1日目 うそもりもり、てんこもり
五人に混じり下山する私は斧の人と弓の人の間に入る隊列になった。見るからに護衛対象である。
「ところでお嬢さん、私の名前はエルだ。君の名前を教えてもらっても?」
すぐ後ろの弓の人が下山開始早々爆弾を落としてきた。
私が何者か私が一番知りたいです。
適当に答える方針としてもう外国人で通すわけで和名で構わないのだが、なんと名乗れば良いのだろうか。わかりやすい和名……花子?
「花子です……祖国の言葉で花を示します」
「ハンナク? ハラーコ? 発音しづらいが美しい名だね」
この名前は今回限りにする。色々重ねて酷すぎる。
「ハラーコ、私はビルだ」
「レイだ」
自己紹介が始まってしまったが恐らく夜が明けたら顔と名前が一致しないこと請け合いである。だって真っ暗闇だから。
前から順にロン、ビル、ハラーコ(笑)、エル、サム、レイ。
彼らと幾つか情報交換をかねて会話を重ねた。結果、彼らはアデン国の北軍に所属している軍人さんであった。
纏めてみると彼らのアデン国は大陸南部を逆三角形に領有し、この山はその北に位置する国境を兼ねた山脈だそうだ。単純に国境山脈と呼ばれていて、私たちが下っているのはそのなかでも一番高度が高い山のお膝元らしい。
今回の山脈向こうの緊張状態を受け、アデン国は国境沿いに監視小屋を一定距離ずつあけて幾つか配置していて、一番仕事がなさそうな高い山裾に彼ら小人数チームが担当、通常の街道にあたる一番低い山裾には関所を兼ねて元より砦が建っており、三百人体制だそうな。
そんな彼らは流民を一時保護して、週1で来る補給の馬車に引き渡す仕事らしいが、未だに一人も流民が来なかったことや、今回の通報はその補給に来てくれた雇われ商人が帰りの馬車に乗せようと山菜とりにこっそり出掛けて見つけたことなんかを話してくれた。
基本ユルいじゃないか、危険度低いだろう実は。
蛇足だが今回の会話により私の設定は以下の通りになった。
両親ともに魔法使いで、将来、親戚みんな魔法使いにならないと許されない家系に生まれてしまった。
そして跡継ぎの兄が突然の家出。
魔法使いの運命にあわせて婿養子の婚約者ができてしまう。
強いプレッシャーの中、父親について婚約者と対面がてら魔法使いの集会に行くために船に乗ることになった時、出港前の船から別の船に拐われてしまう。
しかしながらよく見ればそれは日に焼けた兄の姿。
運命なんて変えてやると二人で船を乗り継ぎこの大陸まで辿り着いたが、兄は元々体が弱かったせいか寝たきりになってしまう。
たどり着いた大陸を自由に見て回りたい、と、死が彼を迎えに来るまで散々話してくれたので、大陸を自由にみてまわり、港町に埋めた兄の墓前に帰るという旅である……らしい。
六人は小屋まで兄を思い涙して歩くことになった。吟遊詩人にでも売り付けたい話である。