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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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11日目 収集

 軍人二人は明日の人員増加と宿舎建設を伝えるため村長宅へ、私とメヌールは予定通りアランの部屋に行く。

 メヌールがずっと憎んでいたのに真の敵ではなかったアラン。顔を見るには複雑な相手だと思う。いつものローブだけでなく頭を全て隠すような帽子を被ったり、数メートルありそうな長い首飾りを三重にしてかけていた。正装なのだと思う。

 いつもと違う装いのメヌールを連れて直接アランの部屋に飛んだ。昨日と同じくアランは寝台の住人であり他に人気もない。


「あそこで眠っているのがアランです。夜は意識が戻りやすいそうですが体力的に長くは話せません」


 唇を引き結んだメヌールは静かにアランに近づく。なんとなく邪魔にならないように離れた位置から見守った。


「アラン。アラン。起きてくれ」


 感情は乗らないがそれなりに知っている人物への呼び掛けはアランの意識を浮上させる。


「メヌールか。お互いじじいになったな」


 レイナードが成人した五年前にも二人は遠目の再会をしていた。自分がおかしくなっている自覚があるアランと仇と見るメヌールにするべき会話はなかったのである。


「お前は酷くやつれているがのう。

 ……アラン、私は息子レイナードのために君をずっと憎んでおった。君がそんな大変なことになっているとは知らずにな。すまなかった」


「私がやったことなのだから仕方がない。それでも私は救いを求めていたのだろうな。アラムウェリオの大地に還る前に君が会いに来てくれた。これ以上に救われることはない。このまま私は終わりたい」


「本当にこのままでいいのか? ともに敵を倒して憂いを後の者に遺さず散るのが年長者の責務じゃろう?」


「正直私も疲れたのだよ。薬を飲んで動いていたこともあったが。たとえ私自身の心が悪に染まらなくとも、この身は悪の化身となった。中身が変わるなど誰も信じぬ。生きているだけで夜も眠れぬ者もいよう。疲れたのだよ。酷く酷く疲れたのだ」


「気弱になるのも仕方ないのかのう。せめて最期の時は自身で過ごせるようにしてやるから、もう少しだけ生きてくれ」


「難しい相談だな」


「何、後数日以内には追い出してやる。数日じゃ数日」


「ありがとう、メヌール。君に神の祝福を」


 会話は終わり静かな寝息が聞こえる。アランの限界になったようだ。メヌールは帽子を外して膝をつき、アランの手を握っている。暫くするとその帽子と首飾りを外して収納し、こちらを振り返った。


「すまなかったな。では執務室にお邪魔しようかのう」


「延命させなくてもいいんですか?」


「アランの救いはそこにはないじゃろう。死を覚悟をした年寄りにそれは不粋じゃ」


 納得しているならいいけれども。気持ちを切り替えていくか。

 アランの執務室は執務机にキャビネット、本棚に応接セットや謎展示物が並ぶ。時代や国が変わってもオフィスって似たような物になるんだなと思わせる作りだ。裏帳簿とやらをまずメヌールに見てもらい、私はとりあえず鑑定魔法で板を漁っていく。文字が読めないのでアイテムとして誰の手記かだけを見る作業だ。本棚には主に羊皮紙みたいな紙や軍の地図のように刺繍された毛皮が巻いてつめてあり、手紙ではなく美術品のようである。次にキャビネットの中を見るがこちらは教会の会計資料。実数は裏帳簿にあるだろうから役にたたない。執務机を使いメヌールが裏帳簿を見ているのでそこは後回しにして、今度は見えない場所を探す。

 個人的には謎のオブジェが気になる。鑑定すると魔石の残存魔力を測る道具だった。高価なのかいい台座に乗っている。台座に細工はない。次にキャビネットの引き出し裏を見て回る。手紙は見つからなかったが紙に家族写真のようなデッサン画を見つけた。そんな感じであちこちひっくり返したり空洞がないかを調べているとついに応接用の椅子の裏にポケットを見つける。

 そんなところを見る客はいないと安心しているのか手を突っ込むとすごい量の板が出てきた。板の著者はバラバラで特に分類わけがされていない所が偽造用の保管庫らしさを漂わせている。子爵とアランの両実家の分をコピー収納して戻しておいた。


