第一生・高天原
思い出し投稿しているので、どれだけ続くかもわかりません。
皆さんご自由に読んでください。お願いします。
チカチカと光るいくつもの塊。暗い空間にはその光だけがある。自分が立っているのか横になっているのかわからないが、どこか意識が朦朧とする。
光は近づいて来ると目の前を飛び回り始めた。不思議と暖かいような感じがした。
(……動けない)
指一本と体が動かせない、顔を横に振り向くことも出来ない。
やがて光は近くを離れていき、一つになった。それは徐々に空間を満たしていく。
(暖かい、でも、どこか……)
光に包まれながら俺は完全に意識を失った。
「……暖かい………というより、暑い」
気がつくと強い光に照らされながらどこかに倒れていた。よく見ると地面は柔らかい土で、周りには花が咲いている。
「花畑?。何処なんだ……ここは」
起き上がり付着した土を落とし、辺りを見回しながら畑を出て細い道を歩く。人気が無い道を歩いて行くと街のような場所が見えた。
「西洋風の建物だな。外国、なのか?」
そんな疑問を抱きながら街へと歩いて行った。街の中はさっきの花畑とは違い、たくさんの人で賑わっていた。
子供から大人まで老若男女普通に暮らしている。洗濯物を干している女性。ボールで遊んでいる子供。実に見慣れた光景だ。
「お兄ちゃん何してるの?」
「え、ああ……ちょっと道に迷っちゃってね」
道端で呆然としていると横の家から出て来た小さい男の子に声をかけられ軽く驚いてしまった。だが、言葉が通じることに安堵し落ち着いて言葉を返した。
「えっとね、この道ずーっと進むとおじさん達がお店やってるから聞いてみて。僕、友達と約束があるからついて行けないけど大丈夫?」
「はは、ありがとう、助かったよ。友達と気をつけて遊ぶんだよ」
男の子は笑顔を浮かべると手を振りながら見送ってくれた。
教えられた道を進んでいると周りから話し声が聞こえてくる。会話の内容がわかることからここら辺には日本人が多く住んでいるのだろう。
「そういえば、なんで俺はあんな所で寝てたんだ?そもそもここは何処だ?」
増えていく疑問に頭を悩ませる。ふと近くの看板を見ると街の名前らしきものが書いてあった。
〔高天原・四丁目〕
「高天原。表記からしてここは日本か?。それにしても聴いたことのない名前だな」
看板を過ぎ、暫く歩くと辺りの通りに店らしき建物が並んでいた。そこからは様々な声が響いている。そのどれもが商品の売り文句や客への呼び込みの声だ。
「採れたての果物はいかがですかーー!暑い日には栄養満点のミックスジュースが最適ですよーー!」
「こんな暑い日にはスカッと爽やか!!天神サイダーでリフレッシュ!!」
(そういえば、本当に今日は暑いな)
額の汗を手で拭いながら空を見上げる。太陽がジリジリ燃えながら見下ろしている。今は夏……だったかな。
「おっ?そこの兄ちゃん!天神サイダーどうだい!?旨いぜーー!!今ならなんと、一本八十円!!」
少々強面なお兄さんに声をかけられてしまった。近づいてくる顔の頬の傷痕が強く目に入る。
「買うかい兄ちゃん?財布にも優しい価格だろ?」
「財布……財布あったかな?」
着ている白のシャツ、青いズボンのポケットを探したが財布は無かった。代わりにいくつかの物があった。
小型のプラスドライバー、黒の油性ペン、包帯、メモ帳とボールペン、左腕に着けている腕時計。
(俺はこんな物持ち歩いて何してたんだ…というか財布と携帯が無い)
暑さから、飲みたいという想いが強かったが仕方なく諦めることにした。
「すみません、今持ち合わせがなくて……また今度寄らせて貰います」
「手持ちが無いって……もしかして兄ちゃん新人さんか!?なら仕方ねえ!、一本サービスだ!持って行きな!!」
「いえ、あの新人って…」
「いいから、いいから。持ってけこの野郎!!ガハハハハ!!!」
氷水で冷やされていたサイダーの瓶を押し付けられ、そのまま瓶を受け取り俺はその場を後にした。
「瓶のサイダーなんて久しぶりに見たな、何年ぶりだ………え…」
その場に立ち止まり左手を頭に当て集中する。しかし、思い出せない。全くと言って記憶に無い。いや、こう言うべきだろうか……。
(記憶が……無い!?)
