30日目 セカンドステージ
地底人の交渉はシンプルなものだった。ファンタジーど定番の世界を安定化させたら消去されないように私の存在を隠蔽するという生存権の明確化がなされる。運営サイドの地底人がストをしてでも世界の意思に自由を願ってくれる案もあった。悪い結果しか見えないからストより悪どそうな隠蔽を選んでみる。世界中の意思はそこまでコード読み込みができないのでそれくらいなら簡単だと拍子抜けなことを言われた。
「ファンタジー転移展開かと思っていたらまさかのSF設定で運営サイドに取り込まれたでゴザル」
「ハラーコ? できれば私にもわかるように頼む」
伴侶であるメヌールも自動的に仲間入りだ。地底人に合わせて地球独特の言語で話すとメヌールには通じない。かなり無理のある人選だが、抜けられないのだから仕方がない。地底人曰く、妖精が現地人をサポーターにするシステムなのでテイムペットが野生より強い感覚なんて見も蓋もないことを言われた。
さて、世界の裏事情や自分の立ち位置をはっきりさせたところで俗っぽい話が待っている。安定させる指針は人類がある程度平和な共存をして種族特性を生かした分業化なのだが、現在奴隷問題や宗教人種対立、技術の進み過ぎやデバッカーの乱獲なんて問題が山積みだ。細かくいうと、奴隷が生産されるアラリアの内戦を止めなきゃならないし、なんちゃら至上主義を壊して、デバッカーを本来の仕事につけなければならない。マクロな話をしていたのに何故か日常の巻き込まれ話に戻ってしまったのだった。
「優先順位からいうと妖精の回収が一番だね。ハラーコさん程ではないけれどもこちらの能力を人間に良いようにされるのは時間を巻き戻す規模のミスが広がりやすい」
勤務地が限定される地底人は一先ずマンセルがいう妖精発生地帯とやらの場所が見当がつくと向かい、私たちはアデン大陸に戻って充電中で動かない妖精を大教会から片っ端から回収してくることになった。つまり話はセカンドステージに進んだのに、現場は元通りになったのである。
まだ世界のシステムコードやプログラムがわからない私とメヌールは糸電話式の念話から世界運営用の通信ができる道具を貰って再びアデン国ガルド領のツガル港に送られてきた。行ったことのない長方形のマップも出せる端末は糸電話から一足跳びにスマホに変わったようである。もっというと文明の利器に疎い現地人メヌールは電池の利かないテレビのリモコンのように振ったり斜めから見ていて全く使いこなせていない。
「メヌールじいさん、あなたは通信さえできれば問題ないのだから後で教えてあげますよ。それよりどこからどう回るかです」
アデン大陸はヒューマン天下の土地で正教会が牛耳る世界である。妖精が情報収集をろくに行えない環境なのでビーコンが消えた充電中状態の意思なき妖精を探すのはなかなかの難易度だった。端末も地図情報はあるが親切に妖精のマーキングなんてしてくれていない。
「魔道具なのに組み立てるでなくそうあるべきと世界に機能を付与した道具というのが理解しがたくてのう。どうみても板きれじゃし」
メヌールはまだ端末を弄っていた。簡易的に使う補助具だからとどうみてもかまぼこ板に通信系のプログラムがのせられているのが納得できないようだ。私だってプログラムだとか内情をしらなければ見た目に合わない物質は理解できない。けれど今のメヌールを見ていると地底人の話もどこまで理解できているのかと頭が痛くなってくる。
「ふむ。これはどこになら穴をあけてよいのかわかるか? 首から下げて奪われぬようにせねばと思うのじゃが」
レアアイテムぷりは理解してくれていた。穴はあけずにアイテムボックスからミスリルを出して金具を溶接したらおじいちゃんと新しい機械はとりあえずの収束をむかえる。