12日目 始末
警察がいるわけでもないし清掃員が配備されているわけでもない。軍施設やうちに行ったり来たりと考えると最低でも一時間は経過している筈だが農道は血を吸い上げた事件現場としてそのまま生臭く残っていた。職安や村長宅など中心地に割と近いが農村であるが故に昼間の人気は全くなく、一番に現場保存をしそうな部隊長もいない。
さてナルガ一家の住居はどこだろうか? 血の海から点々と繋がる滴は馬鹿正直に農道は歩かず刈り取ったばかりの麦畑を横切り消えていた。精神状態として興奮しているだろうし、全く家と反対方向を歩くとは思えない。ナルガは発言権が強い分、村の古い家系なのだろう。中心地から離れた場所に住むとは思えない。合わせるに血痕が途切れる方向で近辺と当たりをつけて建物を探した。
村が畑で広大なので家同士の間も広く該当する家は少ない。一件目は自分の畑を汚したくなかったのか違う。二件目は昼間だというのに男女ひしめく状態だった。これは当たりだなとノックもなしに扉を開く。
「誰だ! 他人の家に……」
最初に反応した男はナルガの長男だ。メヌールの脳内にはいたぶられながらもご丁寧に家系図付きで犯人たちをリスト化している。顔を合わせた長男は私を見て青くなり一歩引いた。農具を振りかぶる顔と一致するので魔法で芋虫にして転がす。長男の後にいた三男も実行犯。そろえて並べた。
二人が転がると女の悲鳴がしたのでそちらに視線を向ける。長男の妻。奴も参加者だ。他人は殺してもいいのに家族は別らしい。居間にいた者は全て拘束し、一部屋ずつその作業を繰り返す。最後に勝手口を開け、レーダー表示で離れるものを引き寄せて犯人の確保は終了だ。実行犯男八名女四名、不参加女二名に子ども六名。一つの部屋に納めるにはなかなかの人数であった。
一家を集めた所で報復内容を考える。正直なところ、頭に血が上っていたので不参加や子どもの対応を考えていなかったのだ。肉体的に痛めつけても外聞が悪いので精神的に追い詰めるつもりで来ている。罪どころか何の事情も知らない子どもが今後コレだけいる人数の大人が病むとどうなるのか。日本人記憶群準拠でそれは良くないとストップをかける。精神的にといえば闇汚染のチェックもしたが正常で人を殺そうと思えるものがこれだけいるのはなんとも言えない。考えた末、子ども達は余所に居場所を作って貰うしかなくまたまた軍に送っておく。多分急に子どもが現れてもレイなら保護くらいはしてくれるだろう。
次に残っていた不参加女性だが妊娠中であり、子守りとして残っていただけだとわかる。害意はたっぷりなので記憶を消してルマンドに棄ててきた。こんな人殺しができる環境より金持ち銀山で仕事をしながら育てた方がましだという判断だ。人権的に問題だらけなのはわかるが、流れ者やシングルマザーも多い街の方が生まれてくる子にはベターである。
そんなこんなでやっとメヌールを襲った奴らだけとなった。先の二人や子どもの記憶を封印して癒しの属性を闇に変えて重ねがけた。途端に呻き苦しむ彼らのステイタスは闇汚染。これに数人が常に幻影を見るようにして家の外には出られなくする。拘束を解いて私と会った記憶を消したら完了だ。
家の外からでも幻と戦う音や悲鳴が聞こえたが耳を塞いで医務室に戻る。あの家族は最初からおかしかったのだ。何が起こったのか解りかねる。
医務室には六名の子どもの相手をするハイラル、話のすり合わせをするベッチーノとレイ、眠るメヌールとレイナードとなかなかラインナップが豊かになっていた。転位に気付いたレイは私を呼び寄せて椅子をすすめる。
「で、この子達はどういう事情でこちらで保護することに?」
なんとなく厳しめで向かう先など知れているのに建前を寄越せ見つめられた。
「現場からメヌールの血痕を辿って実行犯宅にいきました。人を殺したと思ったせいか元から狂っていたのか、おかしな大人の中では危険だろうと保護。村長もおかしいので最も公的な機関に一時的に庇護を求めます」
少し困ったように目許を弛めたレイは仕方無さそうに返事をする。
「現場をどうして知っているのか、おかしくなっているかは聞かないよ。村長がおかしいのなら領主様の権限で解決が求められる。軍の管轄になるだろうから副部隊長に相談しといて。今は帰ってきてバカに説教している」
席を立ったレイはベッチーノと私を連れて部屋に案内してくれた。副部隊長の怒鳴り声が聞こえる。今から話を合わせて領主になんて報告するのか考えなければならない。