小学校、中学校、家族、名前、思い出せない。空っぽだ。一日前のことも覚えてない。友人、昨日食べた物、テレビの内容、何をしていたか…。
「なんで……なんで思い出せない!」
瓶を片手にフラフラと歩く。急に胸がざわつく。自分の状態、見知らぬ土地、普通に過ごす人々、その全ての異変が恐怖に感じてくる。
(落ち着け!、落ち着け!!冷静になれ……冷静に…)
速くなる胸の鼓動を整えながら大きな通りがある場所まで来た。その通りは長く、この商業地帯を区切るかのように続いている。
とりあえず、近くの木製のベンチに座り頭の中を整理することにした。知識はある。だが、その知識を学んだのを覚えてない。日本語を話してるってことは俺は日本に住んでいたのだろうか?
「…………あっ、俺って黒髪だったのか……」
瓶に映った自分の顔を見る。しっとりした黒髪、少し珍しい琥珀色の目、たった今まで自分の容姿すら忘れていた。
「金も無い、記憶も無い……帰る場所も覚えてない」
途方に暮れ、体の力が抜け、背もたれに全体重を寄りかかせる。空は青い、憎たらしい程に青い。こちらの気も知らずに太陽と雲は空を泳ぐ。
「おーい、どうした?人生終わったみたいな顔してさあ」
「いや、……大丈夫です。ご心配なく」
「いやいや、大丈夫そうには見えないけどな~~。お、旨そうなの飲んでるじゃん!どこで買ったの!?」
(ずいぶん食いついてくるなこの男)
突然現れたのは黒いテンガロンハットを身に着けた茶髪の男だった。顔つきや背丈から同年代に見える。
「なあなあ、それ半分俺にくれない?暑くて喉渇いてさ~!」
「自分で買えばいいんじゃないか?あっちの方で売ってたぞ」
売り場があった方を指で示しながら男に言った。しかし男は右手を横に振り、無理だと伝えてくる。
「俺、初めてここに来たから金も無いし道に詳しくないんだよね」
「初めて……じゃあ、お前はどこから来たんだ?」
そう質問した俺を不思議そうに見ながら男は答える。
「どこからって、そりゃ死んで此処に来たんだよ。なんかさ~、俺は神様になるらしいんだよ。凄くない?」
「そうか、悪い……俺病院の場所知らないから別の人に案内してもらえよ。じゃあな」
ベンチから立ち上がり、その場を早々と去ろうとする。だが男は俺の右肩を掴み驚いたような顔で話し始める。
「いやいやいや、待て待て待てっ!!。冗談キツいぜ!?俺、何かおかしな事言ったか?」
「自覚無しか、これは重症だな。お気の毒に……」
「病気じゃねぇよ!!なんだその、アア…カワイソウ、という目は!?せめてもう少し暖かい目を向けろ!手を合わせるな!」
男はヤレヤレと身振りをすると、少し真面目な雰囲気で言葉を続けた。
「俺の名前は境 稔磁。見ての通りお前と同じ位の若さで運悪く死んじまった。もちろん、ここにいる人達は皆一回死んでる」
「死んでる?あんた何言ってるんだ、つまらない冗談はやめてくれ」
そんな俺の言葉も気にせず境という男は話続ける。
「冗談なんかじゃねえよ。あんたも俺も同じ形でここに来たんだろ」
「その話が本当だとして、此処は天国か?俺も知らぬ間に死んじまったってことか?」
境はやや首を傾げながら答えた。
「いや、此処は天界っていう空間にある高天原とか言う場所だよ。住んでるのは神様やその補佐をする人達だけらしい」
(高天原……そういえばさっき看板で見たな)
「知らぬ間にって…もしかして記憶喪失!?へぇ~~初めて見た~!」
先程までの不思議そうな目から、好奇心にあふれた目で物珍しげにジロジロと俺を見てくる。一通りみたのか境は休憩の為サイダーを口にする。……えっ!?
