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だらちーとと残念異世界  作者: ちょもらん
ガルド領・教会編
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4日目 ゴースト

 ゾンビを探しての山狩りは翌日朝にということで解散になった。

 嘘か本当かは別にして、彼らはゾンビが邪神系統、つまるところ闇の属性を持った呪いにより動いていると信じている。誰かが比較研究したわけでもないのに、夜はゾンビが強くなると思い込んでいた。

 カイトがゾンビを倒したのも夜だが、相手がかなり欠損していたからとか運が良かったからだとか。捜索には確かに明るい方が良いので黙ってはいたが、カイトをけちょんけちょんに下げてはゾンビは恐ろしい、ああ恐ろしいと言っていたメヌールは留守番を決めていた。ゾンビを防ぐことはできるがゾンビになったら救いなんてないそうだ。

 モヤモヤする話し合いだったと思うが、きっと私よりカイトがやるせないだろう。日が落ちていたので家まで送ってくれている彼の横顔は憂鬱ですと顔に書いてある。


「庇いもせずにごめんね」


 彼の味方をするには私は色々と知らなすぎた。けれど道理と感情は別物である。


「いいんだ、ハラーコ司祭様はマリーのじいさんを知っているわけでもないし、あの場で焼いてくれと頼んだのも俺だから」


 遺骸を持ち帰れば丸く収まったのか。いや、きっとマリーさんはもっと悲しんだだろう。あの時カイトはマリーさんに見せられないから焼いてくれと言っていた。保身より誰かへの優しさが先にくる性格なのだろう。

 ただ悔しいものは悔しい。村人にとってゾンビが出たというのは心の傷だ。多くの人が慕う故人なら尚更だろう。メヌールが悪いと断罪することは悔しさを癒す行為の一つといえる。その相手に認めさせるどころか何も聞き入れられず挙げ句に罵られた。マリーのじいさんとカイトと村人の尊厳を傷つけられたわけだ。


「メヌール司祭はひどいと思う。それに抗議しなかったのは良くなかった」


「正教会の司祭様だから。向こうが認めない限りこちらが侮辱していることになるし。

 それよりも裁定に負けたらどうしようかと思ってる。みんな俺がマリーのじいさんだと言ったことを信じて訴えてくれたのに。

 嘘つき呼ばわりされるのか、恩知らずだと罵られるのか。負けた時のことばかり考えてしまうよ。村が立て替えた火葬代は補填できる額なのか……」


「その時は丸々私が持ってる分を出せば良いよ。と、いうより絶対に勝てるから安心して」


 そう、勝つことだけなら勝てるのだ。私は人の認識を誤魔化せるのだから。「鈍感ちゃん」をメヌールにかけて「あれは絶対に村人のゾンビ。ちゃんと癒せなかった気がしてくるでしょ」と囁けば裁定だけは乗り切れるのだ。

 けれどもそれをしたとしたら今後も困ったことになるだろう。何故、ゾンビが出たのか。これが究明されていない。

 メヌールが言うように癒しはしっかりされていたのなら、その後また癒しがなされたのに発生となりかねない。

 裁定でもめてそちらに注目が行くかもしれないが原因究明がこの事件で一番大事なことだと思う。


「とにかく明日現場を見て事態が進行することを祈ろう。停滞しているうちは流民であれ墓地であれ野放しにされているゾンビ予備軍がいるわけだし」


「そうだな、村にゾンビが出たら大変なことになる……危険がわかっているだけ備えないと」


 カイトのモヤモヤは解消されたわけではないが、意識は明日に向いてくれたらしい。



 男の子は強いな、とババくさいことを思う。そう言えばカイトの年齢も不明だが私も不明だ。なんとなく年上扱いしていたがどうなっているのだろう?

 気になってしまったので聞いてみよう。後から思う、これは失敗だった。


「カイトさん、いきなりだけどさ、私って幾つに見える?」


「え?……え? どうなっているんだ? え?」


 こちらを眺めるカイトの顔が青くなる。疑問を投げ掛けた後は声もでずにパクパク開けるだけ、しまいには震えて白眼を剥いて倒れた。一分も経っていない。いったい何が起きたのか。ただの思いつきの問いかけが大惨事を招いてしまった。呼吸と鼓動を確認した後、とりあえず私の滞在先に担いで帰る。



 寝台に投げ込んだカイトは過呼吸気味であった。紙袋なんてないし、魔法で酸素と二酸化炭素を調整してまともになるまで様子を見る。対処法は単調なので何故こうなったのか考えてみる。


 全部は解らずとも本当は大体わかってしまった。


 私を見て、私を認識しようとして、おかしくなった。なんとなく隣で過ごしてもわかない違和感とか認識できなかった何かを誤魔化しようなく直視した、途端にこれだ。

 これは私自身と記憶の思考実験に似ている。絞りこんで直視しないとわからない癖に普段あれだけある記憶が違和感なく出入りする。

 多分カイトは視たのだ。私自身を。他人に普段見えている私は、なんとなく人の形をして、なんとなく女で、なんとなく異国の空気の何かなのではないだろうか。


 左手の甲を凝視してみる。指は五本、黄色人種の肌色、ネイルはしていないが女の爪をしている。普通だ。普通過ぎる。

 黒子は無いのか? 数日手入れをしていない指に産毛が生えたりはしないのか? ささくれもひび割れもないのか?

 お手本のような普通の手に特徴がないか思い出そうと記憶を探る。

 目の前の左手が白くて黒くてくっきりとぼやけて……。これか、これを視たのだな。



 疲れた私は色々と放棄して先客のいる寝台にすがるように眠ることにした。記憶どころか存在自体あやふやだと知ってしまった。誰じゃない何なんだ。私はいったい何なんだ?

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