27日目 ルーナ姉妹
ダークエルフズと別れて、ルーナちゃんもガルドに送り、一晩メヌールと二人で過ごして新しい朝である。単純に幾ら密輸船でも夜には出港せず荷詰めの翌日早朝が出港予定だったのだ。
今回の予定はこうだ。私とメヌールの二人で隠れて密輸船に乗船。港についたらルーナちゃんの姉妹である「能天気」と「ハラヘリ睡眠娘」を転移で迎えに行き合流して全員エルフ偽装。完了したら奴隷の追跡と精霊神殿の情報集めに別れて会議。単純な移動と追跡ミッションである。しかもやたらと待機時間が長い。
船の移動が開始するとメヌールは借りてきたダークエルフ技術の研究資料を読み出して私は早々に暇になってしまった。
一人でだらだら考察するお題は幾らでもあるのだがどいつも面倒なモノばかり。最初から投げ出して昼寝したり海に潜ったりとバカンス状態である。
あんまりにも私がフリーダム過ぎたのか昼御飯を食べる頃になるとメヌールから小言を貰った。
「暇なら文字を覚えるんじゃ」
午後はガッツリお勉強かと思ったが、なんていうかそんな段階じゃないことが判明した。
文字以前にアデン語が単語も文法もダメでした。
会話は翻訳魔法が高クオリティで仕事しているし、結縄文字は文法くそくらえ的な片言単語記録。久しぶりに記憶群から言語学者を引っ張ってきたら最低でも三ヶ月、メヌールが求めるネイティブレベルの習得とか何年かかるかなと乾いた笑いを貰ってしまう。
何で私、記憶に笑われてるの? バカなの? 最近は記憶と自分がちゃんと別人だと認識できるようになっていて良いことなのだと思えるが、情報を引っ張りだすというより友人知人が頭の中にいっぱいいるような感覚だ。相談や意見を求められるとか。人はこれを精神病に分類する。はぁ。
結局私は何の収穫もないまま船で過ごし小さな島へと辿り着いた。
ファルシーラアリアは島国なのだが本島の港は外交窓口、今日きた小島は外国籍の船は入れない国内向けの島と港。数十あるうちの島の内の一つで精霊神殿のためのような島だと乗組員は認識している。多分、鎖国してる国の宮島みたいなものなのだろうと勝手に思っていた。実際に見てみると切り立った崖だらけの岩の島で敷地いっぱいに幽霊が出そうな神殿が建つだけの場所だった。
港町ないし聞き込みとか潜入は無理じゃないか。多少予定は狂うが待ち合わせ場所に向かいルーナ姉妹を連れてこよう。
「じゃあメヌールじいさん、奴隷の見張りお願いします」
「ああ、気を付けてな」
メヌールと別れてガルド大教会側の宿屋に移動した。
今回ルーナちゃんが呼び出した姉妹は分裂した時に二番目に大きな欠片だった「ハラヘリ睡眠娘」のルーナちゃん、四番目だった「能天気」なルーナちゃんだ。何をいってるかわかりづらいが分裂しただけで記憶も経験も同じ、ただ分割率と多少の性格の違いがあるだけの妖精である。
真の姿になってくれないと多少の言動の違い以外に見分けがつかないわけだ。現に指定された部屋に来ていた二人はルーナちゃん(教会)と同じ女性の姿で待っている。
「はじめましてー」
「「はじめまして」」
どう見たって知り合いのルーナちゃんが増殖しているだけだった。いくら一卵性でもこれはないなと思わせる。
「うーん、こういってはなんだけど何でまた同じ姿を」
暗に見分けをつけてほしいとお願いしてみた。
「おやつ袋を腰ひもにつけているのが二番目です」
「常にへらへら笑っているのが四番目です」
いや、わかんないよ。おやつ袋ない方も別の袋下げてるし笑ってるのは同じじゃないか。困る私に能天気らしい四番目が紐を取りだし髪を結んだ。
「一番目に私は髪を結うように言われました。二番目は腕輪を貰っています」
長女で教会に残るルーナちゃんは私のために用意してくれたらしい。もの凄くありがたいが全く別の姿は取れないのだろうか。
「元々一人でしたし、分裂後バラバラに生活しているのもそんなこと思い付かなかったしで今まで来ています。魔法開発の情熱も一番目と二番目にしかないので私たちには無理ですね」
分裂したのは性格だけでなく趣味や才能なんかもらしい。数多にあった記憶はどうなのかと聞けば、分裂してるけど今はない『記憶をつかった分裂前の記憶』は共有だったりと曖昧。教会に残って違和感が少ないのがルーナちゃんだったから残ったなんて背景らしい。
「発想力は記憶でなく共用部分みたいですよ。皆がルーナじゃ解りづらいからって新しく名前を考えてきたらみんな被っちゃいましたし」
そんなわけで名前も姿も同じままで、今では大きさ順に何番目と呼びあうんだとか。不便だ。
「とりあえず不便なんであなたはヨシミでそこで寝てる方はフタエで。
現地見たらわかると思うけど一緒に移動することになります。じゃあ幻影で悪いけどエルフ風にするね」
耳を伸ばして肌色変えて顔つきも少し変えて。寝ているフタエを担いでヨシミとメヌールの元に帰る。
時間がとれたら分裂についてもまた聞かなきゃなぁと思いつつ、密入国したファルシーラアリアへの第一歩を踏み出した。