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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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レイナードの記憶

 八歳のレイナードは、親戚だという司祭の弟子になることが決まった。今までずっとそんな親戚がいるなんて聞いたことはない。教会に売られた時も助けてくれなかったし、後ろ楯の強い奴に虐げられた時も助けてくれなかった。なんとかアラン司教様の弟子に滑り込めそうだった所で突然出てきた田舎司祭の血縁者。今更出てきても迷惑なのだ。レイナード少年にとっては青天の霹靂である。ただ見習い以下の彼には抵抗なんて無理なのでアラン司教様に謝罪と悔しさを伝えるくらいしかできなかった。


「アラン司教様、本当に申し訳ございません。私もそんな親戚がいたとは全く知らず、悔しくて悔しくて」


 レイナード少年が今にも泣きそうになるとアラン司教様の手がその頭を撫でた。


「君は親戚の跡継ぎとして生きていくのは嫌なのかな? 私は最初から養子として教会に入ったが継がせて貰うものがない者には散々嫌みを言われたよ。不治の病にかかろうが魔法を焼き切られようが生きていけるのだろうからとね。実際、彼らは治せぬ病の中で働き続けて倒れてしまったり、還俗してすぐ家もなく死んだ。田舎なら魔法を焼き切るような輩にも出会わないだろう。君は将来の憂いから解き放たれるのだよ」


 諭されるとレイナード少年はそうなのかもしれないという気持ちとこんな優しい方から離されてしまう悲しさに溢れている。


「レイナード、遠く離れても血の繋がりはなかろうと弟子にしようと思うくらい私は君をかっている。寂しかったり苦しかったりすれば手紙を送りなさい。君が成長する様子をこの目で見れなくとも私はそれを知りたいと思う」


 レイナード少年にはアラン司教様を心の父とした強い思いが残る。




 五歳のレイナードは強い倦怠感により動けなくなっていた。一番上の兄であるマキシムがレイナードの大事な熊のぬいぐるみを窓の外に放り投げ、男子がままごとをするのは許されないと怒鳴ったのは覚えている。そのマキシムは入室した時と変わらず何かの制服をきたまま倒れていた。強い兄は家族の自慢でこの制服もその強さを示すものだったのだが今は血塗れでその威圧感は全くない。一緒に遊んでいた姉たちは泣き叫んでいるがレイナードを支えてはくれないままだ。


「キャシー様? マキシム様! 誰か誰か!」


 少し席を外していた子守りが叫び人が集まる。それでも皆レイナードを支えてはくれない。兄マキシムが運ばれ、姉たちも連れていかれたがレイナードだけはその場に残される。体力の限界なのか意識を飛ばした。




 六歳のレイナードは新入りのイアンが苦手だ。金持ち子爵の子で見習い未満の子どもの中でも大人並に貧乏人いびりをする。一緒にいたくはないが放っておくと庶民司祭や貧乏貴族司祭相手にも攻撃に走ってしまう。養子が決まった子は別として、師匠の決まらない子どもは一纏めに罰されるのでみんな嫌々ながらもイアンを引き留めていた。


「なぁ、庶民は仕方がないだろうが貴族の末席にありながらも実家から支援どころか手紙もこないやつがいるって聞いたんだ。手紙代がないどころか文字すら書けないんだと。写本一頁も理解できない奴が教会にきて何になるんだろうな。是非とも聞かせて欲しいよ。なぁ、レイナード」


 イアンの弁は明らかにレイナードに手紙一つこないことを知っての攻撃だった。嫡男マキシムが一生武器を握れなくなった実家は未だにレイナードにそれ以外を告げず沈黙している。普通に考えて縁を切られているだろうし、楽観的にみても一年もたたずに混乱が収まったなんてことがあるとは思えない。それにイアンのいう通り五歳で家を出されたレイナードは文字を読めるが書いたことがないのでこちらから問いかけることもできないのだ。配達代だけではなくインクもペンもアルバイト一つできない彼には手に入れられない。

 何の反論も反らす話題すらないレイナードに気をよくしたのかイアンは尚も続ける。


「最初に渡される支度金はそういう勉強をさせる為の資金なんだぜ? まともな教育を受けてきた資金を返還するとか、間に合わせろとか。文字を理解できない奴に渡された支度金はどこへ消えたんだ?」


 多分、マキシムの治療費に消えている。そんなことを言っても支度金の不正利用は変わらない。俯くレイナードの横で二つ年上のアイリーンが間に割ってくれる。


「やめなさいイアン。子どもの私たちがどうこうできる話ではないでしょう? 教育費に使われることもあれば、聖職に就けた時に立派な写本を渡す家もあるのよ。時間も金額も直ぐに出せるものではないわ。杖や儀式衣装を仕立てることもある。

 文字も師匠ができるまでに覚えればいいのだから時間をかけても構わないのよ」


 手紙の話はフォローされなかったが、一番まずい話は反らして貰えたようだ。そんなことは起きるはずが無いのだけれども。ほっとするレイナードだが、イアンの矛先がアイリーンに向いた。


「アイリーン、君は随分と教養を軽視しているね? 大事なのは表面にある豪奢な写本や衣装だって? 支度金程度で繕っても大したものにはならないよ? 買えるかどうかは知らないが高い化粧品を用意しても君のその顔は美しくはならないように文字を覚えて医学書を買った方が建設的だろう?」


 別にアイリーンは不美人ではないがはじめての魔法発現が竈の前だったため顔に火傷の痕がある。高い治療費を払って治すより、自分で治療の魔法を覚えて消すのだと目標を持っていることは皆が知っていた。それすら小バカにされるわけでアイリーンは黙って耐える。


「アイリーンに謝れ!」


 アイリーンは耐えれたが彼女になついている小さなユリアがイアンに飛びかかった。皆腹に据えかねているのでユリアを引き離したり守るふりをしながらイアンを殴る。傍観していた子どもも連帯責任の罰を受けることが確定したので乱入した。

 ボコボコにされたイアンは実家に還され、子どもたちは全員食事を抜かれる。それなりに納得していたのだがその翌日ユリアが魔法を焼き切られた状態で発見され、アイリーンは更に火傷を負った。レイナードには何が起きたのかわからなかったが司祭や後から入ってくる貴族師弟にいびられ続ける。きっとイアンの関係だ。どうにかするにもイアンはもうここには居ないしレイナードには成す術もない。




 八歳のレイナードは自分の義父となるメヌール司祭と初めて対面していた。教会から離れられないメヌールの元にレイナードが身一つで向かわなければならず、メヌールに用意された日程表を見ながら馬車に乗ったり宿泊したりと二週間かけて到着してのことである。

 既にメヌールが自分の曾祖父の弟であり、ガルド領内でも最果ての田舎で司祭をしていることは教えられている。更に余計な嫌がらせや悪口をいう連中から派閥争いによる都落ちであることも仕入れていた。はっきり言って教会内部での評判が悪すぎる。


「よく来たレイナード。君を歓迎する。彼女は通いできている事務員でミーナだ。彼女に家の案内をしてもらったら、足りない生活用品を買いに行きなさい。私は夕方帰る。ミーナ婦人宜しく頼む」


 レイナードは二週間かけて来たというのに休ませないどころか本人すら留守にする。よくわからない女性は愛人なのか? 第一印象も最悪だ。

 疲労した子どもは寝るしかないので寝台を教えて貰うとすぐ横になる。あとの事は断り毛布を掴んだ。教会とは比べ物にならない荒い毛皮だ。最悪だ。

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