7日目 相互理解は困難
かなり傷んだ遺骸であった。ダークエルフが存在する証拠である。仲良くするかは置いといて、軍にも教会にも流すべき情報かもしれない。わざわざ人避けしてまでの眠りについていたのに申し訳ないが、寄生虫の研究とヒューマンが近付かないための情報源としてアイテムボックスに収納させてもらった。
とりあえずは現地指導員であるメヌールじいさんに相談すべくざっと光汚染をばら蒔いて転移帰還をする。
「早かったのう」
「墓地付近の寄生虫駆除はしてきました。ですがどうしようもないものを見つけてしまいまして」
まずは人避けの標を机に載せる。
「なんじゃこれは……」
「鑑定を」
出した途端に顰めっ面を見せたメヌールは鑑定を開始し、目をそらしながら疑問を発した。
「これはどこに?」
「寄生虫密集地点にありました。そしてその下に二体の遺骸を発見しています。かなり傷んでいるので構えておいてください。あと触らず鑑定です」
石をまた収納して男性の遺骸を出す。二人分はのりそうもない。
「存在したのか! ダークエルフが!」
衝撃を受けているところでもう一体と入れ換える。今度はもう絶句された。
まずは今回ゾンビ発生源にこれらが発見されたことからした推測を話す。
一つは埋めた者、埋められた者を合わせて少なくとも三人のダークエルフが近辺にいたこと。または石の魔道具製作者が遺骸と同じ姓をもつことからこの大陸に三人は存在していること。
二つ目はこれらは墓であるかもしれず意図的に寄生虫を広げたか否かは埋葬した者を見つけなければわからず、足取りはここから辿れぬこと。
メヌールは前述に同意はしてくれたが後の物には半分しか認めなかった。聖典のダークエルフについての記載が原因である。
ざっと抜粋すると『ダークエルフ達は祝福を得られず、亡者を操り祝福を受けた者たちを襲う。壺と己れの同胞の命を用いて邪法の儀式を行い、その壺に心を奪い閉じ込め、それ以上の儀式の贄として貯めた。操られし肉体が奪う祝福された者の心も壺に貯め、極悪な儀式達成の野望を抱く』というくだり。
儀式には同じダークエルフの遺骸が必要であることと人避けがあることで、これは儀式を行ったととったらしい。同意できるのはこれ以上の足取りは掴めないだろうという点のみ。もうこれはヒューマンか教会のもつアレルギーかもしれないのでそこはそういう思想なのだと理解しておく。
「それでですね、この遺骸を軍か教会に提出か鑑定結果をだすかするとどうなりますか?」
常識的に考えて公に出してはいけないそうだ。一人いれば十人、十人いれば百人いるかもしれぬとパニックになる。軍については襲われるかもしれない敵でもあるので、その辺の判断は部隊長達に相談して調整なりなんなり任せた方が良く、教会はもう接触したら八つ裂きにされそうなので伝達手段がない。
「この遺骸が寄生虫発生源であることは確かなんですよね……寄生されてもゾンビとして動かないですけど。生死を問わず危険なものが出るかもしれないのに、何の注意喚起もできない。それなのに連れてきてしまって申し訳ないです」
メヌールには理解できないようで、明日には鑑定魔道具と部隊長を喚べるようにしておくとそっけなく家を出ていった。残った私はダークエルフの遺骸にそっと手を合わせて冥福と謝罪を捧げる。