9日目 ただのピクニック
結局何も採集せずに川に転位で飛んだ。昨日、魚をとった場所になる。ここでの仕事は魚の確保だ。大量に取らずとも種類があればそれでいいので気楽なもの。昨日とれた魚の種類は全部で五種。祝福魚になったメサ、鰻のようににょろにょろしているアラウィ、いりこにするしかなさそうな小さなコポとマイワ、普通の川魚イメージに合致するヨーカだ。一応全部集めてみて二人の前に出してみる。
「メサとアラウィは好んで食べられる。コポとマイワは食べないのぅ。ヨーカは初めて見る魚じゃ」
メヌールとベッチーノは共に本村に住んでいるのでグレードは違えども知っている食材は近い。メヌールが知らないものはベッチーノも食べたことがないものだった。
「ホラ村の川の下流が本村にも流れていますがこの魚は見たことがないですね。魚はこちらより日常的に出回っています。見たことがないということは上流にしか居着かない魚なのでしょうね」
ベッチーノがいうようにヨーカをアイテム鑑定してみると、流れの激しい清流に棲息する魚のようだ。先日ローラー作戦で出向いた本村にも確かに川はあったがホラ村に比べて平地で穏やかなものしかない。現在の位置は川沿い上流に住むホラ村より更に上流になるので珍しい物を発見したみたいだ。
「とりあえず塩焼きにして味見しますか」
何もしなかったような森訪問は歩きだったため、思っていたより時間が経っている。太陽が真上にあるし昼御飯には良さそうだ。
いつもの鉄鍋をだしてコポとマイワの小魚で野菜スープを作る。具材は昨日の残りがたんまりあるので具沢山だ。小魚をカラカラに炒めて水を足して野菜を足してとしたがおばちゃん軍団と違い男性二人は何も言わない。最後に軽く塩で調えて一品目は完成。パンはないがこれに焼き魚で問題ないだろう。魔法調理なので早くに焼き上がったヨーカも配り食事を開始する。
「ハラーコ様は料理上手なのですね。こんな短時間で味のしっかりしたものを作るだなんて」
ベッチーノはスープを飲んで感激してくれているが、多分本村もホラ村と同じ下茹で文化のせいで味が薄いと思われる。そんな差が透けて見えるのであまり褒められても喜べない。曖昧にお礼を言って魚を食べることにした。
「おお、肉がしまってぎゅっと味が感じられる。海の魚みたいですね」
川魚の臭みはあるが強い流れに鍛えられているヨーカの肉質は海のものに近い。ねちょっと潰れるのではなくホロホロとほぐれて調理しやすそうな白身魚だ。ハーブと共に加熱すればソテーもスープもいけるだろう。立派に食卓のメインを張れる食材だ。
「これを持ち帰るのじゃ。昨日のソースに絡めて食べるようにすれば村人の態度も一気に良くなるじゃろう」
メヌールじいさんは昨日の適当ソースが抜群にお気に入りだ。普通の人がそこまで喜ぶかはわからないが、昨日奥様方も試していたので持ち込むだけで勝手に広がりそうではある。
三人で話し合ったが美味しいヨーカもだが新しいものより馴れたものを好む人もいるだろうということで、メサ、アラウィ、ヨーカが持ち帰りリストに入った。
「さて、今日はもう配達で終わりかのう?」
「昼食べたばかりですよ。獣でももって帰りませんか?」
「初日ですし一気に進めなくとも良いと思いますよ。ついでに私が村長から離れられる貴重な時間ですし」
そういえばそうだった。
「ふむ、では家の中に転位してほどほどの時間までのんびり話すかのう」
いつものメヌールの仕切りにより初めてのお使いは終了となる。