5日目 ぬめじいのあばうと計画
「ハラーコが規格外だということがわかった。当初は軍を巻き込み山脈越えをさせるつもりじゃったが、もうシンプルに領主様を巻き込むことにしようと思っておる」
チラチラと簀巻きのベッチーノを見ながら会議が始まった。無視してにっこり笑っておく。別に容疑をかけられた恨みではない。決してない。
「巻き込むとはどういうことで?」
割りと空気なことが多いのに順応性の高い村長が、もうベッチーノを見ずに質問を返す。これが生き残る力なのかもしれない。
「軍に生命の危機と正義感で頼みごとをするのは同じじゃが、領主にも計画書を送らせて協調するのじゃよ。自分の懐が痛まずに済むならばのるじゃろう」
メヌールの情報では今までガルド領主は教会とはうまく付き合っていたようだ。清めも自分の領土では起こさせていないし、のさばらせてもいないことから教会への警戒心は高いといえる。
そんなガルド領主だが、政治闘争や教会との確執でもない理由で自分の財産を燃やされた場合、金の心配だけでなく抗議や怒りを示すポーズをしなければならなくなる。緊急事態だったといっても周りの貴族には領主への相談もなかったとか、いつもの清めでついに対立したかと思われる。怒るポーズがいる、謝られるポーズをとられる、損をする、貴族に舐められる、友好度が下がった教会が残るという流れになるわけだ。なんの得にもならない。
そこで領主に「財産だけは守れるし、教会を抑えられるネタを握れますよ」と誘うそうだ。
「そんな話リスク高くないですか?」
「君は短気じゃの。話には順序があるのじゃ。先にどう巻き込むかじゃよ」
おにゅーの計画は私の魔法ありきであった。私が転位もコピーもできることに目をつけたらしい。
軍から領主へ渡るのは領主のお膝元である領都の衛星村を作る許可申請と説明書である。つまり村を丸々領主の目の届きやすい位置へと移転をするのだ。
村民というのは領主の財産であるのでどれだけいてどこにいるのか正確な情報は基本的に外部には漏れない。しかしガルド領はド田舎にも司祭を送っているので教会で独自に計算ができる。外から見れば村が一つ消えて損しているが、教会にだけ移転だとわかってしまうのだ。
口封じに清めようと思っても、態々領主の御近所に相談もなしに二度目のキャンプファイアに出掛ければ全面的対立をうむ。けれども村人は事の真実を知っている。教会は領主による箝口令に頼るしかなくなるし、領主は教会への貸しと財産保護ができるという算段だ。
「教会はそんなに低姿勢になりますかね?」
「ガルド領ならなる。北の大領地に寒村まで司祭を送っておるのだ。余計な人員は入れぬがそれでも他所の領より数が多いし、助成金もだしておる。教会数が国で三本指に入る領地と対立すればかなりの首が飛ぶことになるぞ」
「それなのにホラ村を焼きに来るのですか?」
「ゾンビがでたからな。領主が指揮する軍の記録にも残るので正当な理由だ。だが、領都周辺でゾンビだ、ダークエルフがでたなど言えるか?」
そんなに自信があるのならまぁ良いのか? 自信満々な中ゾンビは出たけれども。
「まぁ計画のキモはハラーコの魔法じゃ。村人を全員転位もできて、今の村の建物や畑の土まで模写できるそうじゃ。少々雪の季節が短くはなるが領主にとっての財産価値はそこまで下がらんで済む。
領主が教会と組むなんてベッチーノみたいな弱腰ならば別の候補地を探して転位じゃ」
ところでこの計画でベッチーノはどこに捨てていくんだ?