5日目 魔窟らしい
メヌールが予想するシナリオはこうだ。
領主や軍がゾンビやダークエルフの記録がないかを探している間に、領都の教会が動く。先にホラ村に入り、大規模なゾンビ発生が予想されるとして村と墓地の出入りを禁じ、領主と軍が来ても、「発生前の段階でできることは軍の領域にあらず」と入らせない。村長と領主の間に入る形で報告書の遅延や改竄をして時間を稼ぎ、王都からの指示を待って全てを清める。王都では上層部が宮廷工作をして、清めしかなく焼き払えという命令書を政治的に調え、ホラ村では領主には犯人と既に術にかかった者ばかりだったが清めました、良かったね、である。
当然、ゾンビ発生を食い止められなかったメヌールは殉死か自殺をしたことにされ、まともな力がなかったとか、金で癒しをサボるだとか、最悪ダークエルフを招いたとか、情況により理由を押し付けられる。周りもメヌールが責任を被る死により口を慎み、細かいことは闇の中……ちょっと壮大すぎやしないか?
「実際大袈裟ではないのだ。教会と折り合いが悪い貴族領で闇の神を崇拝しはじめただとかゾンビを作る秘薬が密造されているだとか難癖をつけて焼いている。今回は領主の耳にゾンビ発生の報が入っているので傷はつくがいつものことと流されるだろう。頭の良いものはいつもより教会優位でないことに気づくだろうが何も残さぬ」
現実教会は貴族とズブズブの関係らしい。手を組んだり潰しあったり上層部の中身も貴族の子弟なので出家なんてあってないようなもの。超絶面倒な臭いがする。
メヌールが送る手紙を工作してみたらと提案したが、そうなると軍人もゾンビ化したことにされて大規模清掃が後から行われ、清めと破門で国が荒れ、死人の数も増えて逃げ場がなくなる。まともに報告して人員を揃えたりするであろう少しの間に西に逃れて流民として保護されるか、山越えして荒れる隣国に紛れ込むのが生存ルートだという。
「結局あなたは何を言いにきたのですか? お互い立場的に良い話ではないようですが。まさか別れの挨拶に?」
メヌールの話し方は回りくどくて結論が見えてこない。情況説明と挨拶をしてトンズラとかじいさん耄碌しすぎである。長くて暗くて困っている私はイライラが漏れはじめていた。
「提案にきた。私には常識がある。君にはこの地では見られぬ魔法がある。望む結果は二人の安全圏への脱出。手を組まんかね?」
このじいさん司祭やってるくせにファンキーな脳ミソをお持ちなのか、これが噂の教会の罠なのか。
「やるかね?」
「まぁ、それ以外もないですし」
「うむ」