12日目 襲撃
一晩また寝ずに過ごした。田舎暮らしってもっと規則正しいはずなのだけれど何故か不規則に生活している。メヌールは昨日鈍感ちゃんでレイナードの世話ができることがわかったので今は仮眠をとり、私が出掛けたら彼の横で手紙の分析をするようだ。今日の私は薪を取りに森に行くという建前で出掛けて子爵屋敷の様子を見に行く。余裕があればマリエッタの消息を追い、昼過ぎから軍の宿舎をコピーだ。その後はマリエッタか肉確保をして炊事場に顔を出す。最初の頃より多忙だ。
お約束のベッチーノがやってきて薪置場に先に案内してくれる。ベッチーノはベッチーノで村長と税や冬越しの計算を手伝ったりで忙しいそうだ。
「この前の雨雲もありましたし、今年は冬が早いかと。遅れている分は取り戻せて来ていますがまだまだゆっくりはできそうにありません。
ところでメヌール司祭はお加減いかがですか?」
すっかり頭になかったが昨日のメヌールは不機嫌で今日は引きこもり。ベッチーノが気にするのも当たり前だった。呪いの話は別件ではあるし、ベッチーノも息子に跡を譲りホラ村と運命をともにする身。余計な心配をさせるのもどうかと思い詳細は黙っておく。息子さんが心配らしいですよとだけ返しておいた。
「私も心配です。元気で生きてさえいればいいと思いながらも、しっかり跡を継いで欲しい。親とは矛盾する願いを複数持つものですからね」
メヌールも息子の経験不足を気にかけている。今はそれどころではないが大体の親は常に子どもに願いをかけ続けていた。まるで遠くにいるかの如く、ベッチーノは視線を景色の果てに向ける。
「計画は前に進んでいるのですが、場合によったらあなたは帰れるかもしれません」
秘密に引っ越す話から英雄話にシフトしている。軍人が増えれば箝口令は解除されて噂を広げる予定だ。変なトラブルさえ起きなければメヌールが勇者になった段階で帰れるかもしれない。
「領主様にもう連絡がついたのですか? 詳細が聞けるようになるまでもう少しなのでしょうね。
しかし、それだと、どう転んでもメヌール司祭は本村には帰られないと……」
察しが良すぎるのも考えものだ。交渉しているメヌールが息子に譲って消えてしまうことがバレている。英雄になるメヌールは名声は良くとも扱いづらい人物になってしまう。教会も対応に困るのだ。戦闘の傷が原因で後々死亡にした方が息子にややこしさを継がせずに済む。メヌールはそう言って自分の死亡を決めていた。
あまり突っ込まれても困るので話題を変えておく。
「そう言えば昨日、軍が村長宅に行きましたよね?」
中身も知っているが詳しくはふらない。
「人数が増えるそうですね。教会が来る前に増えてくれるのは村長にとっては安心な話なのですが……」
「何か問題でも?」
「軍の駐留をよく思わない人がちょっと。領主様の命令なので交渉の余地はないのですが……多分わからないのでしょうね。虐めたら人は追い出せると思い込んでいる者がいるのですよ。今日から嫌がらせをすると宣言して村長が頭を抱えていました」
それは「頭が頭痛で痛い」レベルの大混乱だろうなぁ。なるべく波風たてずに変化を避ける傾向が強い村長なのに、村人は過激派が多い気がする。解決させるのではなく避けているせいか世の中に怖いものなんてないらしい。
ベッチーノは軍人なんて誰かが貴族の関係者かもしれないし、連帯責任で村が負債を被るかもしれないとゴマをする。この村は本村と違い利益も損失にも鈍すぎて信じられない。けれども余所者が何を言ってもという状態なのだそう。村長も死んだ魚の目でベッチーノを見るらしく参っている。
「軍人さんとは今日約束があるので耳にいれておきます。情報開示までの我慢だって」
ベッチーノの目も光が減ったが頷いてはくれた。
森から気配を断ちルマンドへ移る。子爵屋敷は既に鐘の撤去が行われ、皆が寝不足な顔のまま何かの作業していた。侵入して軽くレーダーで探してみたが子爵一家の姿はない。姿を現し門兵にたずねてみる。
「私はガルド大教会からの使いです。子爵様は御在宅でしょうか?」
即、捕縛された。
鈍感ちゃんで事情を喋らせるとガルド大教会からの刺客がマリエッタの命を狙っていると知っていた。どうもあの鐘も刺客を捕まえてアランの有罪を引き出すために設置していたらしい。墓穴を掘りまくっているな、私。刺客に間違われた私はこの領の檻で尋問という名の拷問を受けるようだ。なるほど事情はわかった。
「子爵の居場所もマリエッタの居場所もわからずか……ありがとう。それじゃあね」
転移を使って一旦帰宅する。目的は子爵一家の消息を探るために王都なりなんなり手掛かりの候補を聞くことだ。しかしレイナードとメヌールがいない。おかしい。
「メヌールじいさーん? じいさーん?」
急患でもでたのだろうか? じゃあレイナードは?
「メヌールじいさーん? どこー?」
「ハラーコ!!」
メヌールの名を呼んでいたらカイトが扉を蹴破る勢いで入ってきた。
「何があったの?」
「メヌール司祭が襲われた。今は軍で治療してもらっている」
「意識は?」
「ない。魔法使いのレイさんが治療を続けている」
数時間で一体何が。あれだけ一人にならないようにしていたのにわかれた途端になんなんだ? カイトの腕を勢いよく掴んで軍施設に一気にとぶ。




