5日目 どうしてそうなる
捜索の終了は軍にも通達がいる。インパクトの強いものを見たからか、志願したカイトが馬車ではなく鞍をつけたモフ馬にまたがり監視小屋へと出かけていった。参加した村人も憂鬱な顔をしながらも、忙しい収穫期、家の手伝いをするために帰って行く。残されたのは私とベッチーノだけとなった。
「ハラーコ司祭様、私は疑いようなくジョージ……マリーのじいさんと呼ばれる者がゾンビ化したのだと思います。しかしながら不思議な点が多すぎるのです」
「あの穴は何なのか、みんな同じ司祭に同じ癒しを受けたのに彼だけ何故ゾンビ化したのか、ですかね?」
「ええ。謎が謎のままではそれを理由に教会は逃げることが可能です。
今は教会が穴の秘密を知り、秘匿することで踏み倒しているのではなんて疑念もわいています」
ベッチーノも村長だ。裁定役として来てはいるが同じような墓地を持ち、同じ司祭が同じ癒しを施している。はっきりしないことで第二のゾンビが彼の村にくるかもしれない。公平に見ることのできない状況になってきたようだ。
「ベッチーノさん、それは一人言ですか? 私にですか?」
「一人言です。別の宗教司祭様なら別の癒し方をお持ちではないかと、願望です」
生憎本物の司祭ではないから、とは言えない。
そもそも司祭ができる癒しって何なのだろう。ゾンビを防ぐのならば発生の原因と関係しているわけで、わからないけどやっている行為ではなくちゃんと研究されているのではなかろうか。教会の威信がかかっているのだし秘匿情報の一つや二つ出てきてもおかしくない。
ゾンビ発生原因として想像できる範囲だと一番にウィルスである。この場合癒しは坑ウィルスなり、エンバーミングなりの処置を指す。そうすると処置が甘いとか変異に対応できなかったなどということがたまに起きるはずだ。
第二に術士が操る場合。キョンシーなんかが有名であるがラジコン操作に近いものになる。術避けができるとしたら癒しに該当するだろうが、ゾンビを作れる者が延々と手出しできないとなるわけで、技術発展のいたちごっこが起こりもっとあちこち被害が出るのではなかろうか。ついでに術士がいるなら目的がいる。こんな田舎村で何を?
第三はゾンビパウダー説だ。毒と薬を調整して脳に障害を作り意思のない奴隷を作ったという話。これはそもそも死んでいない。たとえ埋めるときに生きていたとしても一年も死なずにはいられまい。逆に司祭が操って「良い子に寝てなさい」とでも言ってた方が意味がある。
色々考えてみたが、魔道具でゾンビを証明したときからもうウィルス説しか考えられなくなっていた。
クイズ番組を見ていて間違っていても答えを一つ思い付いたら第二候補がでてこない。あれに似ている。最初の答えの補足は幾らでもできるが、他の答えは否定材利しか浮かばないのだ。
こういう時、意見の違う人と話すとマシな考察ができるのだろうがウィルスなんて通じるのか? 自分の意見なしで考えを聞くことはできるのだろうか? やるだけやってみよう。
「ベッチーノさん、あなたはゾンビの原因を何だと思っていますか?」
ホラ村ではダークエルフが儀式をしていると信じていた。矛盾があっても気にせず盲信できるらしい。ただベッチーノは現在教会に不信感を持っている。他に何を考えているのかわからない。
「ダークエルフ……と教会は言っていますが、私は一度も見たことはありません。恐らくこの近辺六村ありますが、その姿を見たという噂すらたっていないでしょう。ゾンビすら架空の化物だと多くが思っていたと思います。そんな目立つ術者が出たわけでもない」
そこまで言うと彼は口を閉ざした。
ベッチーノの考えではダークエルフではないが、術者がいるという前提で話をしている。二つ目の案、キョンシー風、術者説になる。ならば術者の目的の検討もあるのだろうか?
「それはゾンビを術者が操っているという考えですかね? この辺りでは架空の化物であるゾンビを術者がわざわざ出してきた理由って何かありますか?」
「それをあなたに尋ねたい」
……それって、つまり、
「私が術者だと?」
ベッチーノは厳つい顔を真っ青にしながらも真剣な眼差しでこくりと頷いた。なるほどわからん。何で急に私が容疑者になる。