「メヌール司祭、複製しましたよ。そちらも複製して一度帰りますか?」


「いや、もう少し探さなければならないじゃろう。ほれ、これは金を受け取っている教会関係者のリストじゃ。とりあえずこれらを見てきてくれ」


 裏帳簿を見ながらリストをくれるがメヌールは私が文字を読めないことを忘れている。まぁ、いいかと思いメヌールの脳から読み取りメモ帳魔法にトレースした。一部顔付きなので助かる。


「司祭やそれ以下になると別棟ですね。一人でも大丈夫ですか?」


「ああ、こういう時の別行動は危ないかのう? では一度家に帰してくれんか? 裏帳簿も模造品を戻しておいてくれ」


 無謀な冒険をしないメヌールは多分死亡フラグを回避した。こういう所が長生きの秘訣なのだろう。


 メヌールを送りリストにある者を探して徘徊開始。小物というか微妙な悪事に参加している奴が多い。リストにマークがついていた重要人物も悪事の度合いは高くはなるが、誰もがアランの豹変には無関心だ。アランとバーク家の話も有名な分、隠していても根はこういう人だったのだろうと完結している。

 アランの正体には関係ないが一つ気になることがあった。時刻(とききざ)みの歯車である。現在使用中の聖域の結界は一年前に修理されていた。理由は時刻みの歯車の経年劣化により交換が必要になったから。ルマンド教会に依頼して予備も含めて購入している。アランは以前から乗っ取られていたが一年前に悪化。時期が重なる。




 一斉脳内スキャンが終わりメヌールがいる家に戻った。メヌールはまだ帳簿とにらめっこしている。


「帰りました」


「正体には繋がらなかったようじゃな。こちらでわかったことを先に伝えよう」


 メヌールの方は多くの罪を見つけたようで板にはびっしり文字が書かれていた。関係のありそうな話だけ、といって時刻みの歯車と銀山などについて話す。

 ルマンドの銀山は患者の数がかなりいるため大きめの治療院をもつ教会が建っていた。その布施を水増しして不正収益を隠している。そこから不正採掘までをアランはプロデューサー料のような相談料を受け取っていた。アランの幾つもある収入源では上位に当たる額と安定がある。

 時刻みの歯車は別に鉄や銅でも構わないのだが威力が上がる高いミスリル製を購入することで納品数を誤魔化していた。かなり割引で作らせて置いて個数が多くても帳簿に違和感を持たせない。実際浮かせた分をバーク家に送っている。

 ミスリルは銀から造る合金らしい。普通なら内戦中のドワーフ国家から買う。しかしキナ臭いのでルマンド産でも違和感はない。

 メヌールが気になったのはやはりバーク家だ。憎み合っているはずなのに一年前から部品を初め贅沢品が流れている。


「それって黒幕はバーク家って話では?」


「レイナードやイアンがバーク家に繋がらない。ミスリル製の時刻みの歯車なんて随分と高価な物じゃ。アランの振りをするポーズだとしてもその系統にそれだけの金をかけている例がないのじゃよ。今はポーズでも金をかけている例を探しているのじゃがこの様子だと無いんじゃろうなぁ」


 今は成人しているが子ども一人が邪魔ならやってることもまどろっこしいし高くついている。帳簿で見るに暗殺の方が安くつくらしい。殺さずなぶる。かなり重い恨みだ。


「イアンが第二のアランの子どもという話がありましたよね? それならバーク家と繋がってレイナードを恨んでいてもおかしくないのでは?」


「バーク家の者はアランに子どもを作れなくされている。違ったとしても妄信的にそう思っておるのじゃ。唯一のバーク家の血が残せそうな者を他所に、しかも宿敵の養子にしようとするかね?」


 それはないかなぁ。バーク家はアランを正式に訴えて敗訴した時に養子を遠戚から招こうとしたが手続きに入った途端ダメな体になっている。今も跡継ぎはいないだろう。隠して育てるにも場所が場所だ。


「もう少しまで来ていると思うのですけどね」


「明日は操られたアランを見るのじゃろう? 着実に近付いている」


 その後も帳簿や手紙を読むメヌールに付き合いながら朝までもやもや考えて過ごした。

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