自覚無き小魔王1
「うわああああああ!!頭おかしいんじゃねぇか!?あのスライムぅぅ!!」
俺は全速力で逃げていた。死物狂いで逃げていた。
そう、最弱モンスターでお馴染みのあの丸くてプルプルとしたスライムから。
「この」世界でもやはりスライムは最弱モンスターだった、そう聞いていた。
これが最弱なら俺は一生宿に引きこもる、冒険者辞める。
意気揚々とスライムを狩っていたら奴は突然現れたんだ。見た目は他のと変わらない普通のスライムだった、見分けなんてつかない。
スライムの体はご存知の通り液状だ、その体が急にブクブクと沸騰したかと思うとあろうことか炎を吐き出した、それがもう炎ってレベルじゃない。
一瞬で広がるような大爆発だった。イメージ的には火炎放射よりも粉塵爆発。
巻き込まれていたら確実に死んでいた、どうやって生き延びたかは後で語ろう。
……… ……… ……… ………
さて、事の始まりまで話を遡ろうか。
……… ……… ……… ………
◇ ◇ ◇
「よっしゃ!勝ったー!全クリだー!」
コントローラー片手に咆哮を上げる男子高校生が一人。
休日だというのに部屋に籠り、昼だというのにカーテンを閉めてのゲーム三昧。
決して外が怖いとかそういうアレでは無い、カーテンを開けていてはテレビ画面が外の光を反射してしまい見辛いのだ、ゲーマーなら分かってくれるだろう。
せっかくの休日、だからこそ一日かけてゲームに勤しむ事が出来る訳で、俺の青春なんてそんなもので、ロールプレイングゲームの中の主人公が本当の自分な訳で。
「っしゃ!今の俺ならどんな世界も救ってやるぜ!」
なんて、フラグめいた台詞だって恥ずかしげも無く叫んだりして。
いや、そりゃね、異世界転生とか流行りだし?そんな言葉も言ってみたくなるじゃん?
でもさ、本当に行けるとは思わないし、ましてやそんな世界本当にあるとも思わない。
いや、いやいやでもさ、テレビ画面からヌッと現れたこの可愛い女の子いったい何なの?いや、まだ顔しか出てないけど色素の薄い透き通る髪と肌、どう考えても日本人じゃない。
「本当に?救ってくれる?」
俺と似た様な歳の女の子かな?画面から顔出して俺の部屋キョロキョロ見回してる。
「出ても大丈夫そうね」
出てきた女の子はまるで天使みたいだった、うん、実際に羽生えてるしたぶん天使。
「な、ななななな、なんでテレビから!?」
「いやー、ちょっと救って欲しい世界があってねー、やる気のある人探してたら偶然君見つけてさ、どう?やる?世界救っちゃう?」
「いやいやいやいや、軽すぎない!?」
「君の好きそうなゲームっぽい世界だよ?魔法とかあるよ?」
「なるほど詳しく」
俺の妄想がとうとう可視化したかの様な出来事だが俺は冷静だ、何せ異世界に行くシミュレーションは何度も脳内で繰り返し行ってきた。
「私の担当してる世界なんだけどねー、どうにもこうにもやばくてさー、もうこうなったら他の世界から勇者でも探そうかなーなんて思っててさー」
「…あれか?魔王倒せ的な?」
「ああ、安心してよー、魔王はもう死んでるからー、代わりにもっとやば…安心してよー」
「ちょっと待て!何言いかけた!?」
「異世界から人連れて行くと特典付けれるんだよ、燃えるでしょ?」
「ごまかした!?いや、しかし待てよ、それってあれか?異世界転生してチート能力で無双するあの展開か?よし!待ってました!」
「…え?転生が良かったの?転移のつもりだったんだけど…、ちょっと待っててね、君程度でも転生可能な生き物調べるから」
そう言うとタブレットパソコンを取り出す天使さん、どこから出したし。
っていうか、程度って言った?ねぇ?もしかしてすっごい見下されてる?
「えーとねー、……………ぅわ」
天使さんの顔が露骨にひきつったのは気のせいかい?
