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一応保険としてR15指定させて頂きましたが、
恋愛はなかなか出てきません。
不定期更新です。
よろしくお願いいたします。
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「佐倉さん、これとこれ、
月曜日の午前中に使うらしいから、
それまでにお願いね!!」
金曜日の終業30分前に
新たな資料作成の仕事を振るのは、
営業一課の事務を担当している
宮田 幸子先輩だ。
彼女は私の二つ上で、入社も二年早い。
営業の男性陣が席にいる間は机に向かっているが、
男性陣の目が無くなると、
ファッション雑誌を読んだり、
スマフォでゲームをしたり、
化粧をしたり。
そうして溜まった仕事は、
営業二課の事務である私に回すのが常なのだ。
仕事を回された私、佐倉 智夏は、
今日もまた残業確定。
まぁ、金曜日なので、予想はしていたけれど。
肉食女子な宮田先輩は、金曜日の夜は、
合コンや飲み会なんかで忙しいのである。
そして、男性不信の気がある私は、
平日の夜だろうが週末の夜だろうが、
予定が入ることはあまりなく、
更に会社がきちんと残業手当を出してくれるので、
つい引き受けてしまうのだ。
「智夏。」
仕事を進めていると、小声で呼ばれる。
「菜緒。終わったの?」
首を横に振る彼女は、経理課の桐野 菜緒。
数少ない、私の友達といえる相手。
学生時代は弓道をしていたという菜緒は、
艶やかな髪をひとつにまとめ、
常に背筋をまっすぐに伸ばしている
少しだけ気の強い女性だ。
凛とした、という表現は彼女の為にあるのでは、と
思うほど。
「その様子を見ると、智夏も残業なのね。
時間が合ったら一緒に帰りましょ。」
「了解。」
囁き返すと、にっこり微笑む。
その笑顔に心臓発作を起こしかけている男性職員が
かなりいるハズだ、と私は思っている。
菜緒が踵を返すのを確認した私は、
中断していた仕事を再開した。
実は私は、そんなに残業が嫌いではない。
というのも、仕事に集中できるからだ。
何度も言うが、私の所属は営業二課。
日中は営業マンである男性社員は
外回りに出ていることが多い。
しかも宮田先輩がアレだから、
電話が鳴ると、
それが一課へのものであっても
私が出て当たり前。
応対する前に切れたりすると、
完全に無能扱いを受けることになる。
例えそれが
他の電話を受けている状態であったとしても。
これが定時後になると状況が変わる。
まず大抵の場合、男性社員が数人、帰社する。
そして、遅くまで女性社員を働かせていると、
取引先などに思われたくないという
営業部長の方針(またの名を見栄という)によって、
かかってくるものは男性社員が取ってくれる。
私が出ないといけないのは、
男性社員がさばけない時だけ。
更に私の仕事、
つまり二課の仕事が新たに増えても、
宮田先輩が帰ってしまっている以上、
余計な仕事が回されることはない。
静かで落ち着けるこの時間は
勤務時間中と比べられないほど
集中して仕事がこなせるのだ。
そうして捗った結果、
ミスもないきちんとした仕事を
確実に仕上げられる。
私にとって、
多分男性陣にとっても、
貴重な時間なのである。
お読み頂きまして
ありがとうございます。