ダイザミ道中2
ようやく更新できました!書いてます!書いてますよー!
今回は次に戦う小魔王モンスターの種類が明らかになります。
「ヒイリは何でダイザミに?」
ヒイリは俺とマヒルを護衛として雇いたいと言った、では何故護衛が必要となる道のりを一人で歩いていたのだろうか。
「観光ですよ?」
「へ?」
「知りませんか?ダイザミは今グルメな方たちに人気なんですよ」
「知らなかったな、賑わってるってことは小魔王は居ないのか」
肩すかしではあるがそれならそれで俺らも観光と洒落込むとするか、なんて思っていたら何とも意外な答えを聞くこととなってしまった。
「いえいえ、小魔王のおかげで賑わっているんですよ。そのせいで観光客を狙う山賊が出たのは予想外ではありましたけどね、アサヒさんに会えて良かったです」
「んー?」
腑に落ちないまま歩いていると、徐々に大気が水気を増していき、地面も少し泥濘み始める。足が取られる程では無いがいよいよもって湿地帯らしくなってきた。
よく見ると沼になっている場所まであるようだ、これは落ちたら大変だ。苔も多く濁った沼は深さが分からない。
「沼増えてきたな、気を付けて進もうぜ」
「そうですね、沼は気を付けましょう、武器出しておいた方が良いですよ」
「それはどういう……うおあああ!!」
どういう事か聞こうと思ったが、その質問は全くもって意味を為さなくなった。今、目の前に現れた物こそがその答えなのだから。
苔の色と土の色が混ざった様な不透明な沼、その沼が急にせり上がったかと思うと一本の鋭利な大鎌がそびえ立つ、俺の伸長と同じくらいの大きさ、灰色に青みがかった巨大な大鎌。硬質だが金属では無い、突然の事に呆気に取られてしまった。
「アサヒ!」
俺に向かって振り下ろされた大鎌はマヒルの戦斧によって弾き返された。俺はそこでようやく事態を飲み込み戦闘体勢へと移行する。
「ごめん!助かった!」
「危機感が足りにゃあよ!」
「面目無い…」
日本人だからかな、平和ボケが染み付いているのかもしれない。
「で、あれはいったい何なんだ?」
「もうすぐ分かるに、奇襲に失敗したから…出てくるにゃ」
沼が更にせり上がり、本体が出てくると大鎌の正体が明らかになる。それは元の世界でも見たことのある生き物だった。
2つの鋏脚と8つの歩脚を持つあの甲殻類、その姿は正に。
「カニだぁぁああ!」
右の鋏脚だけやたらと大きい。上の爪だけが大きく鎌状に進化しており、挟むという機能は失っていると思われる。簡単に言ってしまえば右手が刃物になった巨大な蟹だ。
シオマネキ?いや、どちらかと言えば某狩りゲーの蟹型モンスターを片腕だけ部位破壊した様な感じだ。まぁ、ソレはヤドカリだが。
「ブレイドキャンサーにゃ、なんでこんなとこまで…」
「小魔王の影響で縄張りが拡大してるからですよ。アレの解体ってできますか?追加料金も払いますよ!ダイザミに着いたら調理してもらいましょう!」
「はあ!?」
「何言っとお!?」
戦闘体勢の俺とマヒルとは対称的に嬉しそうなヒイリ、いや、まさかね、まさかとは思うけど。ダイザミのグルメ食材って…。
「増えすぎて困ってたけど、食べてみたら意外と美味しかったらしいですよ?」
「まじかよ…、カニが美味しいのはどの世界も共通だったのか」
確かにあのサイズは食べ応えがありそうだ。しかし…外骨格だよな?なんで自重で潰れないんだ?まぁ、魔法有りの世界で突っ込むだけ虚しいか。
「詳しい話はダイザミに着いてからにしましょうか」
「だな。話の前にあのカニ何とかしねぇとな」
はてさてあの固そうな甲羅をどうしたものか、周りを見渡すが手頃な倒木は落ちていない。マヒルに伐採してもらおうか、それとも毒針を撃ち込んでみようか。
「あれなら私一人で十分にゃ、アサヒはヒイリを守っとって」
「え?あいつ強そうに見えるけど!?」
心配する俺を尻目にマヒルは斧を構えて前傾姿勢を取る、マヒルの尻尾がユラユラと揺れる、やっぱりあれでバランス取ってるんだろうか、…可愛い。
猫みたいで可愛い、なんて思ってしまった俺の気持ちはその後の惨状を見て軽く引く事となる。あの戦闘力は猫なんかじゃない、…ライオンだ。
音も無く地面を蹴ったマヒルは一瞬でブレイドキャンサーの懐へと詰め寄ると、間髪容れずに歩脚の付け根の間接へと斧を叩き込み、へし折る様に切断してしまった。
脚を失いバランスを崩したブレイドキャンサーに追い討ちを掛ける様に2本3本と歩脚をバラしていく。そうして全ての歩脚を失い向きすら変えれなくなった姿はなんとも憐れだった。
怒ったブレイドキャンサーは鋏脚を振り上げ威嚇するが何の意味も無い、その鋏で地面突っついて向き変えた方がよっぽどマシだろうに。
残った鋏脚もマヒルによって解体が完了すると、ブレイドキャンサーは胴体だけの置物となってしまった。口や目だけが動いて何ともキモい。
「ヒイリ、解体ってこれで良いにゃ?」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあティタンポケットにしまっちゃいますね」
魔法のウエストポーチにブレイドキャンサーの脚を次々としまっていくヒイリ。最後には胴体まですっぽりと収まってしまった。
巨大な蟹を手際良く解体する獣人の可愛い女の子と、まだピクピクと動くソレを何食わぬ顔で回収するエルフの可愛い男の娘。
うーん、なんだろう、こういうギャップは求めて無いよ?
「……ファンタジーってこえぇな」
「へ?」
「何ですか?」
俺の呟きの真意は伝わらない、俺の感性は完全にアウェイだった。
はい、蟹でしたー。ヤドカリじゃないですよ。カニですよ。
蟹は美味しいですよね。美味しさは異世界共通なんですね。蟹の一番の天敵は人間ですよね。
小魔王はこのブレイドキャンサーがどう進化しているのか、ご期待ください。




