28日目 地底人③
ファルシーラアリア王宮。王宮のエントランスに出現した穴については誰も突っ込みはしない。元は白い宗教施設のような造りだったと思われるそこは既にずたぼろでこれくらい大差ないのか。地底人に続いてコードを持ちながら這い出たがそんな登場でも騎士っぽいエルフは椅子や机を用意してくれた。
「先に話しておくけど聞かれたこと以外はそれっぽく黙って流していて」
微妙な指示だが地底人は丸く収めるために来てくれているので頷いておくとメヌールが質問をする。
「エルフは地底人と精霊には敬意を払うと言われていますが、私はヒューマン。従者のようにハラーコの後ろにいた方が良いですかな?」
えらくへりくだるなと思えばメヌールの椅子が足りない。じいさんを立たせて玉の癖に座るのも悪いと思い席を譲る。
「メヌールじいさん、座ってよ。私は玉になれば疲れないし」
「精霊を立たせて座るのは印象悪かろう。ハラーコが座りなさい」
座れよお前こそと譲り合っていると地底人が笑う。
「エルフの概念だと妖精の伴侶は精霊に認められて神格化したハイヒューマンになる。次からはハイヒューマンって名乗っていれば椅子は貰えるよ。この期に及んでおバカなエルフに威圧するためにここは私が立って二人が座る形にしよう。きっと焦ってくれるから」
クスクス笑いの地底人が混じり三人でどうぞどうぞを再開する。横に控えていたエルフ騎士は真っ青になりながら椅子を追加でもってきたが無視。地底人はエルフにちょっと怒っているらしい。
そうこうしていると先触れが来て偉いっぽいエルフがやってきた。群青色の詰襟ワンピースで布の端が銀糸で装飾されている。事前知識的に聞かされたエルフの偉い格好どんぴしゃだ。彼は二脚の椅子を譲り合う三人に困った顔をして地面に膝をつく。
「申し訳ございません。客人は三名との連絡が伝わっていなかったようです」
三人が座るまでこのままですとばかりに地面にいるエルフに地底人は鼻をならした。
「違うだろう。現場判断で椅子くらい用意できる。この度の襲撃は精霊の怒りだけではないのがわかってないのだな。流石、協定違反の生物改変をするエルフなだけある。ヒューマンは皆家畜とでもいいたいのか」
「まさか、精霊神殿が生物改変を?」
顔をあげた偉いエルフは青ざめた顔で地底人をみた。ここからやっと話は始まる。
数百年前の大陸大戦で生物改変を始めたのはエルフだったわけで。大戦の終結時にこんな遺伝子異常を起こす技術は全てを破壊すると協定を組んで禁じたそうだ。やりはじめたら生態系もへったくれもなく文明が終わるレベルの技術だったから。
地底人は基本的に地上のことはノータッチだったのに、この生物改変技術はヤバいと地表に登場して「協定違反したら地に埋める」と宣言。宣言通り戦争継続派がこの技術に手をだしたらピンポイントでその施設を地面が飲み込んだ。大地に穴が開き吸い込まれてしまい、更地になるんだとか。
地底人は今回のヒューマン奴隷改変事件を持ち出して更地になるのは神殿だけか? ファルシーラアリア全てか? と脅しながら罪の数を数えさせている。奴隷解放条約違反、生物改変禁止協定違反、他にも密貿易やら賄賂やら、加えてアラリアから奴隷を得るために内戦の手引きしてたんじゃないの? という疑惑までつけた。
対するエルフは誓って国は関係ない。カルト宗教が悪いと否定。それなら証拠がいるよね、もうかなり放置できない情況なんだけどと地底人は常に恐喝姿勢。さとりんを使わないでもわかる。これ、ファルシーラアリアが国を挙げて調査してくれるわ。結果は改竄されるかもしれないが少なくとも終焉には向かう。強気の地底人にドン引きしながら話をふられたらその部分を話す形での参加になった。
「とりあえず調査は待とう。結果を発表できるように連合議会の召集は半年後あたりで用意しておく。
あと、精霊はうちに連れ帰るけどこちらのハラーコさんとメヌールさんには二、三日王宮の片付けを手伝って貰って。ハラーコさん、翻訳キレる?」
最後の言葉は口の動きと合うものだった。内緒のお話を日本語でするのかもしれない。こちらにきてから継続させっぱなしだった翻訳を切った。
『切りましたよ』
いつも翻訳されているので変わらないはずなのだが、久し振りの日本語はどうにも早口に聞こえる。
『人の頭の中を読めると聞いている。神殿の内通者がいないかチェックしていて欲しいんだ』
『私がやっていいんですか?』
日本人がわかる彼ならできそうだと含ませてみた。
『生憎地底人は地属性しか回路がないんだ。妖精じゃないと適性も出力も無理だと思う。これが終わったら色々答えるからよろしく』
なんだかおざなりだが任されてしまった。一番何かの正解に近い人がそういうのなら仕方がない。
地底人が謎の機械を取り出して物凄く高い音が響き渡ると穴の中に妖精たちがすぽすぽ入って帰っていった。