルキノスの脚も視認出来る距離にあるはずだ。普通の人間である俺なんて一撃蹴られたら終わりだろう、周りを注意深く確認する。


 そしてそれはすぐに見付かった、まるで塔の様にそびえ立つカルキノスの脚、近くに生えた背の高い樹木よりも更に更に高く伸びている。

 その脚を見てなるほどなと、そう思った。歩脚もブレイド状になっているとは聞いたが、体を支える為に先端は太く丸い。そしてその両側が両刃の剣の様になっていた。

 しかしブレイド状になっているのは先端から二つ目の節までのようだ。


 たった一歩だけ歩いて蹴られたら即死、位置的に鋏脚きょうきゃくのリーチにも入っているはず。カルキノスの長すぎる手足はそのまま逃れ得ない檻を意味する。



「この位置が近付けるギリギリだろ、いや、あいつの手足長すぎてどこまで安全か分からねぇけどさ、もう既にリーチに入ってる気もする」


「しっ、喋らにゃあ方が良いに…」


 マヒルも同じ考えらしい。これは退き下がるべきかもしれない。不用意に近付くべきではない。戦うにしても準備は絶対に必要だ。今のところ攻略の糸口すら見えない。



 俺は一歩後ろに後ずさった、そのまま距離を空けようとした。その行為が致命的な大失敗だった。文字通りの致命的な失敗だ。



 パキッ…



 乾いた音が響いた。ここは湿地帯だ、乾いた枝なんて無いと思っていた。不意討ちの様に鳴った音に俺も大きく息を乱す。


「うあ!?」


 踏んだのは枝では無かった。ブレイドキャンサーの小さな破片、殻の一部。


「気付かれたにゃ!アサヒは全力で待避して!私が時間を稼ぐにゃ!」


 言うが早いか動くが早いか、マヒルは俺の前に躍り出ると体を大きく旋回させて弧を描き、目前まで迫ってきていたソレに戦斧を叩き付けた。


 ソレとは巨大なギロチンの様にも見えてしまいそうなカルキノスの歩脚、俺に向かってただ一歩直進しただけに過ぎない。

 カルキノスにとってはそんな小さな挙動一つ、しかし俺にとってはソレは刃物の付いた壁が迫ってくる様な圧倒的な恐怖だった。


 マヒルの渾身の力を込めた一撃はカルキノスの歩脚に僅かな抵抗を与える。

 その僅かに生じた隙に俺は…歩脚をかわし、前方へと駆け出した。


「にゃ!?アサヒ!逃げにゃあと!」


 逃げる?無理だ、一歩で追い付かれる。何よりもマヒルを囮にする選択肢は存在しない。

 カルキノスは怖い。でも、それでもマヒルの方が大事なんだ。


「マヒルが逃げろ!時間を稼ぐのは男の役目だ!」


 力押しのマヒルよりも俺の方がまだ時間を稼げるはずだ。格好良いとこくらい見せないとな。…最後の機会になっちゃうかもだけどな。


「にゃー!もー!アサヒのバカー!」



 行けるとこまで走る、カルキノスは大きすぎるがゆえに足元は逆に見にくいはずだ、旧ダイザミの廃墟まで一心不乱に駆け抜けた。


 地面が僅かに揺れる、脚を動かしたな。なるほど、テレフォンパンチも良いとこだ。

 地面に埋まった町の残骸、斜めに埋まった家の壁を足場に高所へ、近くの屋根に飛び乗り更に高所へ、わざと目立つ所へ。

 高く、とにかく高い屋根へ飛び付き、体を持ち上げ更に上へ。


 迫り来る歩脚、ブレイド状なのは第二関節まで、そこから上は…普通の脚だ!


「うおおおおお!」


 跳べるか?いや、確信はある、跳べる。ズルして手に入れたスキル、パルクールが俺の身体能力を上回る跳躍力を引き出す。

 俺を蹴り殺そうとしたカルキノスの歩脚に飛び付き、第二関節に手をかけると片手でぶら下がる姿勢になる。高い、怖すぎる、どうせならスキルで度胸も強化して欲しかった。

 落ちたら死ぬ、何やってんだ俺…、血の気が引いていくような想いなのに心臓は鼓動を早める、気持ち悪い。落ちちゃった方が気が楽なんじゃないか、そんな事まで考えてしまう。


「後には…退けねぇよなぁ」


 体を持ち上げ、関節に両手をかけると反動をつけて体を上げる。次に関節に足をかけ、歩脚の凹凸に手をかけた。まさか蟹の脚を登る日が来ようとは…。



カルキノス戦開幕、いやぁ、ちょっとでかく設定し過ぎた感は否めません。

カルキノスとは蟹座の神話に出てくる化け蟹の事です。

友情に熱い蟹なので今回名前を借りました。

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