10日目 ローウィ
目覚めたらまだ暗い。この村では時計を見たことがないので時間というより太陽に縛られる生活を送っている。窓を押し上げると真っ暗ではないが薄闇に包まれる村が広がっていた。大体の収穫は終わっているようで黄金色の絨毯も消え失せてしまい陰気な気持ちにさせる。
「ハラーコ、起きとるか? カイトたちがきたぞ」
窓の外をぼんやり見ていた私は気付かなかったがいつの間にかカイトがきてメヌールが声をかけてくれていた。
「あ、はい。今行きます」
在るのかわからない髪を撫で付けて、在るのかわからない顔を拭き、在るのかわからない足で靴を履く。気分が良くないと頭の片隅に追いやった憂鬱が意識の中心までやってきた。こういうときは「らしくないことは止めよう」なんて定番の言葉があるが私のらしさなんて一体どこにあるというのか。全てがこの陰鬱な物に飲み込まれる前にカイトとメヌールのいる居間へと歩いた。
居間で待っていたのはカイトとメヌールだけではなくて、何故か護衛をしていたレイがついている。挨拶もそこそこに若干興奮気味のレイの言葉を聞いているとどうやらレイにかけた最強魔王風のバフを発揮することになったらしい。
カイトとレイは無事に監視小屋についたが、夜勤組と見張り以外は誰も居なかったそうだ。見張りに聞くと大量発生中の魔獣ローウィが尋常じゃない物量になってきたらしく朝から晩まで間引きに勤しむ事態だとか。道中何もなかったレイは折角かけてもらった外国の魔法性能も試してみたくなり寝ていた夜勤組を一人叩き起こして本隊を探した。そこから始まる魔王プレイ。超エキサイティングしてきたもよう。
「魔力が尽きないなんて夢みたいだったね。絶滅するまで狩りつくそうかと思ったよ。一つ一つも強化されたように感じたし。どれか一つ、できればもっとだけども欲しい」
長々と喋ってくれたが纏めるとどれでもいいからできるだけ買えるだけ魔法を売って欲しいという話だったようだ。途中までちゃんとリアクションしていたメヌールも最初からひきつり笑いのカイトも、またやりやがって元凶めと目で語っている。私だっていたずら心はあったがまさかいつ切れるかわからないバフ頼みにヒャッハーするとは思わない。
「その話は置いておいてですね、結局ローウィの大量発生はなんだったんです? 村には降りてきませんか?」
あまり興味がないのが本音だが軍人がこの手の質問を無視するのは難しかろうとふってみる。しかしながらレイのテンションは下がらない。
「ああ、ローウィかい? ちゃんと原因もわかったし暫く間引きが続くかな。村に来るかは心配しなくていいよ。間にある森に結界がしてあるからね」
大体の村付近の森には結界があるものらしい。森に家畜を放牧している理由が何となく見えた。
今回のローウィ大量発生の原因は国境山脈の裏側、つまり隣国側の山が禿げ上がったせいだという。流民が出るかもと言ってるだけあって不況らしく、密猟というか無許可伐採をして山の生き物の生息圏を急速に減らした。国境山脈の食物連鎖でいうとローウィやアデンベアが頂点なのだが、足の速いローウィがアデン側に引っ越している。
「ということはローウィの数がまともになっても第二段として次はアデンベアがやってくると?」
「ローウィは山で群れるから全部きたかもしれないけれどアデンベアは人里も狙うからねー。こちらまで来るのは多くても三分の一程度かな。後は山越えせずあちらの村に降りると思うよ」
大体の森が結界に守られているように大体の村も結界を張っているらしいので被害は気にしなくてもいい話だという。ただし、まともに管理していればと付くが。
レイにとってはこれからガンガン降りてくる魔獣を狩れば済むだけの話だしピークも魔王プレイで乗り切ったのであまり話題性がないようだ。なので話題は戻ってくる。
「今回の大量ローウィでかなり牙がとれたんだよね。これでお金は入ってくるから安心して売ってくれ!」
自慢げに机に広げられた牙はどこかで見たことがある。昨日のシチューはローウィシチューだったり、カイトがバカ食いしたのはローウィの焼肉だったことが今判明した。




