表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/246

29日目 修繕計画

 古代ローマみたいな街並みだと言った。しかし忘れて欲しい。

 日が昇るのと同時にざわざわ聞こえてきたのでなんだなんだと窓を開けると、町人たちは家や店の前に出て体操を始めていた。ラジオ体操のようなきびきびしたものではない。どう見たって太極拳にしか見えない緩やかな体操をしているのだ。

 いい加減異文化には馴れてきたと思っていたが、まさかこんな不思議文化があるとは思わなかった。お陰様で私もメヌールも完全に目が覚めている。


「エルフの習慣は謎が多いのう」


「体には良いんでしょうが寝ている人の方がおかしいといわんばかりですね」


 ちなみにその集団体操は三十分くらいかけて行われ、帰ってきた宿屋の主人から朝食を受け取ったのは一時間以上後であった。朝から待たされてお腹は空いていたがガッツリ系だったと記録しておく。




 今日から修繕のお仕事な訳だ。本音である悪いことしている連中探しっていうのは昨日検査していない人をスキャンするだけで済むので真剣に一日中修繕について考えなければならない。

 昨日と同じようにじろじろ視線を受けながら修繕担当の指揮官なんていう可哀想な役目の人に会いに行く。長寿なだけあって皆若々しい外見をしていたが、修繕の担当者と金庫番は家に帰りたくないなんていうおじさんみたいに草臥れていた。


「地底人に言われて修繕手伝いにきた精霊のハラーコとハイヒューマンのメヌールです。よろしく」


 ヒューマンなんでいるのという国なので玉の姿の私が挨拶を受け持つ。草臥れおじさんエルフは娘に肩たたき券を貰えたように柔らかいが力ない笑顔をくれた。


「良かった。財務のエイル・ランバードです。こちらは修繕指揮のサイモン・グリーン。早速ですが地盤の整備からお願いしたいのです」


 軽く説明を受ける。エルフは生まれもっての回路が水系統よりなので土木関連は治水でもない限りめちゃくちゃお金がかかるらしい。

 うっすらわかっていたが、ファルシーラアリアは他の系統の魔法を使うために外付け回路、指輪だとか杖だとかの変換器経由で行使するように回路構築をしていた。汎用性はぐんと上がるが回路の焼き付けや構築は肉体に刻むものなわけで、新たに魔法を覚えたりするのはお高いし、外付け回路もお高い。既に持っているものも賃金が高い。結果、エルフ魔法使い高ぇ、人力しょっぱいの中で予算不足に泣いていた。

 地底人は勿論わかっていて、属性も魔力も余裕の私とメヌールを補填に置いていったわけである。なので一番コストが高い仕事から私たちに割り振られるのだ。


「地盤の整備って基礎工事ですよね。この国の基準がわからないのとどうして欲しいのか具体的にはわからないのですが」


 場所だけ地図で聞いてもそんな感じに戸惑ってしまう。黙っていたメヌールが簡易的な地図を見ながら首を傾げているのでそっちも話を聞いてみた。


「ヒューマンの建築と地下部分の差は少ないのう。建築物の下に足場を組んで埋まった地下室から土をかき出して図面通りに直していくのが普通のやり方になる。

 ただ、この埋まった部屋は大体が教会にある聖域の結界に近いものを設置する部屋じゃ。外国人が見るのも問題じゃし、壊れた魔道具がどう暴走するかもわからん。何より宮廷修繕を考えると優先度は高いがヒューマンの城基準じゃと司祭クラスの魔法使い三人が半年、土木専門の魔法使い五人で二ヶ月、素人魔法使い十人で一年そこいら魔力を注いで安定化させねばならん。

 城壁内に防衛網を構築するのを優先してするのか魔法なしで形を整えるのが先か。三日しかないのならばハラーコでも片方しかできぬと思うが」


 何言ってるかさっぱりだが、万能職正教会の司祭は建築知識もお持ちらしいことはわかった。とりあえず物質的修繕と魔法的修繕の二つのアプローチが必要で時間が足りないらしい。

 財務のエイルは悲しそうに眉を下げただけだが、修繕計画のサイモンは真っ青。サイモンにはどういうことがわかるっぽいので皆そちらに視線をやった。力なさげにサイモンは口を開く。


「どちらも大切な工事です。この島は地震も多いので物理的に整わなければ建物はすぐ潰えますし、水しか被害がないと言っても魔法的な強さがなければ会議の度にあちこちぶっ壊れます。精霊様の魔法に耐えれなくとも、エルフの癇癪程度では壊れぬ建物にしなければ非常時の避難場所にも使えません。どちらも必要でどちらも高い費用と魔力がいります」


 エルフの城は災害時避難場所でもあるらしい。天災にもパニック時の暴走にも耐えれるものでないと困るのは災害大国の記憶的に必要だとは理解できる。会議で魔法放つのはおかしいと思うけどね!


