9日目 黒い話
怒濤の魚配りが終わり、ビーフモドキシチューを食す。私には物足りないが出汁文化が微妙なアデン人には濃厚らしくメヌールの匙は快調だ。パンがなければ小麦粉を流し込めば良いじゃないので作ったのだが、小麦粉があるならパンケーキを作ればよかった気がする。まぁ重曹を手に入れるために魔法で化学しても害はないのか疑問が残るのだけれども。うっかり新元素マジックなんちゃらを足して新たな事件が村を襲うなんて展開を想像。ちょっと寒気がした。
「そういえば先程の炊事場でのことじゃが」
妄想から引きずり出してくれたメヌールだったが渋い顔をしている。
「ベッチーノに実行犯リストをもらったじゃろ?あの五人の内、一人の奥方は魚の列に並んで居なかった」
リストから発展して結縄特訓で私の腰紐を作成したことから、メヌールは腰紐を確認して実行犯の妻を特定することを思い付いたらしい。腰紐には家長の名前があるので妻の他にも娘や息子の嫁もわかる。五人の家族の内、一人の家族の女性すべてが炊事場では遠巻きにしていたようだ。
「周りの雰囲気だとか物欲だとかある中で不自然じゃ。恐らく家族に隠さず一家揃って殺害計画を知っており、賛成かはともかく止められない状態とみる。一家の長が殺人事件などを起こせば一家揃って懲罰となるから、あの女たちが何かするかもしれぬ」
ちょっとよくわからなかったので色々と常識ポイントを確認する。殺人や一定額以上の盗みなんかは一級犯罪として裁かれる。一級犯罪は家単位に罰が下される。家長は家そのものなので逃げようはないが、それ以外の家族であれば放逐して縁を切ってから事に及んだのだと頑張れば揉み消せる。特に家長社会なので女の所属は明確にされていないことも多く、あれは娘や嫁ではない拾ってきた、なんてとんでも尻尾ぎりができる……酷いな!
「昔からよくある話じゃ。家まで特定されたら妻や息子の嫁に乱暴してこの居候が犯人だとつきだす。まぁ、納得させる金も積むのじゃがな。
今回は冤罪話ではなくて、一家心中するくらいなら自分だけ死ぬという考え方もあるという話じゃ。リストの五人に加えてあの家も警戒しておけばよい」
さらりと話されたがそんな常識いいのかよ。多分私の嫌悪感が伝わったのかメヌールは諦め顔だ。
「容疑者は地元教会にて審問を受ける。よって司祭が黒だと言えば黒で白だと言えば白になる。言ったじゃろう? 司祭は大体金欠じゃと。権力や金銭がきかぬならきく司祭が出てくるまで殺せばよいという狂人も世の中にはおる」
メヌールは金や命を惜しんで犯罪者を庇ったことがあるのだろうか? 普段察しのいいメヌールなのに、私の声に出さない疑問はきっと意図的に無視された。




