2日目 紳士の謝罪
本来の目的は思考時間のためのトイレ休憩であったが、あまりにもの文化の壁で寧ろ余計に時間がなくなってしまった。大したこともない身支度を整えて詰所のある小屋に向かう。
ノックの後の許可を受けて入室。この小屋だけつっかえ棒で木の蓋を上方向に開閉固定する窓があり、まともな人類の建物に見えた。
「おはよう、ハラーコ。サムの奴が朝から失礼したようで申し訳ない。
先ほどの件の謝罪をしたいと言っているんだが通してもいいかい?」
詰所で番をしていたのはロンだけのようで、困ったように眉尻を下げている。
ロンはこの僻地任務で二人しかいない長剣使いで、腰に長剣を帯刀していた。ついでに多分リーダーのようで暗闇でなくても唯一識別できる人物である。
「あー、こちらこそ。この国の習慣に疎いからわかりにくい表現だったのかも。
私からもサムに謝罪をさせてもらえないかしら」
先ほどの件とは多分トイレの件だ。
ロンがほっとした顔になったと同時に、恐らく待機していたと思われる推定サムが勝手口から飛び出す。
起こしに来てくれたのに、何だか名前も一致していないし、謝るはめになるしで申し訳ない。
「ハラーコ、すまなかった!
ご婦人にあんな失態、本当に悪かった!」
飛びしてきたサムはすぐさま私の目の前で片膝をつき、頭を下げ、両掌を差し出す。
そのすぐ隣にロンも同じ体勢をとる。状況的に謝罪のポーズかもしれない。
「いえ、せっかく起こしに来てくれたのに私こそごめんなさい。正しくない表現で困らせたのでしょう?
私は馴染みがない文化なので気にはしていません。どうか普通にしてください。」
だめ押しに同じポーズをとってみる。
「ハラーコ、これは男性の謝罪のスタイルだよ……」
本当に馴染みがないもので、すまなかった。