28日目 教会出身者はずうずうしい
紹介してくれと言われたが私たちは数日地底人と会う予定はない。むしろルーナシスターズがいる妖精島で妖精やダークエルフに頼んだ方がよっぽど早いし変な貸し借りもいらないはずだ。なんでまた私の紹介が欲しいのだと聞くとそれはできなかったと既に交渉失敗の事実があるらしい。
『伴侶なく分裂した妖精はどうにも扱いが難しいらしいです。うっかり吸収して消えてしまうかもしれない存在で妖精コミュニティにも入っていない余所者で』
吸収。前に消えた妖精の欠片を思い出す。あれ、魔力吸収しただけなのに消えたあれなのかな。
意識が少しずれたが分裂してなくともコミュニティに入れていないのは私も同じだ。
『ハラーコさんは立派な伴侶もいるし成体です。コミュニティに入れていないおつもりでもダークエルフと契約してますし、今回拉致された妖精情報を渡したじゃないですか。妖精も基本的に地底人と同じく人の世に介入したがりません。でもハラーコさんの個人的なお願いなら耳に入れるまでいってくれるかと』
つまり私が知らないうちに持っていた貸しを又貸ししてくれということか。なかなか教会ルーナは図太い神経をしているようだった。
とはいえ、戦争の引き金を引いて焦る気持ちも何とかしたい気持ちも大いに共感が持てるものである。私だってずるずるガルドに肩入れして働いたのはそれであるし。のでもなぁ、ダークエルフと妖精と地底人への貸し、そんなでかいものを切ってあげるにもルーナたちと利害関係も信頼も稼げていないのだ。できればもっとお手軽に切るカードが欲しい。
『のう、ルーナ嬢。焦るのはわかるが、普通に交渉はできるはずじゃぞ。妖精は同族については激情を持つ。アデン大教会は妖精を武器にしとると言えば良いではないか』
メヌールの横やりが入った。確かに教皇は宝玉を武器にしていたがそんなにあるはずもなければアデン大教会の三つは私がむしゃむしゃしたと思う。まだ残っているのか? むしろあの大教会の話をしたら私、既に四体ほど吸収してるっぽいので同族殺しになるのでは?
肉声でヤバくないかとメヌールにつっこんで見ると何ればれると開き直られた。酷いなと思うが余裕がおありらしいので説明の面倒な理由があるのだろう。
『あの、妖精を武器にしている話ですが、余計に嫌がられませんか? 関わらなければ危なくないのに、こっちには封印の腕輪があって』
『地底人が欲しいのであろう? 妖精が来たくないのなら尚良いではないか。どんな悲惨な景色ができるかわかっているのだし。封印の腕輪も対策はできておるよ』
ひたすら魔石を突っ込むか妖精が数体アタックすれば済むだけだが。さらりと言いくるめた後、メヌールは久しぶりに黒いことを言って締めた。
『まぁ、封印の腕輪の実験結果や今の相談は貸しにしといてやろうかのう』
カードを切らずに作りやがった。じいさんも教会の人間だったのだなぁとしみじみ思う。
時間が経過して滞在許可を貰えた宿屋は城下町にある宿屋だった。宿屋と言ってもエルフセンスなのか白い柱と壁の街並みに綺麗に揃えられていてパルテノン神殿とかローマ風呂の世界のような印象で異文化を感じても全く落ち着かない場所である。
街はエルフだらけでみんな思春期みたいにチラチラ見ては目を合わせないし、街がコピペのようにしか見えない眩しい白だらけで散策なんてとてもじゃないがむりだった。
落ち着かない宿屋に缶詰め決定である。
メヌールは特に異質な物であるという視線を受けながら失礼な従業員にも我関せずで挑み、二人部屋になんとか収まった。もう面倒臭いなと室内で炊飯して怒られたりもしたがなんとかこうとかエルフの国の一日が終わる。