10日目 カルアの隠れ家
転位先は駐屯軍詰め所。木の札を渡して部隊長に事務所に通してもらう。軍事機密である広域地図を丁寧に広げて説明を受けた。あちこち繋ぎ合わせた一枚の革に刺繍糸で描かれている。魔法でマップを出して記号や注意をトレース。道中幾つもポイントをわけて小分けに移動しなければ有名ないしのなかにいる状態や洒落にならない高さの空中なんかに出現しかねないから必死だ。だというのにこの元になる地図はなんともアバウト。村は移動するものなので描かれていないのは理解できるが、食いつくした森は刺繍を抜いた穴がぼこぼこだし、移動のない指定都市付近はごちゃごちゃ施設の有無を示すマークが縫い付けられているので実際の規模がわからない。等高線なんてもちろんないのでこれを参考に移動なんてなかなかの無茶である。
「一気に転位は無理ですね。地図の出来が微妙で凄いずれそうです」
「軍の地図だ。これ以上わかるものはないぞ」
問題だらけなのだが伝わらないので一人で先に移動して、あとから部隊長とメヌールを迎えにくることにした。
最初の転位で膝の下が全て土の中をやってしまったのでホバリングと併用で行う。森を抜けて岩場を抜けて谷を越えて。進めば進むほど森の広さは狭まる。最終ポイントの多分隠れ家前で一端セーブの気持ちで二人を連れてきた。
「多分ここです」
部隊長の説明では領都から山脈砦に向かう道沿いで、カルアという岩が採れる場所である。この岩は砦や城なんかの強度のいる金食い施設の建材として採掘されており、採掘場がある特区だ。街道沿いで領都寄りで採掘場となるとこの場所だろうという検討である。地図情報ではさっぱりわからない。この村の隠れ家に該当するであろう採掘中止の閉鎖がしてある場所で一番古そうな場所、ここが現在地である。
緊張している部隊長を先頭に光珠を持ち旧坑道に三人で入る。途中まで人工的な道であったたがすぐに景色は天然だと思われる空洞に出た。昔見た鍾乳洞のように滑らかな壁や水の音がする。
「そこにいるのは誰だ?」
光源を持っていないのか暗闇から声がした。緊張感が融けない部隊長は剣を構えて応じる。御呼ばれした身だからそんなに構えなくても良いのではないだろうか。
「最北村ホラ駐屯部隊、部隊長アーノルド・キャンベルだ。ガルド伯爵の命で出向いた」
「案内のノーマンだ。こちらへ」
何気に部隊長の名前を初めて聞いた気もする。
こちらというがノーマンらしき人物は暗くてわからず、三人ともきょろきょろ光珠片手に辺りを見回す。光が強すぎてスルーしていたがぼんやり光る扉が見えた。声の主は居ないが扉を通れと言うことだろう。二人はまだわからないようなので先に近づかせてもらう事にした。
扉が光って見えたのは隙間から覗く明かりだった。開くと途端に一瞬目が眩む。細かいところは見えないが明るい部屋のようで人の近づく気配がする。
「目がなれたら席にお座りください」
ノーマンを名乗る男の声が近い。言われた通り慣れ出してくると長机に椅子が見える。どうにか領主との対面まで漕ぎ着けたらしい。三人の着席に合わせてノーマンは退室した。