VSスライム4
はい、今回は丸々スライム戦です。
真面目な戦闘パートでございます。
マヒルが突然後方へ飛び退き1匹のスライムと睨み合う。
俺との距離、推定500メートル地点。
そしてスライムから放たれた爆炎を合図にマヒルは俺の方へと走り出した。
「派手なスターターピストルだなぁおい、火薬の量間違えてんだろ」
冗談を言いつつ自分の緊張をほぐす、…始まった、火吹きスライム第二戦だ。
推定400メートル。
丸太に手を置いてじっと待つ、生木だからか、自分の汗か、手がしっとりと濡れる。
とうとう始まった、心臓の音が俺を急かす。他の音が聞こえない程に心臓がうるさい。
推定300メートル。
まだか、まだか、…怖い、近付いてくるにつれて焦りが増していく。
本当に100メートルの距離まで引き寄せても大丈夫なのか?
俺なんて簡単に死ぬぞ?もう、…もう攻撃したい。安全な所から戦いたい。山なりに投げればこの距離でも届くんじゃないか?
……いや、マヒルが、マヒルが俺を信用して走ってくる。
スライムに殺されるよりもマヒルの信用を失う方が怖い。
大丈夫だ、大丈夫。俺は出来る子だ、やれば出来る子だ。
心臓の音が静けさを取り戻していく、大丈夫だ、落ち着け、落ち着け俺。
推定200メートル。
事態は急変する。この距離でも何となく分かる。スライムの体がブクブクと泡立つ。
炎を吐くのか?走りながらでも吐けるのか?
否、爆発したのはスライムの足元だった。
元々自前の爆炎による推進力で加速していたスライムは大きな爆発により宙を舞う。
マヒルの頭上でスライムはなおもブクブクと沸騰していた。
だめだ、あれはダメだ、頭上から降り注ぐ爆炎なんて凌ぐ術などありはしない。
このままだと…、マヒルが…死ぬ。
推定150メートル。
俺は反射的に丸太を投げていた。
スライムに当てる気など無い、マヒルとスライムの間に投擲した。
精度はいらない、ただ、ただ投げた。
スライムは突然飛んできた丸太に気を取られる。
それは本当に僅かな間。次の瞬間には丸太は既に木端微塵に爆砕されてしまっていた。
しかしその僅かな間が、貴重なワンテンポが。そして丸太で僅かに逸れた爆風がマヒルの生死を分ける事となった。
マヒルは爆風で地面を転がるがヨロヨロとおぼつかない足取りで立ち上がる。
そしてまた走り出すのだ、俺の方へ。
生きていてくれて良かった、なんて感傷に浸る余裕なんてありはしない。
マヒルの走り方は明らかにおかしい、右足を、引きずっていた。
斧を背中に背負ったマヒルは時には手も使って体を支えながらなおも走る。
「マヒル!!!」
マヒルに向かって叫ぶとマヒルは俺の顔を真剣に見つめてくる。
その目が訴えかけてくる。「作戦続行」だと。
「くっそ!」
推定100メートル。
「くらえこのやろおぉぉぉ!!」
もう恐れなど抱いていない、あるのは怒りと…焦り。
マヒルが大怪我をしたのだ、早く治療しなければならない。
俺の体がしなり、まるで人間の形をしたカタパルトの様に丸太を撃ち出す。
スライムは当然こっちに向かって走ってくる。マヒルは後回しでも良いと言わんばかりだ。事実足を傷めているマヒルはスライムに追い付けないでいた。
スライムが丸太を爆砕し最短で距離を詰めてくる。
皮膚を焦がさんばかりの熱風と弾け飛んだ木屑が降りかかるが気にしてはいられない。
流石にスライムも丸太を対処しながらでは最高速度は出ないらしい、俺は可能な限り丸太を投げた、投げ続けた。
その分だけ吹き飛んでくる木屑が俺の体を切り裂き、焼けた木片は俺の皮膚を焼く。
それでも、俺は投げるしか無かった。投げるしか、出来なかった。
いったい何回投げればあのスライムはガス欠になるのか、そんなの最初から期待してはいけなかったのか、俺の考えが甘かったのか。
スライムはもう目前まで迫ってきていた、とうとう爆炎の射程内だ。スライムの体はやはり泡立つ、その様子は少しも衰える様子が無い。
次、スライムが火を吹けば終わる。投げた丸太ごと俺は吹き飛ぶだろう。
俺が打てる手はあと一手しかない。
「終わって…たまるかあぁぁ!!」
俺は丸太を投擲した。しかしその先にあるのは地面。
真下に投擲された丸太は深々と地面に突き刺さり一本の柱が出来上がった。
俺はその柱の天辺に飛び付き手をかける。反動をつけ体を持ち上げたその刹那、柱を粉々に砕く炎熱の爆風が俺を更に宙へと押し出した。
宙に投げ出される事で直撃は避けた、俺はまだ生きている。
生きてさえいればまた次の一手が打てる。
…そんな夢のような一手があれば、だが。
スライムは再び沸騰する、ガス欠なんて期待する方が間違っていた。
避ける場所など無い、今俺は丸太の欠片と共に空を舞っているのだから。
……夢のような一手が、…あれば。
「ああああああああ!!!!」
突然聞こえてきた叫び声、それは痛む体をごまかし振り絞ったマヒルの怒号。
スライムは完全に油断していた。
スライムに襲いかかる刃の付いた鉄塊、マヒルの戦斧がスライムに痛烈な一撃を叩き込む。
泡立つスライムの体は力なく萎み、泡となって消えていく。
やはり予想通りだった、あのスライムは耐久力が低い。
そして地面へと叩きつけられるはずだった俺を包んだのは今朝と同じ最高級の毛布、もといマヒル。いや、本当言うと革の鎧でゴツゴツしてて抱かれ心地はよろしく無かった。
マヒルも流石に疲れきっていたのか二人して地面に転がりこんでしまう。
「ふ、あは、あははははははは!」
「ふは、はは、ははははははは!」
どちらからともなく笑い出す。もうどっちが笑ってるのか分からないくらいに笑っていた。
勝った、今はそれだけを噛み締めて笑っていた。
スライム戦、決着!
満身創痍ですがこれまだ最初の敵です。
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その前にスライム編もうちょっとだけ続くんじゃ。




