8日目 頭の良い男
「はぁ……私がこれから見るものについて感想を述べれば良いのですね?」
村長宅に寄りベッチーノを拾って軍事務所に移動した。村長には部外者の私たちができそうな仕事を見繕ってもらうと言って出てきたが「もう十分村に尽くしていただいてます」という相変わらずの態度である。ベッチーノ自身が「お世話になりっぱなしですし行ってきます」と意欲的に合流してくれたのでなんとかなったが、それがなければかなりごねられただろう。
ヤル気で出てきたベッチーノだったが向かう先が家でも村の施設でもなく軍施設だった。何故か説明は後からと誤魔化されてあれよあれよと内部に押し込まれる。副部隊長はツーカーで狭い部屋に頷くだけで案内し「これからお見せするものについて後から聞きたいのです」と鑑定魔道具の紐を握らされた。そして先の困惑台詞である。
「こんなこととは知らずに……」
「君が発案者じゃろうに。ほれ出番じゃ、出してやれ」
部屋の外で見張りをする副部隊長が出て行き、台の上にある鑑定魔道具の向かいにおいたテーブルにダークエルフを出した。腐敗した人間を見るなんてカイトくらいしか経験していないレアなものだろう。ベッチーノは予想通り用意していた壺に嘔吐した。彼がすごいのはそんな状態でも叫ばず、ある程度収まったら紐を引いたことだろう。大人数を束ねる男は並みの器ではない。
「見ました。もうしまっていただいても構いません」
話し合いには無理な臭いである。要望に従いさっと収納した。青白い顔をしたベッチーノはこちらを向き簡単な経緯と彼に聞きたい内容は何かと問いかける。
「アデンベアのゾンビ跡始発点あたりを捜索しました。この遺骸からでる寄生虫が死体を操るものです。ご覧になりますか?」
「結構です。その寄生虫の対策は?」
癒しの言葉は使わずに魔法で弱ることと、祝福された魚の話も出しておく。そして第三のダークエルフだ。
「お聞きになりたいのはこれらの情報をジークに話すかどうかですか?」
ベッチーノの頭の回転はいいらしい。私とメヌールが頷くと少し考えた後にやめた方が良いと呟いた。
「居候の身ですから感謝もしています。しかしこれは彼の手には負えないでしょう。黙っているつもりでしたが、彼は貴女方を亡き者にして教会に引き渡そうとするまで追い詰められています。この遺骸を証拠として足せば生き残れると勢いづくでしょうね」
ベッチーノには村長に感謝するように鈍感ちゃんをかけていた。疑いの対象の私とそんな村長を比べると当然村長の味方になる。余所者である彼に隠れて画策しているのを見て見ぬふりでいたそうだ。どうせこの村は生かして貰えない。どう足掻いても大差なく、この村と滅びる覚悟で本村に残した家族のことを思いながら過ごしていた。けれどもダークエルフと原因の寄生虫を知ったことで本村に被害が回ることを恐れる。治療も対策もしてくれる魔法使いは私たちしかいない。次に来るであろう司祭は救わず逃げるだろうと。
「とりあえずは我々の生死が村々の生存に関わると理解してもらえたということじゃな?」
暗殺計画は知っていたし、村長を引き入れることは無理だとわかったがメヌール的にはこれでもいいらしい。ベッチーノに村での立場はないが使えると判断したようだ。ベッチーノもここで協力姿勢を見せることにより、本村で何か起きた時の保険を稼ぐ気でいる。
「ハラーコ、例の魚はまだあるかね?」
「軍に卸したのでちょっとしかないですよ」
「では、ベッチーノ。今日の成果なのじゃが、村人が村から出れる状態ではない。よって魔法使いのハラーコはさっきのような魔法でものを運搬できるしそこそこ強いので調達しにいくと伝えてくれんかの? 獣や魚、薪や木の実、要りそうなものを聞いてきて、ハラーコは堂々と門から採集と祝福じゃ。村長だけでなくハラーコを殺したいやつの前で言うのじゃ。確実に押し付けられるようにの」
いつか働きたいなと思っていたが、思っていたのと違う。すごく気は進まないが村人の敵対心を下げて駆除もしてしまうには悪くないのだ。
勝手に決定されてテンション駄々下がりの中、軍人たちの恐怖の機密解除が始まる。