30・31日目 こんぴゅーたーおじいちゃん
「最近魔獣の宝玉探しを始めた中央アデン大教会が一番情報があるじゃろう」
スマホデビューで電話とマップをマスターしたようなメヌールはやっと建設的な意見をくれた。
もう日が落ちる所なので近場であるツガル港の宿屋の一室での話し合いである。首から下げたカマボコ板を睨みながらではあるが共用であるマップに書き込みをしてくれていた。メヌールはただのじじいではなくコンピューターおじいちゃんだったらしい。
「どこの教会に幾つって紛失していない分は情報集積してましたね」
「うむ。私が知る大教会の位置にピンマークをつけた。転移転送を使いこなせればこれらには私が単独でもいけるぞ」
私が世界のプログラムに勝手に書き込んだコードを流用してメヌールのカマボコ板は管理者用の魔法が幾つか使えるようになっていた。大量の魔力を吸い出すらしいがこれをメヌールが単独で使えるようになれば分担までは無理でも緊急脱出くらいはできる。今晩中にやらなきゃならないことに管理者用の魔法補助をマスターするが追加された。
「別行動は馴れてからにしましょうよ。この端末が奪われたらメヌールじいさんは危険です。どうなっても端末回収できるようにならないと一人では動かないでください」
重々言い聞かせて管理者用の魔法へ勉強熱を向けてみる。
「魔法補助アプリに端末回収についてはないですか?」
「あぷり? 用途検索だけでもかなり膨大な魔導書じゃよ。これを用いた魔法発動を覚えて、回収魔法を検索、それをこれなしで使えるように覚えて……とてもじゃないが一晩では無理じゃのう」
悔しそうにそんなことを言っていたので大丈夫だなと安心して、翌日は中央に行こうと話して就寝した。の、はずだったのに朝起きたら目に隈を作ったメヌールは挨拶抜きでこうのたもうた。
「端末を用いた魔法行使は覚えた。回収魔法は見当たらなかったので幾つか研究して複合魔法案を作って地底人に申請する。もう何日か待ってくれ」
ソロで動けなければ始まらないとばかりのガリ勉ぷりを発揮している。今も端的な報告が終われば端末を弄りながらぶつぶつと寝台の上に広げたメモ板に書き込みながらか研究していた。なんだこれ、メヌールってこんなキャラだったの? 寝惚けた私には意味不明な行動である。
「なんでそんなことに」
思わず口から漏れた言葉にメヌールが振り返った。
「神の領域である魔法を使える魔道具の管理じゃぞ? 人類の手に渡れば世界は終わるのじゃろう?」
メヌールと私の認識が全然違ったことに気付いた。どうにも彼には閉鎖時間内ループは世界の終わりでこんなチートアイテムを説明なしでみんな扱えると思っているらしい。私からすればループを理解している地底人と共に管理者サイドに入ったので世界がループしても私とメヌールは死ぬわけでもないし、こんなファンタジークラッシュアイテムを悪用するにも習熟時間がいる気がしてならない。私が世界のプログラムコードを理解していないのは事実だが、端末の回収くらい地底人に解析を頼んで私が打ち込めばすぐ回収できるだろうと安直に構えていたのだ。管理の概念がアナログかデジタルかの違いが出たとも言える。
「地底人にコードを作って貰って私の魔力と権限でごり押したら済む話じゃないですか」
「魔法の作成や合成は実験が必須じゃぞ? 地属性しかない地底人では変換器を幾つも使い時間がかかるじゃろう」
「別に使用できなくとも地底人にアプリ作れるだけのコード知識があるのだから端末の位置解析をして貰うか、解析用のコードを貰えばいいんです。上位権限のある私がそれをこっちこいで手に戻せば回収だけならできるんです」
「私ができなければ君と別にこれを貰った意味はないじゃろう。そもそもあぷりとかこーどとは何じゃ? 知識だけで魔法は扱えぬよ」
全く話が噛み合わない。多分メヌールのいう知識だけで扱えない魔法は既存コードの流用であって基礎研究的な話で、私の思う知識は新プログラムコードの作成であって魔法知識じゃなく世界管理の知識である。もっというならOS知識でパソコン使うのとOSをバージョンアップさせるプログラム知識という規模というか立脚点の違いだ。説明してもさっぱり通じない。やっぱりメヌールは時代についていけないじじいだ。窓以外のOSが理解できないじじいに等しい。
段々噛み合わない話にヒートアップしてきてお互い喧々囂々罵詈雑言が飛び出してきた。
ピリリリリ……
懐かしい電子音が聞こえる。掴み合いをしかけていたメヌールが飛び退き壁に後頭部を思いっきりぶつけた。あれは痛そうだ。
さて、音の元だがこの世界であんな音を出しそうな代物はこれしかない。私に支給された端末を見てみる。地底人からのメールであった。
『ハラーコさんの魔力が揺らいだのを観測したので緊急かと一時的に盗聴状態にさせていただきました。すみません。
現在の話題についてでですが、ハラーコさんが考えるように管理者用のプログラムは世界中のオブジェクトの監視が可能です。ただ膨大な分母の中で検索をしますから砂漠で特定の砂粒を探すようなものになります。よってこの端末のように直ぐに検索順位が上位になるようなコード割当てを事前に行っていく必要があります。端末のマップ機能にお二人が互いの端末を確認できるようにしてみました。
人間に世界のソースを弄るものは居ませんので最悪の場合は数時間数日単位の時間巻き戻しをすれば大抵のフォローは可能ですよ』
地底人の監視能力パネェ。早速マップを開くと現在地と同じポイントに星マークがついていた。むかーし携帯電話の機能であったペア機能を思い出す。束縛系カップルにしか受けなかった機能である。あとうんざりしている割りに時間巻き戻しに抵抗がないのは彼も大分麻痺しているなと気付いた。
「じいさん、解決しましたよ」
「こちらにも手紙が届いた。さっぱりわからん」
時計すらない世界の人にペア機能や検索機能を教えることに難儀した。メヌールは魔道具職人でもあるので使い勝手だけでなく概念をふわふわにでも理解するまで離してくれない。結局徹夜のじいさんは寝込んでしまい、お仕事初日は私の単独行動プラスじいさんの休息日となってしまった。