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Agriculture 6

祈りをかけてフラフラになった体で残りのもう一株を植え、肥料を撒き、時間的にも丁度良いので水もやる。


それら全ての作業を終えてから一息つこうとそばの切り株に腰掛けた所で、


「…ヴェルディ!」


低く明らかに起こった声で名前を呼ばれ、反射的にビクッと体がはねた。声の主はヴィットだ。


ベロツィに夢中で全く気づかなかったが、家庭菜園コーナーの柵のすぐ外まで来ていたらしい。


「何よお父さん…ロチェならまだできてないわよ。代わりにタバルはあるけど。」



父親がきっと酒のつまみになるような作物を入手しに来たのだと思ったヴェルディは、切り株に座ったままヴィットをチラリと横目で見て言う。



「そうじゃない。まだ昼なのに酒なんて飲まん。」



「へー…3日前、真昼間からベロンベロンになってた事をもう覚えてないとはね。」



ようやく今年第一弾のパッサの収穫が終わり、昼から「打ち上げ」と称して酒を飲み続けて母親に「あんたは全く!」とこっぴどく叱られていたのは記憶に新しい。



「だからその反省でこれから1ヶ月は酒を飲まないと決めたんだ…。

『禁酒しないと叩き出す』って言ったあの時の母さんの目は本気だったからな……いや待て、違う、その話はどうでもいい」



どうやら説教はてきめんに効いたようで、思い出して落ち込みかけたヴィットがブンブンと首を振る。


「じゃあ何。」



「魔法だよ。ヴェルディお前、魔法使っただろう?」



「あー見られてたの…。」



父親の怒りの原因を察したヴェルディが、居心地悪そうに視線を落とす。もっと周りに注意しとけばよかったと後悔。


その娘の様子を見て、ため息をついてからヴィットは続ける。



「何百回も何千回も言ったはずだぞ。魔力がほぼないお前が魔法を使うのにかかる体力は一般人の比じゃない。誰もいない所で倒れたら大変だって。」



「何百回も何千回も聞いた。」



耳にタコができるぐらいには。



「だったらなぜ守らない?

それだけじゃない。お前の魔法は本来あってはならない( ・・・・・・・・)んだ。もしパッサの出来高を見回りにきた役人なんかに見つかったらきっと面倒な事になる。」



「それも何千回と聞いたから、分かってる。

でもいちいち家に引っ込んで魔法使うのも…」



「それが必要なのがお前の魔法だ。アッシュも言ってただろう?できるだけ人には見せないほうがいいって。

俺はバカだから分からんが、賢いあいつがあんなにも真剣に言ってきたんだ。守ったほうがいい。」


ここでもアッシュ。

父親と母親同士が親友のブルーベル家とイングラム家は昔から家族ぐるみの付き合いをしており、中でもヴィットはアッシュの賢さに一目置いている。


だから事あるごとに「アッシュはこう言っていた」「アッシュの話ではこうだった」と引き合いに出してくるのだ。


本当にいろんな所で私をイラつかせてくれる男である。



「確かにアッシュの言う事だから間違いはないと思うわ。

でもお父さん、これは私の魔法よ。あいつに制限される筋合いはないの。」



「でもなヴェルディ…」



「自分の魔力の事も私が一番分かってるわ。配分もしてる。」



「配分とかじゃなくてだな、まず魔法を使う事が……」



ああもう、まだ言うか。うんざりする。

「だったらなんで普通の魔力を持たせて私を生んでくれなかったの?」って、絶対に言ってはいけないことが口から出そうになる。



小さい頃はよく癇癪をおこしてこのような言葉を両親に叩きつけていたが、成長するにつれて、ヴェルディだけじゃなく父や母も同様に苦しんでいることを知ってから言わなくなった。



言う方も痛いけど、言われた方も痛い。



荒んだ心を落ち着けるように「フー」と息を吐いてから、自分の指をぎゅっと握りこむ。



「…分かったわ。ごめんなさい。

私は作業の続きをするから、お父さんは帰っていいわよ。」



魔法に関する会話はいつも堂々めぐりでこのままじゃ埒があかないので、早々に話をたたむのが一番正解だ。



「ヴェルディ、」



「お父さんは、帰って、いいわよ?」



「あ、そうか、ごめん。うん。とにかく魔法は使わないように……、な。」



まだ何か言おうとするヴィットの言葉をさえぎると、ようやくヴェルディの出す「帰れオーラ」に気付いたのか、もごもごと口を動かしながらも体を玄関の方へと向けて歩きだした。



チラチラと窺うようにヴェルディを見ながら帰っていくのが心底うっとうしかったので、植えたばかりのベロツィに目をやりスルー。



バタンと玄関のドアが完全に閉まった音を聞いてから「今日は異様にアッシュを思い出すわね。」と天を仰いで苦々しくつぶやいた。



アッシュは皆の前じゃ人を魔力なしだなんだとバカにしておいて、いざ魔法が使える(たった一つだが)となるとそれも使わせまいとする。



あっちの言う事がきっと正論。分かっている、分かっているけど。

簡単に従いたくはないという反発心がヴェルディの態度を頑なにさせていた。



だって私が唯一使える魔法。

それがどんなに嬉しい事か、魔力がたくさんあって数々の魔法を使いこなすアッシュには到底わからないでしょうね。もちろんお父さんにも。



恵まれた人には、持っていない者の気持ちは分かるわけがないのだ。



あーあ、やっぱりあの時もっと細心の注意を払っておけば…と、初めてアッシュに魔法を目撃されたときの事を思い出して後悔するが、後の祭り。



この魔法が使える事がわかってから、一応人目につかないようにこっそりと使用していたのだが、イングラム家は真隣だし、両家の間に塀も何もない。バレるのにたいして時間はかからなかった。



そしてアッシュはヴェルディの魔法を見るなり、すぐヴィットに先程のような忠告をしに向かったらしい。

らしい、というのもヴェルディのいない隙を狙って2人はこそこそ会話を交わしていたようなのだ。



子供に忠告を受ける大人というのもどうかと思うが、とにかくアッシュの様子は今までになく真剣だったらしく、ヴィットがヴェルディに魔法の使用を控えるようそれまで以上に口すっぱく言い出したのもこの事が原因だった。




ひたすらヴェルディに勝手にイライラされてるアッシュ。

未だに登場しないアッシュ。


多分あと2話くらいででるはずです。



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