「ぷはぁ~~!!旨い!爽快!」
気付かぬ内に右手から瓶が消えていた。しっかりと握っていた筈が油断した。
「お前、いつの間に……」
「まあまあ、色々と教えてあげた報酬ってことでさ!なっ?それとお前じゃなくて名前で呼んでくれよな」
境の相手をしていると自分の背後に何かの気配がした。
「境様、此方ニ居ラレマシタカ。勝手ニ行動スルノハオヤメクダサイ。」
「なっ!、なんだ!こいつらは!?」
俺達の目の前に宙に浮く白いフード、一言で表すなら幽霊の様な物が寄ってきた。
「案内役の神使だよ。神殿に向かう途中で俺が抜け出したから探しに来たみたいだな」
「デハ境様、神殿ヘトゴ案内イタシマスノデ、クレグレモ離レヌヨウ……ソチラノ方ハ?」
フードの目の位置らしき場所から黄色い光がジッと俺を見つめる。暫くすると物陰からフワフワと一体の神使が寄ってきた。少し見た目は小さいが他は目の前にいるのと変わらない。
「申シ訳ゴザイマセン。名簿ニ貴方様ノ記録ガ御座イマセン。ドウヤラ記録ニ欠落ガアッタヨウデス。神殿マデハ其方ノ神使が貴方様二付キマス。ナンナリトオ使イクダサイ。」
「新神サマ。案内イタシマス、案内イタシマス」
理解が追いつかないまま先頭と最後尾を神使達に挟まれ俺と境は案内される。四人?で道を歩きながら小声で境と話す。
「なあ境、今どういう状況になってるんだ?」
「どういうって、神使達は今日天界に来た人間を神殿に案内してくれてるんだろ」
「ドウシマシタ?ドウシマシタ?」
「いや、その……状況がまだ呑み込めてないんだが…」
苦笑いを浮かべ最後尾の小さい神使に伝えると、ゆっくりと話し始めた。
「マズ貴方様ハ、一度亡クナラレテイマス。ソシテ常夜デノ閻魔様ニヨル審判ヲ受ケタ後ニ此方へト来タノデス」
「常夜?」
「常夜トハ死者ガ住マウ世界ノコトデス。ソノ中ニ地獄ガゴザイマス。罰セラレタ者ハ地獄ヘ、ソレ以外ハ天国ヘト行キマス」
「で、この天界にいるのが……神」
「ソノ通リデゴザイマス!!」
説明された内容は少し理解出来たが、自分の記憶が無い以上納得は出来なかった。その事について考える暇も無く、進む足は止まり目の前には目的地らしき神殿があった。神聖差を主張するその白い建物は落ち着いた雰囲気を醸しだし、見る者の目を奪う物だった。
「オ二人様ガ最後トナリマス。皆様ハ中ニテ先ニオ待チニナッテオラレマス」
「いや~、ホントすみません。次からは気をつけますんで!いやマジで!!」
「いったい、何がどうなってるんだ。夢か?夢なのか?」
境の軽い謝罪を流し、悩みながらも神使達の案内に従い神殿の中に入る。
「すっげえ~な!!なんつうか!神々しい?感じだな!広いし、デカいしワクワクしてくるよな!!」
神殿の大きな正面入口から中に入ると、そこは姿が写りそうな程に艶がかった石床、パルテノン神殿のような円柱が並び立つ広々とした神聖な空間だった。境のテンションの上がりようもわからんでもない。
「ほんと、ゲームの世界にでも来た気分だよ。」
「おい、見ろよめっちゃ可愛い子いるぞ!死んで早々ラッキー!!あ、早々でもないか。」
境が指さす方を見ると桃色の髪をした女性が大勢の人々に何やら指示しているようだった。幼い顔つきとは裏腹にそのプロポーションは理想とも言えるもので、特に胸は成長の激しさが強く出ている。境が喜んでいるのはおそらくその部分んだろう。
「十人ずつ列を作って並んでくださーい。そこのお二人も早く並んでくださーい。」
「はーい!今行きまーす!ほら、お前も急げ急げ!」
「幸せそうだな、お前は」
急かされながら小走りで行くと、並んでいる人達と同じように自分たちも列を作らされた。一番右端に二人だけで列を作ると話が始まった。
「新人の皆様初めまして。私は新人研修担当の、リナリアです。本日は皆様の検査とここ高天原での暮らし、仕事、研修の説明をさせていただきます。」
白いスーツ服を着こんだリナリアという女性は一つの部屋の前に立つと、ペンと資料を取り出し人々を部屋の中へと誘導し始めた。
「まずはこちらの部屋に入っていただき、健康、能力検査を行います。列ごとに順番に入ってください。ではまず一番左の列からどうぞ。」
「なあ境、何かチェックしてるみたいだけど。俺まずくないか?自分でもその…よくわかってないし。」
「大丈夫、大丈夫。お前が覚えてなくても向こうが把握してるって。」
境は気楽に言うが内心、罪がばれそうな犯罪者のような気持ちだ。後ろめたいことはしていないが。
「次、最後のお二人入ってください。」
神使達に見つめられながら部屋の入口へと向かう。先に境から確認され始めた。
「境 稔磁さんですね。確認が終わりました問題ありません。」
「あざーす。あのよろしければこの後お茶でも…」
「次の方どうぞ~」
