Agriculture 5
ベロツィはなかなかに気を使う野菜だ。苗同士の間隔がちょうど良い距離でないとお互いに水分の取り合いとなり、割と簡単に枯れてしまう。
水も時間を守ってやらないと、吸いすぎたり逆に吸えなさすぎたりしてこれまた枯れてしまう。
ヴェルディがベロツィを育てるのは2回目。
前回は独学で育てて見事に枯らしてしまったが、今回はニロさんに教えてもらった通りに植えて水をやる時間を守れば、ニロさんオリジナルレベルのものまではできなくともまずまずのベロツィが育つはず。
「距離は等間隔に…こっちがちょっと狭いかな。まぁこんなもんか。」
苗同士の距離を計りながらせっせと植える。掘っては植え、掘っては植えを繰り返し、20株ほどあった苗が残り2株になった時、ヴェルディがぴたりと手を止めた。
「あっちゃー…この子もう元気がないわね。」
2株のうち手前の方、今まで他のベロツィの苗に隠れて分からなかったがかなり萎れてしまっていた。
葉はくたりと下を向き、張りがなく、茎は前方に倒れ込んでいる。手にとってみてみると、ニロさんに貰った苗の中でこの子が1番小さいようだ。
きっと他の苗の葉によって光が遮られた事で十分に日光を吸収できなかったのだろう。
こういう弱ったベロツィは植えた所で他の元気な苗に水分を盗られてしまい、植えたところで上手く育たないのでふつうならば諦めて肥料とする。
「…うん、でもまだ生きてる。あなたきっといいベロツィに育つわ。」
しかしヴェルディは他の農家が聞いたらきっと「本気で言ってるのか?」と思うような事を頷きながら言うと、弱った苗をそれまでの子と同様の手順で植えた。
そして土の上に力なく倒れ込んでいる小さな苗にそっと両手をかざす。
そのまま目を閉じたヴェルディの口からこぼれた言葉はーー
この国に伝わる「新緑の祈り」。
その中でもヴェルディが一番好きな一節を歌うように口ずさむ。
空におわす神々よ
小さき命に 愛を与え給え
光を 風を 水を呼び
小さき命を救い給え
我々の大地に 緑を授け給え
ひたすらこの節を繰り返しながら手のひらに力を集中させて気持ちを込めると、ヴェルディの手がじんわりと温かくなり、萎れていたはずの苗が徐々に上を向き始めた。
祈りを3回ほど唱え終わりヴェルディが手をどけると、そこには端の方まで針金が入ったようにピンと張った葉とまっすぐな茎を持つ、元気なベロツィが姿を現していた。先程までの姿が嘘のようだ。
これをやるのにはいつも少し体力がいる。ヴェルディはどっと出てきた汗をぐいとぬぐってから、
「よっしゃ成功!」
嬉しそうに笑った。
この新緑の祈りこそ魔力ほぼ0のヴェルディが唯一使える、『植物をちょっと元気にする魔法』。
ヴェルディが農業の道を選ぶことを決定的にした、たった一つの才能である。
作物メモ
パッサ…パン的な主食。おいしい。
ベロツィ…おいしい。パッサとあわせるとさらにおいしい。アッシュ好物。
ロチェ、タバル…酒のつまみ。おいしい。