 財務のエイルはぼんやり理解したらしく悲しい顔をより悲しくさせたがメヌールは木板を取り出して図面を見ながら何やら計算を始めた。頼りになるなぁ。最初はあまり視界に入れなかったサイモンもメヌールの努力は嬉しいらしく木板を見ながらメモをとり、余った私とサイモンは蚊帳の外なので別の話を片付けることにした。


「さっきの話通りだと機密とか防衛上、地盤に手をつけるのは自国人じゃないと困りませんか?」


「最善はそうですよ。でもそうも言ってられなくなりました。先程地震の話が出ましたが、ファルシーラアリアは地底人と契約を交わしていて他国への侵略をしない代わりに火山関係の調査や予想を貰っています。今回のアラリア内戦への手出し疑惑で一時凍結。揉め事がある度に国滅亡の危機にさらされるのですよ。技術を自分たちで作り上げるか解決して再開して貰うまで防衛に特化した城は最後の命綱になります。技術流出と国どころか人種存亡、天災予想と城どちらもない今は早く城を直してしまうべきというのが議会の意向です」


 地震なんて直前にわかるだけでも凄い技術なのに地底人はかなりこの国に貢献していたらしい。国民の教育レベルというか防衛意識はそれにかなり頼っているので政府としては何もなしではいられないそうだ。政治のリスク計算は文化や知識のバランスで変わるのではっきり正解は出せないが今は未曾有の危機というか、人種的に紙防御怖いといったところ。


「ちなみに天災の規模はどんなものですか?」


「十年前の噴火では高温の灰が街に三十センチ程積もりました。城避難しなかった者は建物内で焼死か蒸し焼きです。三年前の地震では津波が島の二割を襲っています。地底人の計算によると今後百年以内にそれより規模が大きな物もくるのだとか。他にも二十センチ台の雹が降った年は石やセメントではない建物と内部にいた者に被害がありました」


 皆白くて固いローマ風とうふハウスだった訳がここにあったらしい。あの古代ローマ遺跡とダブる街並みは生き残るための立派な理由がある文化様式だったようだ。この島国も大概天災大国だなと思いながらも、それでも祖国から離れたらいいとはならないものなと納得もできる。

 そんなこの国の自然との戦いに思いを重ねていると漸くメヌールとサイモンは計算が終わったようで、筆を置いて握手していた。エルフのもつヒューマン軽視は全く見られない。


「メヌールさんの計画で両方手をつけてもらうことになりました」


 どういうことかと木板をみても私には読めなかった。メヌール脳内から拝借する。

 メヌールの計画によると、幾つか無茶を通しながら高くつくところだけつまみ食いで手伝うようだ。

 まず埋まった部屋の土の掻き出しはメヌールが簡易的な土木魔道具を作ってくれる。単純に魔法を使った汲み取り機で、分解用の粉をトイレに撒く前の時代に使っていた道具らしい。エルフが土砂に水をぶっかけて、それをポンプで汲み取る。そのポンプは私のコピペで水撒き人員の数増やすそうだ。……今気付いたがアイテムボックスにドサッとすればすぐ終わる作業だがそういう早くに片付く手伝いは地底人に悪いのでそうするのだとメヌール脳内メモが私向けに書いてある。流石です。

 次に城壁内に敷く防衛用の魔法の網。地域特性で地中だけでなく上空にも丸く被うようだが既存の編み図があるのでそれを真似して上空だけ私が担当。地中は魔道具設置場所があるのでメヌールがする。肝心の魔道具は作ったりせず修理で済ませ、無理な分は精霊神殿の旧品を掻っ払ってきて繋げちゃうそうだ。神殿踏んだり蹴ったりすぎ。修理なら魔力節約可能なのでエルフに任せる。


「まぁ、ハラーコの今の魔力なら結界の骨組みなら三日でできるじゃろう。そこからは在住の魔法使いが少しずつ埋めていく形じゃな。土砂の汲み出しが三日以内に終われば基礎部分の物理的修復に手をつける。中途半端ではあるがこの二つが一番コストがでかい。あとは高いところを出来次第回してもらおう」


 決まった説明をしながらメヌールは早速ポンプの材料を取り出し始めた。私も結界用の魔法の編み図を注文して、修繕が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