笑顔で話を流され、境がこちらに訴えるような顔を見せてくる。すまん、その顔を見ても緊張で少しも笑えないよ。
「えーと、あなたは…」
境の言う通り、相手は自分のことを知っているかもしれない。自分のことがわかると思うと希望が見えてきた。
「あの、名簿にありませんけど…どなたですか?」
「えっ…?」
「ソ、ソチラノ研修リスト、門通行者ノ一覧ニもアリマセンカ!?」
リナリアと神使達が集まり何やら慌てて話している。聞き間違えなのか、名簿に無いと言われたような…。少しして俺は神使達に黒い手のようなもので突然押さえつけられた。
「侵入者ヲ確保!コレヨリ神王の間ニ連行シマス!」
「新人研修に侵入者だなんて…そんなことが…」
「ちょ…待ってくれ!俺は!…」
「はい、ストップ!!!。…ちょっと話聞いてくれる?」
俺が抗議するよりも速く境が割って入った。それに注目し全員が動きを止めた。
「境さん…この人を知っているんですか?」
「いいや、知らないよ。名前も、出身も、好きな映画も、好きなタイプもまーったく知らない」
「だったら何故…」
「こいつも同じだからだよ。いわゆる記憶喪失?てやつらしいんだよ。凄くね!?俺初めて出会ったから驚いたよ!」
「き、記憶喪失!?」
途端に神使達が騒めく。押さえ込んでいた黒い手がするりと緩むと、境は俺の前へ守るかのように立った。
「それに、話してて悪い奴じゃなさそうだし、そんな怖い顔して相手することないと思うぜ。な!」
「境、何で俺を庇うんだよ。今日知り合った赤の他人だぞ」
「何でって、友達だからだろ。天界暮らしの友人第一号!!」
曇りない笑顔でそう言いきった。どうやら馬鹿は馬鹿でも大馬鹿と俺は友人になってしまったらしい。
「し、しかし!、見逃すわけにはいきません!神王様に謁見しご判断をしていただかなければ。」
そう言うと、リナリアは俺の腕を掴み広間の奥の方へと歩き出した。
「おいおい、俺の友人に乱暴すんなよー!お前ー!また後で会おうぜ!!」
神使達に胴上げのように運ばれながら境はテンガロンハットをこちらに向けて振り、部屋へと消えていった。
「騒がしい人ですね。境さんは。」
「まあ、良い馬鹿ですから。…たぶん」
心の中で境に感謝し、俺はリナリアと共に豪華な扉の前にやってきた。神王の間、という部屋の想像が少しもつかない。
「くれぐれも失礼の無いようにお願いします。えっと…えー…なんとお呼びすれば……」
「…名前が無いって不便だな…」
戸惑う彼女に何も言えないまま部屋へと入る。
中は本の中にあるような城の王の間で中央に赤い絨毯がひいてある。だが、壁や床に木や花が生えている。
「ん、リナリアよどうした?新人研修の真っ最中ではなかったか?」
「神王様、研修にてイレギュラーが起きまして、ご判断をお願いしたく参りました。」
神王と呼ばれたその男性は、建物のイメージとは真逆の和装、甚平を着てラフな格好で涼しげに王座に座っていた。
「神王様!何故正装でないのですか!?新人研修の挨拶に出る為用意したはずですが。」
「つ、常に王は余裕を持っていないとダメというか、正装は着ると暑いからギリギリまで着たくないというか…」
「あの、部屋間違えてませんよね?」
「はい、残念ながらこの部屋です。」
突然、神王が咳払いをすると真剣な空気に包まれた。視線を向けると鋭い目でこちらを見ている。
「要件はその者に関してか?」
「はい、新人の中にも門の通行者のリストにも載っていませんでした。さらに彼は記憶喪失だと言うのです。」
「ふむ、記憶喪失……どれ」
神王は自分の目の前まで来るとこちらに目を合わせとまった。
(んん、あ、頭が痛い!)
「おかしいの…何も見えん。このわしの目でさえも見えないとは。」
頭を手で押さえ、目を逸らすと頭痛は治まった。何をされたのだろう。
「実は今朝常夜の方でも同じことがあったのじゃ。お主と同じくリストに載っていない人間が来てしまったらしい。」
「俺と同じ?」
神王はどこからともなく木の杖を出すと、杖の宝石部分から画面のようなものが出し何か話している。こちらに背中を向けているのでよくわからない。
「そうじゃ…ええい!うるさいのーお前は、もう少し余裕を持ってだな…ああわかったわかった、とりあえず頼むぞ。」
「神王様、いかがいたしますか。」
再び緊張がやって来る。どうなる、どうなる。
「そうじゃな、色々確かめるために…お主」
「はい」
次の瞬間自分の耳を疑いたくなるような衝撃に出会った。
「地獄行き決定」
読んでくださってありがとうございます。
やはり描写やスムーズな流れを作るのはとても難しいですね。自分の文章見直して頭を抱えること多いです。
足りない部分は…すみません皆さんの妄想力にお任せします。想像は自由だ!!
ありがとうございました。次回は何日、何週、何カ月、何年後になるのか…。