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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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12日目 治療

 軍施設内部に突然現れたので数人の軍人にぎょっとされる。転位を初めて知ったカイトも固まっていた。呆けてもいられないので手近な軍人を捕まえて聞く。


「メヌールはどこ? 案内してくれる?」


 カイトを引きずり簡易な寝台が並ぶ部屋まで連れていってもらった。この世に大した設備があるわけでもなく、寝台と棚程度の内装の部屋はモノクロ写真で見たことのある野戦病院に近い。カーテンなんてものもないからレイともう一人の二人体制で一台の寝台を囲んでいるのがすぐわかった。礼を述べて足早に駆け寄るとメヌールが白いローブを真っ赤に染めて横たわっている。


「ハラーコ」


「優先度が高いのは?」


 私に気づいたレイに声をかけられたが目の前が先だ。私の魔法が自分達と違うことを一番知っていそうなレイは直ぐに場所を譲ってくれる。


「腹だ。斧で内臓までやられている。僕達の魔力じゃ出血に追い付けない」


 治療は直接手を当てるもののようで二人の魔法使いの手は赤い。メヌールのローブも赤くてわかりにくかったがそこにはもう布なんてなくて直で傷口だった。恐らく内臓まで達しているのだろうが血の海で見えなくなっている。

 アイテムボックスに外気が触れた血液は常時収納するようにして患部をだし、手のひらを近づけ魔力で一気に細胞を活性化させてくっつけた。少し息を飲んだ音が聞こえたがレイは次を指示してくれる。


「次は腕だ。一度焼いたが広すぎて止まらない」


 再びレイと位置を変わり、腕の部分を目にした。完全に筋肉や神経がいかれている。骨が無事なのが不思議なくらいだ。腕は残っているが次に焼くときは切られたかもしれない。それくらいごっそりと取られていた。腹よりマシだがマシというだけ。こちらも一気に魔力で修復させる。


「後の傷口は僕らが塞ぐよ。すごい魔力消費だし倒れる前に寝ていてくれ」


 大きく息を吐いたレイは一山越えたようで休むことを勧めてくれた。しかしながら私は魔力が減った感覚がない。一般的に倒れる魔力量だったのかもしれないがまだできる。


「前にあなたにもかけたでしょう? 魔力が無尽蔵に使えるだけの補助魔法」


 適当を言って二人の魔法使いに魔力消費減、回復量威力上昇その辺をさらっと纏めてかけておく。先程まで悲壮感漂う顔をしていたのに何をされたか理解したレイはニヤリと笑った。


「直ぐに全部塞ぐよ。ハラーコ、貧血対策の魔法はあるかい?」


「任せといて。他にもあるかしら?」


 ぽかんとしているもう一人を置いて私とレイはさくさくメヌールの肉体を戻していく。サービスで左右のバランスを整えることまでしてあげた。後は本人の意識が戻るのを待つだけになる。一息つける段になってふと思い出した。


「レイナード、あー、うちにいた若い男性はどこにいる?」


「彼もレイナードというのか。おかしなことに目覚めないんだ。メヌール司祭が運び込まれてすぐ、君を待つためカイトが家に行ったら眠っていたそうでね。襲撃犯が来たとしても逃げられないし連れてきた。司祭の緊急性が高かったから後回しにしているよ。

 ハイラル、彼はどこに移した?」


「小会議室です。副部隊長がついています」


「ハラーコ、彼のアレは持病?」


 あれも魔法でしていると呪いはふせて説明する。とりあえずレイナードも無事なら何の問題もない。一応メヌールの義理の息子だとは伝えて私たち三人は身形をまともなものに戻し、メヌールを囲むように着席した。


「忘れていたけど、彼はハイラルね。僕が部隊の主席魔法使いで彼は次席。軍を使った師弟制度みたいなもんだよ」


「ハイラルです。初めまして」


 今回はベッドを挟んでいるので握手はなしだ。ハイラルはまだ高校生くらいの少年に見える。


「それで司祭の襲撃なんだけど、多分あそこでへたれてるカイトのが詳しいと思うよ」


 一同が部屋の入り口に目を向けるとカイトが地面にへたりこんでいた。腰が抜けているようなので最寄りのベッドに転がして話に参加させてしまう。


 カイトが駆けつけた時にはもう襲撃犯はおらず血塗れのメヌールがいた。職安に次回の配達物の確認に行くために家から向かう途中で、そこは村の中心部に近い農道である。前にメヌールから私の殺害計画を聞いていたのでこの場に取り残したら死んでいるか確認にくるかもしれないと思いメヌールを背負って軍に駆け込んだそうだ。

 メヌールをレイに預けた後、カイトは私を探してくれたが見つからず村長宅に聞きに行く。ベッチーノが出てきて私が本日は森に出たと言われた後、村から許可なしに出ることも出来ず家の中で待つことにした。そこでレイナードを見つけ再び軍へ連れていく。不安と焦りのため家の外を見に行ったり家の中に入ったりうろうろしていたところで私が帰ってきたそうだ。


「ありがとう。カイトがいなければメヌールじいさん死んでたよ」


 メヌールは本当に運が良かった。カイトは逆に引きが悪いが今回はすごく助かった。今メヌールが死んだら私は全てを見捨ててずっと後悔したのではなかろうか。


「あと、レイナード君だっけ? 彼を連れてきた時に聞いたけど部隊長が激怒して一斉捜査とか言って村中の家で凶器を探しているらしい」


 それって軍への敵対値(ヘイト)ガンガン上がるのでは? 今朝のベッチーノの話が甦る。下手したら軍と村が全面戦争になるのではなかろうか。


「三人ともありがとう。私、副部隊長と話をしなきゃ」


 部隊長のお守りは副部隊長だ。彼ならこれが不味いこともわかる。ハイラルに案内してもらって小会議室に移動した。カイトも気になったのか帰るに帰れないのかついていくと言うので引き摺る。


 小会議室は地図があったような狭い部屋に長机と椅子がある部屋だった。椅子を四つ並べた上にレイナードが眠っている。副部隊長は書類仕事をしていたようで机に木札を広げていた。

 副部隊長は私の家にいた不審人物の保護と監視をしてくれている。今や歩く機密の私たちの家にいた人物なので、起きた時、他の軍人に不用意なことを言い出す可能性もあり副部隊長くらいしか見れる人がいなかったらしい。レイナードのことはやはりメヌールの義理の息子としか言えず、部隊長の話を先にした。

 副部隊長は部隊長の暴走をしらなかった。頭を抱えて机に突っ伏して「最悪だあのバカ野郎」と唸っている。どうにもあのバカ野郎は副部隊長を探して相談も、誰かに伝言もせずに飛び出したようだ。無駄に正義感の強い三人を連れて行ってしまい音沙汰がない。


「カイトさん、すまないがメヌール司祭が倒れていた所まで案内してくれないか? 怪我人がでる前にバカを回収しなければならない」


 頷いたカイトは副部隊長に俵のように担がれて行った。残された私はレイナードを重量軽減させて似たような運び方で医務室に戻る。にやにやしているレイと目を真ん丸にさせたハイラルを横目に見ながら、私はメヌールの記憶を探った。報復はバカ野郎みたいに正面から行くものではない。じっくりじわじわ真綿で絞めるものだ。

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