赤子の時分
目が覚めた俺は、オルトという名の少年になっていた。
とある王国のとある山奥で、猟師の父・エージスと母のユフィに育てられている。
父母とは、血のつながりがあるというわけではない。
まずは、両親との出会いから話そう。
今から10年前、当時父が住んでいた山村の近くにある大樹の下で、俺は捨てられていたらしい。
狩りをしていたエージスは、そんな俺を見つけ、村へと連れて帰った。
自宅へ着いたエージスは、妻のユフィを呼んだ。
「ユフィ、ちょっと来てくれないか」
「おかえりなさい、一体どうしたの?・・・その子は誰?」
エージスは、ユフィに赤子を見つけた状況の説明をした。
ユフィはエージスから赤子を預かると、エージスに言った。
「そうなの・・・うちで面倒をみてあげたいけど・・・」
そう言ったユフィの視線の先には、別の赤子が籠で寝ていた。
2か月程前に産まれた、エージスとユフィの実子アメリアであった。
「まずは、教会で神父様に相談してみましょう」
「そうだな」
ユフィに言われたエージスは、赤子を連れて、村で唯一の教会へと向かった。
教会に就いたエージスは、神父を見つけると、赤子を見せて言った。
「神父、森で赤子を見つけたのだが、こちらで引き取ってはくれんか?」
神父は、エージスと抱えた赤子を交互に見つつ
「エージスさん、この赤子は一体森のどの辺りで見つけたんですか?」
「あの大樹の麓で、木に守られるように寝ていた」
神父は、エージスの言葉を聞くなり、深く考え込みだした。
エージスは何も言わない神父を不思議に思い、尋ねた。
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
「・・・私の思い違いであって欲しいのですが、その赤子は『魔物の攫い子』かもしれません」
「・・・『魔物の攫い子』?」
『魔物の攫い子』とは、この世界に存在する『魔物』や『人外の化物』に好かれ、攫われていった子供の事であった。
そして、この子供には、非常に難しい問題を抱えていた。
「もし、この子が『魔物の攫い子』だったなら、否応なく魔物や化物を惹きつけてしまう。
間違いなくそうだとは言えないが、村に何かがあってからでは遅い。森へと返してきた方が良い」
「そうか・・・」
「聖職者である私が、お力になれる『スキル』や『魔道具』を持っていればよかったのですが・・・申し訳ありません・・・」
エージスは、自分の腕の中で眠る赤子を見つめた。
森へと返そうと決心をした時
「そうか・・・仕方ないか・・・ん?」
閉じられていた赤子の瞼が開いた。
黒色の瞳は、じっとエージスを不思議そうにのぞき込んでいるようだった。
罪悪感が無いわけではなく、今晩だけでも家で面倒を見ようと家へと連れ帰った。
家に帰ったエージスは、ユフィに神父との話を聞かせた。
「そんな事が・・・それで、森へとその子を返すの?」
「ああ、それしかないだろう。村に迷惑をかける訳にはいかない」
ユフィは赤子の顔を見つめて、決心したように顔をエージスへと向けた。
「あなた、山奥に猟師小屋があったわよね?」
「あるが、一体どうしたんだ?」
急な妻の質問に、エージスは意図が分から無いまま答えた。
「では、この子と一緒に、その小屋へと移り住んではどうかしら?
決して村から通えぬ距離ではないでしょう?」
ユフィの言葉に、エージスは驚いた。
「急に何があったんだ?ウチにはアメリアがいるから、無理だと言っていたじゃないか」
「あら、無理とは言ってませんよ。ただ、裕福という訳ではないのですから、教会で預かってもらえればと考えただけです」
ユフィはエージスの顔を見ながら、笑顔で言った。
「それに、子供を捨てて来ると言われて、黙ってられる女は居ませんよ」
「だが、もしこの子が『魔物の攫い子』だったなら、お前たちに危険が・・・」
「こんな山奥の村じゃ、運が悪ければモンスターに襲われることも、治るはずの病気に罹って死ぬこともあります。それより、あなたはこの子を森へと返したいの?」
聞かれたエージスは、小さくため息をついて言った。
「だとしたら、初めからこの子を村へと連れて来たりはしないさ」
「なら、決まりね。これから忙しくなるわね」
「ああ、まずはあちらに移る準備だな」
「その前にやる事があるわよ」
「やる事?」
そこで、俺にオルトという名前が付いた。
ゆっくりゆっくり進んでいきます