29日 エルフの精霊信仰
メヌールが別室作業になると途端にエルフが入れ替わり立ち替わり訪ねてきた。メヌールに対する態度が悪いことばかり気にしていたが私一人だと信仰の対象であることをすっかり忘れていた。差し入れから始まり拝みにくるエルフが出るわ出るわ。凄く邪魔であった。
大陸とは違い土下座スタイルで感謝や慈悲をこうのはまぁ精霊大襲撃の後なので仕方ないとしても、お前も仕事しろよといいたくなる恋愛成就や健康祈願にくるのはうんざりする。昼が近づくとあんまりにも多いせいか部屋の担当らしいメイドっぽい人が廊下に机を出して差し入れ受付を作った。
「あの、受付けずもう全部断ってくれませんか?」
「精霊様、申し訳ございません。静かにさせますのでどうか……」
そもそも何でこんなことに。神殿にも宮廷にも精霊はいたはずだ。神降臨状態でもこの場では特別なことではない。
「失礼ながらハラーコ様は祝福者が足りないことが原因かと思います」
それ何と聞いたらどう聞いてもダークエルフでいう伴侶でありメヌールのことであった。明らかにいるよと答えると問題はエルフの相方がいないことらしい。
「増えるだけの数を祝福者にできると建国物語に出てきます。ダークエルフは伴侶という言葉を使って精霊様を独占しますが、宮廷にいる精霊様はエルフとドワーフの祝福者を持っているのです」
初耳過ぎた。一瞬ハーレムかよと思ったがこちらの認識では伴侶ではなく神が力をあげる人間なので全くベクトルが違う。
詳しく聞くとダークエルフは分裂した妖精を纏めて一人の伴侶がみるがエルフの方では一人一欠け大切に保護するんだとか。保護して記憶を失った精霊は家宝にして再び動き出した時は家の者を選んで貰う。家を繁栄させる神様な訳である。
精霊なり妖精なり不思議生体の私たちはどうにも周りの説明を聞いて勝手に「私そういう生き物なんだ」と生活しているだけのようでどっちが本来あるべき姿なのかなどはナンセンスなのかもしれない。どっちも可能なのだし。
そういう文化について聞いた精霊は全員とは言わなくても教えてくれたエルフのために祝福者の中にエルフ枠を作るのが恒例であり、ヒューマン一人としかいない私は大チャンスなのだという。
私がどうこうしたいは置いておいてエルフたちの思惑はわかった。正直気持ちのいい話ではないし、説明をしてくれたメイドさんはかなり期待のきらきらおめめでうんざりする。
「はぁ、でも私が地底人と来たことは伝わってないんですかね?困るだろうと手伝いに来ましたけど精霊なり、ヒューマンなりを監禁してひどい有り様を見てるんですよ私。それに加えてお願いごとまで聞かされてちょっとエルフの印象が悪いです」
さぁっとメイドさんの顔色が悪くなり土下座スタイルになる。
「幾ら神殿でも精霊様に失礼はなかったかと……ヒューマンは神殿の過失ではありますが国やエルフはそんな悪事に加担しておりません。お願いごとは建国物語に準えてそれで手を貸そうとしてくださると思い込んでいるのです」
失礼はなくともマインドコントロールはしていたし、精霊神殿はエルフしかいない宗教なんだが。顔を上げろと言ったら面倒事を押し付けられそうなので目をそらしておく。
「その建国物語がどうとかは知りませんが私は不愉快です。まずはメヌールの待遇の改善、次に今回のことへの反省が欲しい。自分は如何にも関係ないと願われるばかりですから、地底人との約束がなければ直すどころか破壊したいくらいです。すぐに用もないのに来る人を遮断してください」
扉を閉めてノック音も無視をするようにしてみた。すると壁一枚向こうにはバタバタと騒がしくなる。集中して作業をするのも億劫になってきたのでメヌールに念話を繋ぎ、昼御飯を食べに行かないかと誘ってみることにした。
『昼食ならもうもらったぞ?そちらは……ハラーコ、君は引きこもり中かね?』
『ええ、そうですが』
『廊下に、君の部屋の前に祭壇ができておるんじゃが……』
話を理解してなかったの? メヌールから見た映像として部屋の前のイメージが飛んできた。扉の前には祭壇らしきものと貢ぎ物の台座と記帳が並び、騎士っぽいのが順番の指導をしている。
『これは一体……』
『騎士によると作業の邪魔でハラーコの気が立っているので纏めて提出するとかいっておるぞ? 願い事が書かれた札はもう掲示板三枚分貯まっておるとか。聞いてやるのか?』
絵馬かよ。誰か凶ばかりのおみくじを売ってくれ。