「何?何があったの?」
「んー、虫と昆虫と魚介類だったらどれが良い?」
「はあぁぁあ!?いや!えええええ!!ほんとにレパートリーそれだけか!?だいたい虫と昆虫同じだろ!実質二種類だろ!」
「全然違うよ、少なくとも昆虫なら足が6本より増える事はない」
「転移で!今の姿のままでお願いします!!」
「うん、その方が楽で助かるー」
これで異世界モテモテライフの路線は潰えた…、自分の事を不細工とまでは思わないけども、モテた事無いしね。ただのゲーマーだしね。
こうなったら特典に期待するしか無い、異世界無双路線はまだ希望があるはずだ。
「じゃあ特典って何なの?」
「あ、うん。スキルだよ。好きでしょ?そういうの」
「っしゃあ!魔法使いたい!」
「それ無理ー。君の頭で魔法なんて理解できないよ」
良い笑顔で手をパタパタ横に振る天使さん、可愛いけどなんか腹立つ。
「俺の頭の出来知ってるのか!?」
「違うんだよ、この世界には魔法無いでしょ?今君が持ってるスキルを強化する事しか出来ないんだ。でも安心して、この世界は平和だからねー、その分趣味に時間使って色んなスキル持ってるものなんだよ、人によっては10~20もあったりするよ。ちょっと君が習得可能なスキル検索するねー」
そう言うと再びタブレットパソコンを触る天使さん。
「えー…、ぅわぁ…、何これ、2つて…」
天使さんは可哀想なものを見る目でこちらを見てくる、何?俺そんなに酷いの?
「まじかよ…、でもその2つがチートスキルな可能性だってあるだろ?希望は捨てないぞ」
「あ、じゃあ1つ目、【パルクール】だよ。走行術の類いだね、障害物とかあっても最短移動出来るスキルだよ」
「あー、陸上部でハードルとか高跳びとかやってるからな、それが強化された訳か」
「それじゃ2つ目、【ジャベリンマスタリー】。棒状の物を上手に投擲出来るよ」
「そういやぁ部活の顧問が槍投げの選手だったからな、投げ方とか教えてもらったわ。…って、両方部活関係?他には無いのかよ」
「それは逆にこっちが聞きたいよ、君今まで何して生きてきたのさ」
「…ゲーム」
あ、やめて。蔑んだ目で見ないで、少し癖になりそうだからやめて。
「いや、でもさ!ゲームでも何かスキル取得出来たりとかしないの!?」
「ゲーム開発した事は?」
「無い」
「ゲームのテストプレイでバグ探したりとかは?」
「無い」
「考察と検証を繰り返して攻略をまとめたりとか」
「無い」
「ゲームがとても上手くて多くの人からの称賛を受けたりは?」
「無い」
「…諦めなよ」
「ちくしょおぉぉぉぉ!!!」
なんだかもうバカらしくなってきた、異世界行ってもモテないだろうし、無双もできそうにない、行くメリット無いじゃん。
「はぁ…、異世界行くのやめようかな」
「え?それは困る!」
意外にも慌てる天使さん、え?俺なんて連れて行っても弱いんじゃねぇの?
「もっと強い奴のが都合良いんじゃねぇの?」
「そういう人ってさ…、リア充なんだよ。異世界なんて行きたがらないの」
「…なるほど、一理ある」
「だからね、君に救って欲しいんだ」
「!」
急に俺の手を掴んで上目遣いでお願いする天使さん。
やめて、モテない男にそんな事しないで、断る選択肢が弾けとんでしまうじゃないか。
「わ、分かったよ…、俺の名前は朝陽だ、よろしくな」
「わーい、アサヒちょろーい」
「おい待て、今なんつった!?」
「はーい、テレビ画面に飛び込んで、すぐ着くからね」
「いや誤魔化されないからな!?」
「はよ行けし」
背中に強い衝撃が加わり俺の体はテレビ画面の中へと落ちていく。
「な!うわぁああ!!!!」
俺はテレビ画面の中へと飛び込んだ、いや、蹴り飛ばされたと言った方が正しい。
いつか絶対仕返ししてやる…。
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